長妻大臣配布資料

10/1の大臣記者会見での配布資料の一つに医療の確保、検疫、学校・保育施設等の臨時休業の要請等に関する運用指針(二訂版)と言うのがあります。大臣記者会見の配布資料ですから、大臣公認と言うか、厚労省公認の配布資料であるとは思うのですが、どれぐらいの位置付けになるかは私には判断できません。軽いと言っているわけではなく、やや混乱しているインフルエンザの診療方針に対してどの程度のものかと言う意味です。

前線の医師として関心が強いのは診断治療方針です。「発生患者と濃厚接触者への対応」と題されるところがあるのですが、まず「発生患者」の方です。

 発熱、呼吸器症状等のインフルエンザ様症状を有する者のうち、基礎疾患を有しない者については、本人の安静のため及び新たな感染者をできるだけ増やさないために外出を自粛し、抗インフルエンザウイルス薬の内服等も含め医師の指導に従って自宅において療養する。

 基礎疾患を有する者等*については、軽症であっても早期にかかりつけ医等に電話をし、又は医療機関を受診して、抗インフルエンザウイルス薬の内服等も含め医師の指導に従って療養する。

 なお、感染が疑われた場合は簡易迅速診断の結果が陰性であっても、あるいは結果を待たずに速やかに治療を開始する。

 また、基礎疾患の有無によらず、重症者及び重症化するおそれを認める者については、医師の判断により入院治療を行う。このとき、医師が必要と認める場合にはPCR検査等のウイルス検査の実施について保健所に依頼することが可能である。

 なお、医師の判断に資するため、厚生労働省において、医療関係者に対して、随時、最新の科学的知見等を情報提供することとする。また、速やかな受診につなげるため、国民に対して重症化の兆候及び受診の方法について周知する。

     基礎疾患を有する者等*については、軽症であっても早期にかかりつけ医等に電話をし、又は医療機関を受診して、抗インフルエンザウイルス薬の内服等も含め医師の指導に従って療養する。

     なお、感染が疑われた場合は簡易迅速診断の結果が陰性であっても、あるいは結果を待たずに速やかに治療を開始する。
感染症学会の方針に準じていると考えられ、簡易検査の結果にあまり縛られずにインフルエンザ治療薬を積極的に投与する方針と受け取る事が可能です。ここで問題なのは「基礎疾患を有する者等」の定義です。後の濃厚接触者に対する対応でも小児科的には微妙な判断を強いられるところなんですが、

基礎疾患を有する者等:

 新型インフルエンザに罹患することで重症化するリスクが高いと考えられている者をいう。通常のインフルエンザでの経験に加え、今回の新型インフルエンザについての海外の知見により、以下の者が該当すると考えられる。

 妊婦、幼児、高齢者、慢性呼吸器疾患、慢性心疾患、慢性腎疾患、慢性肝疾患、神経疾患・神経筋疾患、血液疾患、糖尿病、疾患や治療に伴う免疫抑制状態、小児科領域の慢性疾患を有しており治療経過や管理の状況等を勘案して医師により重症化へのリスクが高いと判断される者等

ここでの「幼児」はこれまでの情報を勘案すると1歳から小学校入学までの子供を指すと考えられます。この年齢層の子供が小児科で一番多い受診年齢なんですが、問題は発熱患者の比率が非常に高いことです。正直なところ臨床的には見分けをつけるのが非常に困難な事が多々あります。だからこそ検査に頼る部分が多くならざるを得ないのですが、「速やかに治療を開始する」となれば診断治療方針をよく考える必要があります。

「発生患者」の対応も難しいのですが、「濃厚接触者」はもっと難しくなります。

 抗インフルエンザウイルス薬の予防投与については特段の理由がない限り、推奨しない。その一方、基礎疾患を有する者で、患者と濃厚に接触するなどして感染を強く疑われる場合は、医師の判断により抗インフルエンザウイルス薬の予防投与を行うことができる。

まず重箱ですが、ここでは「基礎疾患を有する者」となっています。書き落としと思いたいところですが、「等」が入っていません。これをどう取るかも一つの問題です。それとさすがに積極的な予防投与を勧めていませんが、幼児の兄弟姉妹がいれば希望すれば予防投与を行なう必要があります。予防投与は自費になるのでそうは希望者は多いと思いませんが、幼児は「基礎疾患を有する者等」になっても乳児は入りません。

乳児のタミフル投与問題はこれはこれで、また一つの問題なのですが、1歳からは幼児なので誕生日次第で微妙な事は生じます。乳児への感染予防は両親も神経質になることがありますから、難しい状況に遭遇する可能性はあると思っています。



問題はやはり大臣配布資料にどれほどの影響力があるかです。とくに簡易検査陰性時の判断はその場のものになり、結果次第によってはインフルエンザと診断するとしないで大きな問題になることがあります。判断としてインフルエンザでないと診断し、結果としてインフルエンザであり、なおかつ結果が不良であった場合にどういう影響を及ぼすかです。

厚労省HPにまで掲載されたものですから、問題が生じた時に根拠にされるのはまず間違いありません。厚労省HPにリンクされている感染症学会の診断治療指針もまたそうだとも言えます。さらに他の事務連絡でも同様の診断治療指針が書かれています。行政的な軽重は意見もあるでしょうが、ここまで書かれたら従うのが妥当と考えざるを得ません。

積極診断によるインフルエンザ治療薬積極投与による責任は取ってくれそうもないの見解もありますが、積極診断・積極投与を控えた時の責任問題は確実に降り注ぐだろうと言う事です。

ただし小児科では秋から春までの間に10回以上発熱する患者なんて幾らでもいます。そのすべてとは言いませんが、かなりの割合をインフルエンザと診断し、インフルエンザ治療薬を投与して良いのだろうかの疑問は正直あります。そのたびに登校停止がセットですから、これはこれで社会問題になりそうな気がしないでもありません。働く母親にとっても大きな影響が出るからです。

もっとも、だからどうすれば良いのアイデアは残念ながら何も思い浮かびません。わかっているのは、今後も方針が変わるだろう事と、厳しい対応を迫られそうだと言う事だけです。