哲也さんとの三回目のツーリングだ。デカンショ街道から国道百七十三号までは走ったことがあるけど、
「ここで右折します」
クロスしてるのは国道九号だよね。しばらく走ると、
「キリノのガソスタのところを入ります」
あそこだな。入ってみるとこれは抜け道と言うより裏道だぞ。空いているのが取り柄みたいな道だったけど、
「この信号で左折です」
へぇ、国道二十七号ってなってるから、これを走って行けば西舞鶴まで行けるはず。それより走りやすいな。路側もゆったりあるし、急なカーブもないもの。緩やかに登って行ってるけど、これならなんの問題も無いものね。さすがは国道だ。もっとも最近に整備されてる感じもするけどね。
登り切ったら下りになるのだけど、下ったところにあるコンビニで休憩。ここはコンビニにガソスタが併設されてるのか。
「逆でしょう」
それもそうか。休憩しているとバイクも良く走ってるぞ。ここも人気のあるツーリングコースなんだろうな。そうなるのは走っただけでわかるもの。ここからだけど、
「そこの信号を右に入ります」
南丹美山って書いてある方だよね。南丹って南丹波の意味だと思うのけど、ここが南っておかしくないのかな。
「ここだけならそうなのですけど・・・」
南丹市ってのも広いらしくて、北はこの辺だけど南は亀岡の北側、篠山の東側になるんだって。
「園部が中心になるとすればわかりますよね」
わかんない。園部ってどこなんだ。とにかく京都府では京都市に次ぐぐらい広いんだって。田舎の広域合併は地域事情で必要なんだろうけど、こうやって道路標識をアテにして走るバイク乗りには不便だよ。だって、地名を見たってどこかわかんないもの。
その南丹美山って方に出発したのだけど、完全なるカントリーロードで快適だ。なんか湖みたいなのがあるけど、由良川のダム湖だって。由良川ってのもあちこちに流れてるよな。さらに走って行くと、
『美山かやぶ由良里街道』
こう書いてある看板があったけど、看板に偽りありだ。だってさ、かやぶき屋根みたいな家は見えるけど、現実はトタンとか瓦になってるじゃない。
「かやぶき屋根の維持は大変ですから・・・」
二~三十年ごとぐらいに屋根の葺き替えが必要になるらしいけど、その費用が軽く一千万円って聞いて腰を抜かしそうになった。それだけあったら家が建つものね。だから元かやぶき屋根になってるで良さそうだ。
それにしてもザ農村って感じがする。南北を山に囲まれて、真ん中に川が流れていて、その両側に田んぼが広がってるものね。日本昔話に出て来そうな風景じゃないか。断続的に集落みたいなものがあるけど、こういう道のツーリングは好きだな。気持ち良く走り抜けて突き当りになったけど、
「ここは左です」
クロスしているのは国道一六二号で、左が小浜、名田庄、右が京都、京北ってなってるけど、こんなところから京都に行けるの?
「国道一六二号は周山街道になりますから・・・」
なるほど・・・て、わかんないよ。かつての鯖街道の一つだって言うけど、京都って日本海から鯖を運んでたって言うのかよ。でも哲也さんが言うには本当にそうだったみたいで、塩鯖を運び込んでそれで鯖寿司を作ってたそう。鯖寿司は好きだぞ。
国道一六三号も走りやすい道だけど、走って行くとカントリーロードじゃなくて山の中の道になってく感じ。山にどんどん近づいて行くから予想通り登り、それもこれは峠道のはずだ。だってモンキーの心臓が吠えてるもの。
モンキーにはタコメーターはないから回転数なんかわかんないけど、体で感じれるところはある。エンジン音も大きくなるのだけど、シートが震えだすんだよね。その辺が限界と勝手に思ってる。
とは言うもの、それを目安にシフトアップしたら、今度はガクンとパワーが落ちる事も珍しくもない。とは言うものの、その辺が一つの限界なんだろうな。国道一六三号もバイク乗りが多そうだけど、
「大型は良いぞの世界です」
これは排気量マウントをする人の決めゼリフらしいけど、馬力の差は歴然としすぎてる。鈴音たちを追い抜いていったバイクもいるけど、すぐに見えなくなったもの。こっちがこんなに頑張ってるって言うのにだ。
こういうとこを駆け抜けるだけだったら大型のパワーは素直に羨ましい。それは目に見えてわからされるのよね。
「それはそうですけど、大型と言えどもその真価を発揮できる部分は限られてます」
これは強がりではあるけど、実際もそうだと思うようにしてる。普段の取り回しの厄介さを置いといても、無暗に大型のパワーを発揮しようものなら事故もあるだろうけど、
「免許が飛んできます」
こんな道にネズミ捕りがいそうな気はしないけど、白バイはどこからともなく現れるもの。その点で言えばハンターカブは安全だ。全力で走ってもこれぐらいだもの。おぉ、お約束のトンネルだ。これを抜けたら下りにもなるけど、
「福井県に入りました」
これが今日の最大の目的かも。福井県だぞ。それも神戸からモンキーで福井県だ。だからどうしたって言われるかもしれないけど、嬉しさが込み上げてる。下りのワインディングを走って行ったところで休憩。
道の駅名田庄ってなってるけど、これは立派な道の駅だよ。定番の食べ物屋さんとか、特産品売り場もあるけど、駐車場を挟んであるビルってなんだよあれ。流星館ってなってる。さらにその隣に木造の曰くありそうな建物もあるじゃないか。なんか銀閣寺の出来損ないみたいなものもあるけど、
「この近くに土御門家の墓地があるそうですから、それに因んだもので良いはずです」
そっか・・・ってなるわけないだろうか。もうちょっと突っ込んで聞いてみると土御門家って安倍晴明の子孫の家なんだって。安倍晴明なら知ってるぞ。日本最高の陰陽師で式神を駆使して平安京に祟りをなす者を征伐した人だ。
哲也さんが言うには陰陽師は悪魔祓い的な仕事もしてたけど、暦を司るのも仕事だったんだって。だからビルが流星館で、木造の建物が暦会館ってなってるのか。ちなみに流星館は宿泊施設だとか。泊りに来る人も多いのかな。
そうそう土御門家って延々と続いて行って、江戸時代も生き残り、明治でも子爵、貴族院議員として活躍して、今もあるって言うから驚きだ。やっぱり陰陽師やってるのかな。思わぬ施設に驚かされて出発。またカントリーロードだ。ここも快走だ。だけどクルマも増えてきた。つうかさ、さっきの峠道、
「堀越峠です」
あそこを越える道はガラガラだったのよ。哲也さん曰く、今でも京都と結ぶ道ではあるけど、クルマだったら湖西から来るのじゃないかって。さらに言えば、
「小浜も良いところですが、わざわざ観光で訪れる人はどうしても限られます」
クルマでの観光となると、どうしても高速利用を考えるからか。大型バイクだってそうだろうけど、バイク乗りの感覚はだいぶ違うはず。だからクルマよりバイクが集まる道になってるかもだって。そうこう話してるうちに小浜の街に近づいて来た。向こうに見えてるのがそうのはずだけど、
「この信号は直進して二つ目の橋を渡ります」
ふむふむ、まず踏切があって、これが一つ目の橋で、これが二つ目だから左だな。そこから道なりに進んで行くと。
「ここです」