今日は煙突掃除様経由で僻地の産科医様のところ上げられている、裁判の準備書面を読んでみます。文面からして原告側の主張に対する被告側の反論のようです。少し整理が悪そうなので、原文を適宜引用しながら再整理してみたいと思います。
まずは原告側の主張です。
0時から0時14分直後の意識消失が回復せずに高血圧が持続しているので、脳内病変を疑って脳CT検査を行い脳内出血と診断すべきであり、基幹病院に転送するのを怠った。
原文では3つに分けていましたが、わざと一つにまとめています。焦点は0:00〜0:14の間の症状で
- 脳内出血の可能性を考えられるか
- さらに子癇を否定出来るか
被告側の反論の第一段階は原告への直接の再反論で総論的な部分です。原告が脳内出血を明らかに疑わなければならないと主張したのに対し、
- 0時14分時点で脳内出血が発生しており、それを疑うべきであったとする具体的根拠を示せ。
- 因果関係についてCT検査実施後に求める対応の具体的内容をを求める。
続いてCT検査を行い「脳内出血」が診断されたと仮定して、具体的にどのように治療手順が変わり、患者の予後が変わる可能性があったかを示せと要求しています。ここは言うまでもなく因果関係の立証の要求です。
原告側が起した訴訟ですから、被告側の「注意責任義務違反」と「因果関係」を立証しないと話が成立しません。その点ついての気分は第4回裁判でも原告側は主張していますが、余りにもアバウトな主張であり、それだけでは立証が十分と言えず、もっと具体的な根拠を出せと要求しています。
この後は各論的に被告側の主張を展開しています。各論と綺麗に分けれるほど明瞭ではないのですが、反論の補強と考えて読んで見ます。
まず0:00時点の症状ですが、
- 頭痛(血圧上昇でも起こる)
- 嘔吐(分娩経過でも考えられる)
- 血圧上昇(155/84)
- 意識消失
直ちに脳内出血を疑う症状ではない
続いて0:14ですが、
ここでの意識消失は瞳孔異常もなく痙攣も伴わないことから、脳内病変有無について内科医の指示を仰いだ
産科医の独断で治療を行なったわけではなく、当時の院内で出来るだけの協力を求めて判断を下した事を主張しています。
そこから1:37の強直性痙攣に至るまでの経過はレトロスペクティブに再検討しても、
1時37分の痙攣にいたる経過は子癇の症状によるもの。子癇の症状にすべて当てはまる。
もちろんこれは被告サイドに立っての分析ですが、子癇と診断して矛盾すべき点はなく、あえて脳内出血と考える材料がない事を主張しています。
この主張の展開の下、
原告は0時14分直後の意識消失が回復せず高血圧持続したときにCT検査をし、転院すべきであったと主張する。CTで脳内出血と確定診断をした後の転院でなければならない。強直性痙攣以前のCTと転院希望はおかしい。
簡略すぎるので、これまでの主張と合わせます。原告側の主張は0:00〜0:14の間の症状で脳内出血を明らかに疑わなければならないとしていますが、現実の症状は脳内出血を強く疑う症状では無かったとし、脳内出血の可能性を考えてCTなどの次段階の検査に進むか否かも独断ではなく内科医の協力を仰いだ上での判断です。
さらに1:37の強直性痙攣までの経過も子癇と考えて矛盾する症状は無く、この経過を持って脳内出血を疑い、0:14の時点でCTと転院治療を主張するのは合理的根拠を欠くと解釈しても良さそうです。
次の部分は総論の反論部分の直接の補強と考えます。
0時14分に意識なし、高血圧。ならばどの時点で検査が出きたか。診断可能であったなら根拠を明確にすべきだ。子癇でも脳内出血はおこりえる。
どちらにしろ帝王切開をしなければ子供は助からなかった。いつすればよかったのか。
二つの部分で具体的根拠を求めています。
- 0:14時点の脳内出血を疑う根拠
- 子供を救うための帝王切開術施行の時期
帝王切開手術の時期については、第4回裁判で原告が主張した「どっか近所の脳外科病院手術説」に対する具体的な説明を要求していると考えます。妊婦で無ければ原告側の「どっか近所説」は説得力がありますが、陣痛発来中の妊婦ですから、医療として胎児の救命も考慮しなければなりません。母体優先の原則があるとしても、陣痛発来中の妊婦の脳出血治療のためには妊娠中止、すなわち帝王切開で胎児を娩出させることが優先されるわけであり、これも広い意味の母体優先です。
「どっか近所説」を主張するにしても、胎児をどこかで娩出させなければならないわけで、原告の主張が、
どちらのタイミングで考えているかを明瞭にせよの主張です。ここでこの二つを同時進行で行なえない事は事件の大前提です。死因は脳内出血だが、妊婦は妊娠中毒症だった。名前が変わっただけで対応方法に変更はない。
ちょっとここは自信が無いので論評を差し控えます。次はまとめ的な主張と考えます。
- 妊娠中の頭痛、血圧上昇、意識消失すると多くの妊婦が子癇である。
- 子癇、致死的脳出血があっても子癇の対応が優先される。
- 昏睡状態もしくは脳幹に出血があった場合は手術は行わない。
1.は0:00〜0:14の症状についてと考えられ、そういう症状が出る時には確率的に子癇の可能性が非常に高いことをまず主張しています。
2.は子癇でも脳出血が合併する事を指摘し、その脳出血が今回の事件のような致死的なものであっても子癇治療が優先されることを主張しています。
3.は脳出血自体の治療の適用で、おそらくガイドライン準拠と考えますが、今回の妊婦のようなケースでは手術適応も基本的に無い事を主張しているかと考えます。
仮に0時14分にCTをとって、1時に結果が出て、同センターに2時に転院し、4時に手術をしたところでその時点ですでに脳ヘルニアはおこっており助からなかったと思われる。
ここは被告側が今回の事件を下敷きに、もっとも素早い脳出血対応のモデルケースを提示した部分と考えます。つまり、
同センター到着から手術開始まで2時間は国循をモデルに設定しているかと思います。被殻出血で脳ヘルニアの進行を止める開頭まで1時間必要ですから、5:00の時点では救命できないとの主張かと考えます。次回は争点整理の予定ですが、これについての原告側の反論もあるかもしれません。次回でなくともいつかは原告側は被告側の主張する
- 0:14の時点で子癇を絶対的に否定し、脳内出血を明白に疑う具体的な根拠
- 0:14の時点でCTを行い、1:00に脳内出血の診断がついたとして、そこからどうやって妊婦を救命するかの具体的な治療手順の提示
- 脳手術を行なう上でも問題となる胎児の娩出時期の提示