タイムスタンプ

正直なところ、ウチの様なツブクリでも結構忙しくなっており、ブログの更新が困難になってきています。今週も極限の綱渡り状態で、来週以降は適宜休載の日も出てくる事を先にお断りしておきます。今日も本音では「無理」状態なのですが、軽量級の話題でつなぎにします。


10/15付時事通信(Yahoo !版)より、

新型インフルで5歳男児死亡=疑い例含め27人目−横浜

 横浜市は15日、新型インフルエンザに感染し、重症肺炎や急性心筋炎を発症した同市都筑区在住の5歳男児が同日死亡したと発表した。国内の新型インフルエンザ患者の死亡例は、疑い例も含め27例目。基礎疾患はなかった。

 横浜市では先月17日にも気管支ぜんそくの基礎疾患があった12歳の男児が死亡している。

 市によると、男児は今月12日に発熱。翌13日に自宅近くの医療機関を受診して簡易検査でインフルエンザA型陽性と診断され、タミフルを処方されて帰宅した。

 しかし、同日夕から多呼吸となったため、午後9時ごろに別の医療機関を受診。再びタミフルを処方されたが、呼吸障害と低酸素血症を発症、さらに別の病院に転送されて集中治療室で人工呼吸器を装着して治療した。14日には遺伝子検査で新型インフルエンザと確認され、2回タミフルを処方されたが、重症肺炎と急性心筋炎を併発し、15日未明に死亡した。

亡くなられた5歳男児及び12歳男児の御冥福をお祈りします。わざわざエントリーにして取り上げるほどの問題があるわけではありませんが、ほんの少しだけ気になった部分があったので、お付き合い下さい。

10/12は体育の日で休日であり、受診したのは翌日の火曜日という事になります。受診した医療機関では、
    簡易検査でインフルエンザA型陽性と診断され、タミフルを処方
男児の受診時の他の症状の記載が無いので断言は出来ませんが、この時点では他に選択枝の無い治療と考えられます。おそらくですが、男児は午前中に最初の医療機関を受診した可能性が高いと考えられ、これもおそらくですが朝と夕の2回分のタミフルを内服した可能性が高いと考えられます。しかし症状が悪化したようで、
    同日夕から多呼吸となったため、午後9時ごろに別の医療機関を受診
「午後9時」となっていますから、救急医療機関を受診した可能性が高いと考えられます。次がちょっと難しいのですが、考えられるのは症状が増悪しているために増量投与の処方が行なわれたと思われます。これも治療の選択枝としてはありえます。ただ増量されたタミフルを服用したかどうかは微妙で、
    呼吸障害と低酸素血症を発症、さらに別の病院に転送
救急医療機関が急病診療所であれ、二次救急病院であれ同じと考えますが、診察した医師が処方された薬剤をその場で手渡しする可能性は低いと思われます。時間外であっても処方箋は薬剤師なりに回り調剤される可能性が高いと言う事です。さらに言えば、どこの救急医療機関もヒマでお茶を引いている可能性は低く、「呼吸障害と低酸素血症を発症」は診察終了後、調剤を待っている時間に進行したと考えます。

あくまでも推測ですが、増量されたと考えられるタミフルは、「呼吸障害と低酸素血症を発症」の時点では服用してなかったんじゃないかと考えています。症状の悪化に気が付いた医師は直ちに転送措置を取ったと考えられ、こういう状態の5歳男児に、タミフルの内服は容易じゃないからです。またこの医療機関で処方されたタミフルは転送先の医療機関に持って行ってない可能性が高いと考えます。

転送後の経過は、

    集中治療室で人工呼吸器を装着して治療した
状態がかなり悪くなっている事がわかります。その後も残念ながら状態は回復せず、
    重症肺炎と急性心筋炎を併発し、15日未明に死亡した。
10/12の夜に転送入院していますから、2日後には死亡の転帰です。重症肺炎に加え、急性心筋炎まで併発となると手の施し様がなかったのではないかと推測されます。その間の治療ですが、ここは症状の悪化に対してさらなる増量投与を2回行ったと考えます。生死の境ですから、副作用にある程度目を瞑っても取りうる選択枝と思われます。


ただこの記事は改変があったようです。現在確認できる記事は、

これがうろうろドクター様が読まれた時は、同一記事である事が確認できるかと思います。うろうろドクター様が読まれた時の内容は、

新型インフルで5歳男児死亡=タミフル4回処方、27人目−横浜

 横浜市は15日、新型インフルエンザに感染し、重症肺炎や急性心筋炎を発症した同市都筑区在住の5歳男児が同日死亡したと発表した。国内の新型インフルエンザ患者の死亡例は、疑い例も含め27例目。基礎疾患はなかった。男児は4回タミフルを処方されていたが、リレンザは処方されていなかった。

 横浜市では先月17日にも気管支ぜんそくの基礎疾患があった12歳の男児が死亡している。

うろうろドクター様が全文を引用されたかどうかが不明ですが、記事内容を読んでも同じニュースを伝えているのが確認できます。気になるのは、

他にも相違がありますが、この記述が削除されているのがわかります。このリレンザの投与は非常に微妙な問題となります。リレンザは御存知の通り、パウダー吸入式のインフルエンザ治療薬です。人工呼吸器装着状態では投与が非常に難しくなります。タミフルなら内服ですから、胃までチューブを挿入して捻じ込むなり、肛門から捻じ込むなりで投与は可能ですが、リレンザ投与ならどうするかになります。

呼吸管理中、それも相当厳しい状態の患者にパウダーのままで投与するのは非常に難しいと思います。いろいろ考えたのですが、挿管チューブにこびりついて肺まで吸入させるのは技術的に無理ではないかと思われます。それでもとなると裏技が必要になります。裏技とは保険と言うか医学でも必ずしも一般化していない手段を取ることです。

比較的まだポピュラーな方法として、リレンザを溶解してネブライザーで吸入させると言う方法です。どこかでペーパーを読んだ気がしますし、日本でも一部の医療機関で行なわれたことがあると聞きます。しかし呼吸管理中となるとネブライザーでも投与は相当難しそうに思います。長いこと人工呼吸器を操作していないので知識が怪しくなっている部分はありますが、ネブライザー方式でも投与は容易じゃないと考えます。

そうなれば溶解したリレンザを直接気管内に投与するという方式が考えられます。ただこれは考えられるだけで、そういう治療法が成立するかとか、有効である根拠があるかと言われれば存じません。投与量の設定と、投与による呼吸への影響を考えると、この方式も実際の臨床現場で実行されるかと言われれば難しそうな気がします。

最後の裏技として、溶解したリレンザを注射により投与したと言うのがあるそうです。どこかで読んだのですが、効果はあったと書いてあったと記憶はしています。ただし私の知る限り、ネブライザー投与よりさらにマイナーな裏技手法であり、これも実際の臨床現場で取りうる選択枝になっているかと言われれば疑問符が付きます。

前提として5歳男児の症状の悪化は急激であり、通常の方法でリレンザを吸入する時間的余裕はなかったと判断して良さそうです。NICUレベル、インフルエンザ治療の最先端レベルで、私が愚考したようなリレンザ投与が行なわれているのか、それとも他の方法で投与可能なのかは残念ながら知見がありません。私の知見レベルでは相当難しいのではないかと考える次第です。御存知の方がおられれば情報下さい。



私が考えたような情報が入ったのか、そうでないのかは知る由もありませんが、時事通信は記事を訂正しています。訂正する事自体は悪いとは思いませんが、うろうろドクター様が読まれた時と、私が読んだ時には記事内容がかなり異なっています。誤字脱字の訂正レベルでない事は明らかだと思われます。ウェブ記事はそういう訂正が容易に行なえる長所があるのですが、訂正したのなら訂正した事を表示すべきではないでしょうか。

この辺の慣行は不明ですが、誤字脱字レベルなら元のタイムスタンプのままでも良いかもしれませんが、ある程度以上の加筆や情報の修正を行ったのであれば、タイムスタンプぐらいは更新するのが正しい情報提供のあり方の様な気がします。速報情報はどうしても正確性に劣るところがあり、続報により修正する姿勢事態は非難されるものではありません。

ただ修正したら修正したで、その事は何らかの方法で示すべきと考えます。ウェブ記事はタイムスタンプと言う便利なものがあるのですから、これぐらいは更新すべきと思われます。単にそれだけの事なんですが、しばしばタイムスタンプを更新せずに記事を大幅に書き換える行為があるように思いますから、気になった次第です。