ピッチリ合わされた布団で枕を並べて寝たけど、
「千草の高校の時の修学旅行でやったんはおったんか?」
どうだろう。修学旅行の定番の男子の部屋に遊びに行ってたのもいたけど、あのシチュエーションで本番は無理じゃない。
「オレもそんな気がする。あれをキッカケに付き合ったんはおるやろうけど」
キスぐらいまで精いっぱいだったんじゃないかな。高校生で初体験を済ませたのはそれなりにいたけど、高校生でやるとリスクが高いのよね。
「それわかる。どっちも経験が乏しいもんな」
良い機会だから聞いてやれ。コータローが末次さんにお熱だったのは知ってるけど、高校卒業とともにフェードアウトしてるじゃない。あの後はどうだったのよ。
「あの頃はお嬢様タイプに熱中しとって・・・」
あははは、男は初恋の相手の影をいつまでも追うって言うものね。コータローの好みの女ってそうだったんだ。
「そやってんけど、モノホンのお嬢様は懲りた」
どこかの大きな病院のお嬢様だったらしいけど、大学生なのに門限が六時って冗談でしょ。
「オレかって田舎者やんか。都会のお嬢様は付き合いきれんかった」
いやいや、いくら都会のお嬢様だって、それじゃ、高校生どころか中学生、下手したら小学生並みだよ。二年間付き合って手を繋いだだけってあり得ないでしょうが。
「そやから懲りたって言うたやろが」
それってコータローがヘタレなだけだったとか。
「言うな。そやけど、そう言われても何も言えん」
そのコチコチのお嬢様の次に付き合ったのが、
「ヤリマンビッチみたいな女やった」
あのね、それって反動が大きすぎるでしょうが。それでもヘタレのコータローはその女で童貞が卒業できたのか。
「ちなみにオレで八人目って言うとったけどな」
それどころかパパ活もしていたって、あまりにもじゃないの。
「オレと付き合ってからはやらへんかったみたいや」
当たり前と言いたいけど、これはこれでぶっ飛び過ぎてる彼女だよ。それからも何人か付き合ったみたいだけど、
「おもろい子やったけど、変わった趣味してるって言われたわ」
その頃のコータローは気の強い女が好きだったのか。それも半端じゃないぐらいの気の強さみたいだけど、まさかコータローはマゾだとか。
「マゾちゃうわい。はっきり物を言える女が好きやっただけや」
そういう意味か。だけどあまりにも気が強すぎて、すぐに大喧嘩になって長続きしなかったのか。何事も過ぎたるはなんとやらだね。というかさ、もう少し普通と言うか、無難なタイプを選ばなかったの?
「歯応えがないやんか」
スルメとかビーフジャーキーじゃないんだから。じゃあじゃあ、どうして同窓会の時に千草に声をかけたの。
「同窓会やからやろが」
それはそうなんだけど。それにしてもじゃないの。
「そんなもん、千草がエエ女になっとったからや」
それって今の好みがそっちに歪んでるってこと。
「あのな。自分のことをそこまで言うか。まずやけど千草は悪いけど美人やあらへん」
自覚はある。こればっかりはどうしようも無いもの。
「そやけどな、千草は内面を磨き上げてるやんか」
内面? 昔と変わってないけど、
「どう言うたら良いかな。あれこれ付き合って、どこを見るべきかやっとこさわかったんかもしれん」
それはコータローが付き合った女が偏り過ぎだからだろうが、
「まあそうなる。あれはあれで良かったとは思うてるけど、懲りたし、疲れた。なんちゅうか、ああいうタイプは合ってへんとわかったぐらいや」
寄り道しすぎだろうが。でもさ、千草は折り紙付きのブサイクだよ。
「昔から言うやろ。美人は三日で飽きるけど、ブスは三月で慣れるって」
そこまで言うか。釜茹でにしてやるぞ。
「あの言葉の本当の意味がわかった気がするねん」
そういうことか。本当に愛して、長く付き合うためには見た目じゃなく性格だって意味か。いくら美人でも性格が悪かったら三日で嫌になるし、ブサイクだって性格が良ければ、三か月もすれば見た目なんかどうでも良くなるぐらいかな。
「そうやと思うねん。そやから同窓会で千草を発見してん」
そうは言うけど、千草の性格だって惚れられるほど良くないよ。
「その辺は相性や。それに千草はオレの初恋の相手の条件があるやんか」
末次さんとは似てないよ、
「見た目やないし、性格でもあらへん。千草はな、社長令嬢やんか」
ありゃ、そこか。確かに形式はそうだけど、本物のお嬢様教育なんか受けてないよ。
「そやけどどこか上品や」
眼科に行ってこい。精神科の方が良いかもだ。それでもコータローの気持ちは少しだけわかった。だけどさ、それって気の迷いだよ。そりゃ、恋人にして結婚まで真剣に考えるのなら見た目より性格を重視するのは正解だと思うよ。
けどさ、人って見た目は大きいのよ。見た目が良くないと相手に魅かれないし、魅かれないとそこに恋なんて生まれないじゃないの。それにさ、美人の性格が悪くて、ブサイクの性格が良いとするのも偏見だ。
「恋愛小説の定番の設定やんか」
だからあれはあくまでも作り話だって。あれはね、千草のようなブサイクの夢と憧れを投影したものだけだってこと。男だってそうだろうが、
「た、たしかに。性格の悪いブサイクはなんぼでおるし、性格の良いイケメンもおるもんな」
コータローなら性格の良い美人をゲット出来るはず。コータローだって性格が良い美人とブサイクがいたら美人を選ぶだろうが。それは千草だってそうだよ。下手に千草なんて選んでしまったら後で絶対に後悔するに決まってる・・・こらぁ、勝手に寝るな。人がせっかく良い話をしてるのに。