奈良事件第4回裁判・原告側主張再検証

私は脳外科は門外漢なので是非ヘルプが欲しいと考えています。ヘルプが欲しいぐらいなので知見不足の部分はあると思いますが、再検証をしてみます。

原告側の仮説の核心部分をお決まりの日々様の第四回口頭弁論準備メモ1(大淀事件17 その1)から引用します。

被殻部出血による生命中枢に与える進行のメカニズムから考えると、少なくても発症した0時からしばらく経った1時、あるいは3時ぐらいのまでの間はJCSが200と反応している状態であるから、早期に診断して、治療は開頭による血腫除去施術しかない、そして血腫除去手術自体の一般的な生命予後の死亡率は20数%なので、我々が何度も言っているように、0時からほどなくの時間で、搬送して手術していれば、充分助かった!

 被告の方の状態だが、夜間であっても医師が常駐していて、30分ないしは40分で脳のCT検査は可能であった、

原告側の脳手術時期の主張は

    発症した0時からしばらく経った1時、あるいは3時ぐらいのまでの間・・・0時からほどなくの時間で、搬送して手術していれば、充分助かった
つまり
    3時までに脳手術で血腫除去を行なえば助かった
この主張だけでヤマのような反論があるのは今日は抑えて、現実的な時間設定でそれが可能かを考えてみたいと思います。

看護記録からの原告側「脳出血」時の状況ですが、

時刻 症状、処置
0:00 こめかみが痛いとの訴えあり。発汗を認める。脱水気味。BP 155/84 HR74/min.。産婦人科医師に報告。点滴をnormal  saline 500ml に変更指示あり。
0.10 胃液嘔吐あり。産婦人科医師に報告。プリンペラン1A 側管より投与の指示あり。よびかけに応答があり、開眼する。
0:14 突然の意識消失、応答に返事なし。SPO2 97%,産婦人科医師に報告、すぐ来室。BP147/73,HR73/min.



産婦人科医師の診察。瞳孔、左右差なし。対光反射もあり偏心も認めない。血圧も安定し呼吸も安定。痛覚刺激に顔をしかめて反応。念のため内科当直医(経験6年の循環器内科
医)に診察を依頼。



内科医師すぐに来室、患者の概略を説明のうえ、ヒステリー発作の可能性も含めての診察依頼。内科医師は一通りの診察を行い、「失神発作でしょう」と答えた。この記載はカルテの医師記載欄および看護日誌にも記載あり。ここで産婦人科医は内科医に「頭は大丈夫?」と質問した。内科医は肯定も否定もしなかった。(おそらく頷くか何かのジェスチャーをしたのではないか。これは推測)バイタルサインもよいので経過観察ということで意見一致。



産婦人科医はここで陣痛と家族の期待に対する精神的負担による失神かと考えたので、主人に「今までこんな失神のような事なかったか」と質問すると、「なかった」と主人答える。尿失禁を認めるも、全身状態安定。産婦人科医が主人に「全身状態が良いのでこのまま様子を見ます」と伝えた。
0:25 BP148/69mmHg,sPO2 97% ここで一旦、産婦人科医と内科医が分娩室をでて、当直室に帰る。


0:14の「突然の意識消失」の報告を受けて被告産科医が病室を訪れ、さらに内科医の対診を依頼しています。二人が診察を終了し退室したのが0:25です。もし原告側の主張する「脳出血」の可能性を考えての対応を行なったとすればこの時点となります。つまり現実では「全身状態が良いのでこのまま様子を見ます」が「脳出血の可能性もあるのでチェックします」に変わったと仮定される時です。

当然ですが二人が退室するときからCTスタンバイがスタートする事になります。ここで当時院内にいた医師がCTを果たして操作できたかの問題がありますが、今日はその点は目を瞑って、産科医は出来なかったそうですから、内科医が出来たとして準備にかかるものとします。0:25に退室ですから0:30からCT室でスタンバイが始まったとします。ここで原告側の主張では、

    30分ないしは40分で脳のCT検査は可能であった
当時(今も同じと思われますが)の事件病院のCTはかなり旧式でスタンバイまで1時間程度かかるとの情報もどこかにありましたが、ここは原告側の主張を入れ、患者のCT室への移動時間も含めて40分後に撮影が開始されたとします。そうすれば、患者のCT撮影開始は1:10となり、撮影時間を5分とすれば1:15にCT検査終了となります。

撮影中のモニターからも脳出血所見は確認できると考えますが、家族への説明が必要ですから現像時間が必要です。これが5分として1:20、そこから看護婦詰所のシャーカステンのあるところに家族を集め説明開始するまでさらに5分は必要です。つまり家族への病状説明は1:25になります。

家族への病状説明と原告側の主張する「脳外科だけの病院」への転院説明に10分は必要でしょう。ここでは脳手術優先のために胎児を非常な危険な状態に置かなければならない説明と、それへの家族了解が必要ですから10分でも短いぐらいです。そうして了解を得るのが1:35となります。

その次の段階で搬送先探しとなるのですが、そうは問屋はおろしません。1:37に突然の痙攣発作が発生します。この時点での現実の動きは、

時刻 症状、処置
1:37 突然の痙攣発作出現。当直室の産婦人科医を呼ぶ。BP175/89mmHgと上昇、水銀血圧計でBP200/100mmHg。SPO2 97%、いびきをかき始める。強直性の様な痙攣を認める。産婦人科医は強直性の様な痙攣と血圧の上昇から子癇発作と診断、すぐにマグネゾール20ml 1A 側管より静注すると痙攣はおさまった。引き続き微量注入装置を使用し、マグネゾールを20ml/hr. のスピードで点滴を始めた。
1:50 内科当直医を呼び出し、循環器系の管理を依頼するとともに、バイトブロック咬ませ、口腔内と鼻孔を吸引した。バルーンカテーテルも挿入した。この時点で、母体搬送を決断し、奈良医大附属病院に連絡し、当直医を呼び出して搬送を依頼した。


現実では産科医は子癇と考えマグネゾールを投与していますが、「脳出血」の前提ですから他の薬剤を投与すると置き換えますが、「脳出血」であっても時間経過は大差ないと考えます。つまり産科医が搬送先を探し始めるのはやはり1:50になるということです。

ここで原告の主張にある「いくらでもある」と主張している脳外科だけの病院に入院要請を行なったとして、そのやり取り時間が10分は必要です。そこから搬送のために必要な書類を調え、救急車を呼び寄せるまでこれも10分は必要です。そうなると事件病院出発は2:10になります。搬送時間は病院により異なりますが、これも10分で到着したとして2:20。原告側が主張する「3時」のタイムリミットまで後40分です。

ここである脳外科の医師に「被殻出血」の手術時間はどの程度か聞いてみました。

腕にもよりますが、
入室から開頭でまで1時間、
血腫をとるのに1時間
閉頭に30分と行きたいところですが
なんだかんだ言って5時間くらいかかってしまうことも多いです。
もちろんこれより早い方もいるでしょう。

原告側の主張どおり動いてもやっぱり間に合わないと考えますが、いかがなものでしょうか。