ツーリング日和23(第23話)高松街道

 フェリーが着いたのは高松東港。予定の十三時十五分には着岸したけど、そこから下りてスタートできたのが十三時半だ。フェリーターミナルから四車線道を南に下って国道十一号に入った。西に少し進んだところで国道十一号は南に曲がるのだけど、これが片側三車線なんだ。

 道の両側にビルが立ち並んでるから高松の中心街みたいなところで良さそうだ。さすがは四国でも指折りの大都会だ。

「高松は支店の街とも呼ばれとった時代があったからな」

 全国規模の企業が四国に支店を置く時にまず高松だったからだって。この片側三車線の道を南に下って行くと今度は西に曲がるんだ。真ん中にある高架の道は?

「オレらに縁がない高松道や」

 やっぱりそうか。だけど、

「あったあった、こんぴらさんの方に行くで」

 今度は国道三十二号でここも片側二車線の道だ。江戸時代の高松街道もおおよそはこんなルートだったらしい。とはいえ旧街道の情緒はないな。これは仕方がない。どこかに残されているとは思うけど、それを調べて走る余裕が今日はないものね。

 でさぁ、でさぁ、フェリーターミナルからここまで走って来て思ったのだけど、香川の道って稲美町と似てる気がするんだよ。だってさ、

「あれやろ、ランドマークが見えへんからやろ。讃岐平野も平たいから山が遠いもんな」

 それそれ。神戸に住んでると常に山と海を意識て方角を決めてるのよね。それぐらい南北の幅が狭いのだけどね。とくに六甲山は常に頭に置いてる気がする。

「六甲山言うより、登り坂やったら北に向こうてるやろ」

 あははは、そうかものね。だからこれだけ平たいとそれだけで迷子になりそうなんだ。

「東京なんかもっと広いやんか」

 千草も行ったことあるけど眩暈がしそうだったもの。だって、だって、

「オレもそうやった。電車の路線図見ただけで途方にくれそうやった」

 コータローはお台場に泊まったそうだけど、東京タワーに行きたくなったんだって。千草らの頃の修学旅行は北九州だったものね。

「高校も東京やなかったし」

 千草もだ。それはともかくコータローはホテルのフロントで東京タワーへの行き方を聞いたそうだけど、

「そうやねんけど簡単に答えが帰って来んねん」

 それぐらいあれこれルートがあるのが東京だってこと。さらに、

「行って見たらとにかく遠いのにウンザリさせられた」

 わかる。距離感と言うか、時間間隔が関西とは違うもの。乗り換えだって大変で、

「地下鉄にも乗ったんやが、どこら辺におるかの感覚が完全にあらへんかった」

 それは仕方ないよ。あいうものって、地名とかでおおよその推測をするのだけど、東京の地名って、

「なんか名前だけはなんやかんやで見覚えがあっても、それが東京のどの辺なんかさっぱりわからんものな」

 思いっ切りお上りさん気分を味わったのか。千草もそんな感じだったのよね。とはいえ金毘羅参りであれば国道三十二号に入れたら九割ぐらいはだいじょうぶだみたいなんだ。道は市街地を抜け郊外に入り道の駅で、

「ちょっと休むで」

 コーヒーブレークと生理現象の解消だ。コータローはナビとにらめっこしてるけど、

「この道で琴平町まで行けるんやけど・・・」

 そこから琴平町に入って金刀比羅神社に行くことになるのか。この道はバイパスみたいな感じの道だけど、

「県道二八二号から県道二〇六号の道が金毘羅さんに行く道みたいやねん」

 それだったら県道二〇〇号に乗って曲がったら良さそうだけど、

「そうやねんけど、こういう道って国道三一九号から行く気もするねん」

 後は行って見て考えないと仕方がないよ。琴平町内もゴチャゴチャしてそうだから、道路案内を見て判断するしかないもの。川を渡ったからそろそろ何か出てくるはずだけど、琴平まで四キロか。へぇ、社会で習った満濃池ってこの近くにあるのか。てなことを思ってたら琴平まで三キロだ。

 また川を渡ったけどここもまんのう町ってなってるぞ。さてと次の道路案内は、あれっ、琴平は右ってなってるけど、国道三一九号じゃないの。コータローの予想が当たったみたいだ。雨になったら困るんだけどね。

「この天気予報で雨なんか降るか!」

 この交差点のはずだけど、これってどう曲がるんだよ。

「ぐいっと曲がるみたいや」

 ホンマかいなと思ったけど、合ってるみたいだ。これはわかりくいな。それでもってついに対面二車線か。琴平まで1キロってなってるからもう市街地に入ってるはず。おお、ここからが琴平町なのか。次の道路案内には琴平町街ってなってるけど、

「ここはやめとこ」

 千草もそう思う。だって金刀比羅神社って絶対に書いてあるはずだもの。うん、あったぞ、こんぴらさんて書いてある。次の信号を左だ。ローソンの角だな。この辺は旧市街って感じだけど、どこにバイクを停めるつもり。

「そんなもん行って考えるに決まってるやろ。とにかく行けるとことまで行って見る」

 踏切を渡って、あれっ、路面がアスファルトから石畳に変わってる。もうそろそろ感が溢れてるんだけど、突き当たって右って出て来たけど、あれって右に曲がれないってなってるじゃない。

「よう見てみい。大型車だけや」

 ホントだ。でもわかりにくいじゃない、でも曲がったらなるほどだ。こんなところに大型車が走られたら迷惑だ。さてさて、ここを曲がるで良さそうだ。ほぉ、ここは江戸時代の門前町の雰囲気があって良い感じだ。だけどこの石段って、

「始まりやと思うけど、そこの喫茶店の駐車場でターンさせてもらお」

 どうもなんだけど、金刀比羅神社の近くにでっかい公営の駐車場みたいなものは無さそうだ。停めるのなら何か所かあった民営みたいな駐車場を使うことになりそう。コータローがなにやら駐車場の人と話してるけど、

「バイクあかんところが多いみたいやけど、バイクも確実に停められるところとなると・・・」

 あの手も民営の駐車場の多くは一定金額以上のお土産を買ったら駐車料金がタダになるシステムが多いそう。だったらバイクだって停めさせてくれたら良いのに。

「たぶんやけど、バイク乗りってあんまりお土産買わへんやんか」

 そういうことか。お土産って帰ってから配ったりすることが多いじゃない。会社でも旅行のお土産のお菓子を配ったりはポピュラーだ。ああいうものって人数分と配る所分だけ買うから、

「こういうついでの時に結構な金額を買うのが期待できるやんか」

 それはわかる。さらにクルマだから少々買っても積むのにも問題は出ないはず。だがバイクとなると菓子箱一つでさえ困る時は困る。

「駐車場代が五百円でお土産が八百円以上やったらタダになるシステムが多いらしいけど、バイク乗りならぎりぎり八百円しか買わんのが多そうや」

 なんかそんな気がする。そうなると民営駐車場を経営しているお土産屋さんにとってバイク乗りは、

「招かざる客や」

 平日のヒマの日なら停めさせてくれたかもね。そんな話をしながら探していたら橋を渡ったところにあったぞ。クルマが五百円で、バイクが三百円か。こっちはモンキーだぞって言いたいけど、停められたからヨシとしよう。