不思議な契約要請

一説によると10/8までに新型ワクチンの委託契約をすべて終わらせる厚労省の方針と聞きます。10/19に接種開始と決定公表したのですから、10/8に委託契約完了でもタイムスケジュールとしてはおかしくないのですが、それに伴うドタバタは私のところにも及んできました。10/6付のFax(受信は20:45)に10/8必着として「新型インフルエンザ接種委託医療機関届出」が舞い込んでいました。

ただし届出にあたり書かれている事は、

  1. 接種対象者の範囲


      自院医療従事者のみから一般来院患者まで4段階の選択


  2. 卸問屋の選択
  3. 医療機関の従業員数
以上です。これに答えて届け、さらに県医師会に委任状を送ると言うものです。正直なところ「ちょっと待った」です。これは正式の委託契約です。それも国と結ぶ正式の委託契約です。そういう契約に契約内容を明記した文章の添付がないのは誰が考えても不思議です。契約を結ぶにあたって、どんな契約であっても担当者の謳い文句と、正式の契約内容を記したものは必須かと考えます。

契約に当たっては契約内容の詳細を確認してから行なうもので、詳細は何も教えないが「とにかく契約せよ」はおかしくないかと言う事です。確かに「謳い文句」はマスコミ報道で行なわれていました。もうちょっと詳しいというか、信用できる人物の説明として厚労大臣の記者会見が行なわれています。しかしそれでも現在のところ受け取っている情報は、担当者の説明とパンフレットをもらった程度です。

これだけの情報で契約させることはトラブルの元になるので、正式の契約内容を明記したものと、担当者の説明義務が必要である事を求めているんじゃなかったのでしょうか。ですから最近は自動車保険の契約更新一つにもかなり詳細な説明が行なわれた上で契約を結んでいます。こういう白紙契約に近い状態の契約は好ましくないはずです。

大臣記者会見で配布された資料と言うのがあります。

おそらくこれらが契約内容に該当するものと考えられますが、10/1時点ではすべて
    (案)
この「案」がその後、どうなっているかは私は存じません。契約を行なうにあたっては、これを決定とし、さらに契約者に配布して判断を求めるのが筋ではないでしょうか。「案」がその後、数限りなくばら撒かれる「事務連絡」のどこかで決定に昇格したのかも知れませんが、私が知る限り正式にどうなったか存じません。

あえて正式に昇格したかすかな傍証として、一次ソースがまだ探し出せていないのですが、二次ソースはm3で、三次ソースとして旭川の薬剤師道場(ブログ)様の新型インフルエンザワクチンの医療従事者から調剤薬局薬剤師は外れるからです。

<m3.com一部抜粋>

Q:優先接種対象の医療従事者とは?(添付資料4 -- 7ページ)

  • 診療科は、内科、小児科、救急科等、新型インフルエンザ患者の診療を行う診療科を基本とする。ただし、その他の診療科であっても、新型インフルエンザ患者の診療を行う特段の事情がある場合は、対象として差し支えない。
  • 職種は、医師、看護師、准看護師等、新型インフルエンザ患者の診療に直接従事する職種を基本とする。ただし、その他の職種であっても、新型インフルエンザ患者の診療を行う特段の事情がある場合は、対象として差し支えない(保健所職員も対象、調剤薬局の薬剤師は対象外など)。

 「現場の判断で対応して差し支えない。対象者を限ってしまうと、新型インフルエンザ対策に携わっており、本来接種してほしい人を取りこぼしてしまう。一方で(対象者を限定しないと、優先接種の)対象外の人にも接種してしまう可能性が出てくる。その両方を考えた。例えば、事務職員は代替可能か否かなど、医療現場を維持することを目的に判断していただきたい。ただし、ワクチン量は各都道府県の医療従事者数に応じて配布される。今後改めて指針を示す予定はないが、Q&Aの形で示していく」(厚労省担当者)。

この個所に該当しそうなところは、受託医療機関等における新型インフルエンザ(A/H1N1)ワクチン接種実施要領(案)の中にあり、

また、診療科及び職種については、次のとおりとする。

  • 診療科は、内科、小児科、救急科等、新型インフルエンザ患者の診療を行う診療科を行う診療科を基本とするが、その他の診療科であっても、新型インフルエンザ患者の診療を行う特段の事情がある場合は、対象として差し支えない。
  • 職種は、医師、看護師、准看護師等、新型インフルエンザ患者の診療に従事する職種を基本とするが、その他の職種であっても、新型インフルエンザ患者の診療を行うは、対象として差し支えない。

「案」を基にQ&Aが作られるのも変な話ですから、どこかで正式昇格したのではないかの考え方です。ただ実施要領にせよ、実施要綱にせよ、委託契約書にせよ手許にはありません。厚労省HPを見てもありません。「案」もたまたま北海道が公開してくれたから読めたに過ぎません。読んでない医師、医療機関の方がはるかに多いのではないでしょうか。

「案」も完璧であればまだしもなんですが、幾らでも疑問は湧いてきます。優先接種証明書一つにしても、これの料金がどうであるかも不明です。医師の無料奉仕であるのか、通常の証明書と同じ扱いで良いのかも全く不明です。通常扱いなら医療機関によりますが決して安くない金額です。

もう一つあげておくと、受託医療機関等における新型インフルエンザ(A/H1N1)ワクチン接種実施要領(案)にある、

4 予防接種の実施

 委託医療機関における新型インフルエンザの予防接種を実施する場合には、次に掲げる事項に基づき実施する。

(1)接種の予約等

 委託医療機関においては、インフルエンザ患者も多数通院していることが予想されることから、優先接種対象者等の感染リスクを防止するため、接種を行う場合は予約制とし、ワクチン接種を行う時間と他の患者の診療時間を区別する。

書いてあることは悪いと言いませんが、「診療時間の区別」ができない医療機関は契約できないのでしょうか。つまりサラリと書かれているこの項目は「義務づけ」なのか「努力目標」であるかです。義務であるなら多くの診療所ではこれを満たす事は困難になります。うちも一応、一般診療と予防接種の時間帯は分けてはいますが、完全には分けきれません。

小児科はインフルエンザだけではなく、他の定期予防接種を行っています。その上に季節性のインフルエンザ接種も現在は行なっています。季節性の需要は多く、とても予防接種時間内に対応しきれません。その上に新型まで乗っかるとパンクです。それでも義務として「診療時間の区別」を行なう必要があれば、新たな診療時間帯の届出が必要です。そこまで必要なのかの問題が当然生じます。従業員の理解と協力も仰ぐ必要があります。

さらに「診療時間の区別」の目的は「感染リスクの防止」です。感染リスクは新型接種以外の予防接種でも同等のはずです。そうなれば「診療時間の区別」ができない医療機関は予防接種を中止せよと言う趣旨にも拡大解釈出来ます。当然の質問として「どうなんだ」が出るのですが、おそらく返答はないと思われます。

悪意に取れば「契約に明記したから、トラブルの責任は医療機関」の伏線だけ張っているように見えます。


ワクチン卸価格も謎のままで、接種価格のみが担当者のセールストークやパンフレットに踊っているだけです。これも正式契約段階では当然提示されるものと考えていましたが、契約内容さえ不明の状態とは本当に畏れ入ります。たぶん契約後に次から次から押し寄せる事務連絡で無理やり整合性を取っていく方針と思われますが、正直なところ余りにも杜撰です。

政権が変わり、大臣が変わっても、今年の冬により一層の混乱が起こることだけは変わらないようです。さて、どうしようか明日まで考えます。