ツーリング日和24(第17話)もしもの話

 じゃあ、じゃあ、本当に実現していたらだけど、

「千草ならどうした?」

 えっ、とりあえず話は受けたかな。だって積極的に断る理由が無いじゃないの。だいたいだよ、昔のマメタンのコータローじゃないのは見合い写真を見ればわかるじゃない。

「マメタンならお断りか?」

 答えにくい質問をするなよな。マメタンだって会う前にお断りなんて同級生に出来るはずがないじゃないの。マメタンじゃなければなおさらぐらいの意味だよ。そうなれば会うことになるけど、想像しただけで照れ臭すぎるよ。

 さっき見合いで初対面の結婚候補者と会うのに妙な感じがしたって言ったけど、コータローなんてもっとじゃない。だって今さら、

『ご趣味は?』

 なんてやれないし、とはいえ同窓会ノリで盛り上がるのも変じゃない。それにだよ、とにかくお見合いの席だから、コータローを結婚相手として認めるかどうかを考えなきゃいけないじゃないの。

「真剣に考えてくれるんか」

 だから答えにくい質問をするなって。それを考える場だから嫌でも考えざるを得ないでしょ。じゃあ聞くけど、コータローはお見合いの席まで出て来てるのに、千草を結婚相手にまったく考えもしないって言うの!

「そんなもん、そこまで出てたら考えるわ」

 そういう席だものね。でもどうしたって相手はコータローじゃない。結婚相手として見るには妙過ぎる世界じゃない。

「だったら会ったその場で断るか」

 それはそれで角が立つじゃない。お見合いだから例の、

『後は若い者同士で・・・』

 これをやられるのよ。

「そう言うたら、その後はどうしとってん」

 あんな席にいつまでいるのも間が悪いじゃないの。相手だってそうだったみたいで、ドライブに連れ出されたよ。とにかく場を変えようぐらいだ。そこでもうちょっと突っ込んだ話をしてから、もう一度会うかどうかを考えるぐらい。千草に次はなかったけどね。だからコータロー相手でもそこまでは行ったはず。

「まあ、そうするな。オレもそうしたもんな。そやったら、セットのドライブデートで断るか?」

 ならないと思う。もちろんコータロー次第ではあるけど、せっかく再会したのだから、次も会おうって流れになったんじゃないかな。あくまでも幼馴染、昔馴染、同級生としてだよ。

「オレもそんな気がする。そやけど、どこかで区切りが必要になるやろ」

 そ、それは・・・これが合コンぐらいの出会いだったら、異性の友だち付き合いにするのも余裕でありだ。合コンは彼氏彼女を求める出会いの場であるけど、そこで意気投合したからって恋人関係にならないといけない掟はないからね。

「お見合いかって色々やんか」

 そういうのもあるぐらい知ってるよ。なんて言うかな、形式こそお見合いだけど実質的には友だちからの紹介ぐらいの重みで、そこから結婚はともかく、お互いが気に入ったらお付き合いなんてのもあるぐらいは聞いた事がある。

 でもさぁ、でもさぁ、うちの田舎だぞ。田舎ってとにかく隠し事が出来ないのは良く知ってるだろ。自分で言うのもなんだけど千草もコータローも地元では有名人じゃない。そんな二人がお見合いをしたなんて話はすぐに広まるに決まってるじゃないの。だからどこかで区切りは必要になるだろうけど、それはコータローの仕事だ。

「今は男女同権やで」

 じゃあ、千草に断らせようって言うの。

「そうやなくてやな。そのまま気に入るケースはあらへんか」

 えっ、えっ、えっ、コータローとだよ。

「これでも男や」

 それは知ってるけど、相手は千草だよ。コータローはすっごい複雑そうな顔をして、

「もし見合い話を持ち込まれたら、千草の言う通りにこの話を断りにくいやん」

 だからお見合いの席に出るよね。

「そこからかって、千草の思うてる通りの展開になると思うねん。恋人とか結婚相手云々以前に幼馴染の友だちやからな」

 それ以外になりようがないよ。

「そうなってまうと、そこからオレの方から断る自信があらへんねん」

 でも断らなかったら結婚して夫婦になっちゃうよ。

「そやったら千草が断れるか」

 うぐぐぐ。千草の方からだって断りにくいよ。ちょっと待ってよ、もしあの頃に見合いなんかしてたら、

「今ごろは夫婦やったかもしれん」

 そんなことは・・・お見合いからなんとなく付き合ってしまったら、外堀も内堀も埋められて逃げられなくなる悪寒がする。なんか無し崩しみたいだけど、田舎のお見合いならそうなっても不思議ないもの。でもさぁ、でもさぁ、そんな結婚ってどこか間違ってるよ。

「オレやったら不満か?」

 コータローには恋愛感情が無い。そこまでは言い過ぎだけど、結婚相手に選ぶほどの恋愛感情を持つのが難しいじゃない。コータローだって相手は千草だよ。そんな追い込まれるような結婚をしたかったの?

「あくまでも今から思うたらみたいなもんやけど・・・」

 結婚に何を望むかって話か。結婚する時って誰もが幸せになろうと思ってるはずだし、結婚式で永遠の愛を誓うのだって本気だ。そうなれるはずって信じて疑わないから結婚するはずだもの。

 でもそうならないのは多いのも現実だ。だって三組に一組は離婚するって言うもの。あれだって結婚する時には離婚なんて考えもしないはずじゃない。

「離婚してへんところかって冷え冷えしとるのも多いやんか」

 ぐむむむ、否定できない。ああいうところが熟年離婚とか、老年離婚する気がする。それを言えば千草の親だって離婚してる。けどさぁ、けどさぁ、誰が離婚したくて結婚なんかするかって話なんだ。そのために相手を選ぶのだけど、

「あれもやが、極論したら結婚せんと相手の本性なんかわからんと思うねん」

 それも良く聞かされた。実はママン大好きマザコン息子だったとか、DV上等のモラハラ野郎だとか、時代錯誤の男尊女卑男だとか、ギャンブル好きのパチンカスの生活無能力男だとかだ。

「そこまで行かんでも、とにかく性格がどうしても合わんとかもや」

 それを少しでも知るために同棲してるのも多いけど、そこまでしたって結婚後にやっとわかったなんて話はいくらでも転がってるんだよね。だからあれだけ離婚するのだろうけど、

「夫婦仲が上手いこと行かへん理由は、それこそのケースバイケースやんか。そうやけど、こうとも考えられへんか」

 恋人時代の相手は加点評価で見てると考えるのか。これはそうかもしれないな。ひたすら良いところばかり見せようとするだろうし、そっちばかり見てる気もしないでもない。そうやって積み上げたポイントの状態で結婚すると考えるのか。

 だけど結婚すると今度はひたすら減点評価で相手を見るようになってしまうのか。離婚した夫婦の話を聞いてるとそんな感じだ。そうしているうちに結婚前に積みあがっていたプラスポイントがなくなり、

「ゼロからさらにマイナスになって離婚するや」

 これですべてを説明できるとは言わないけど、おもしろい考え方だな。

「そやから、結婚してからプラスポイントを積み上げられる相手やったらエエんちゃうやろか」

 そりゃそうだろうけど、ちょっと待て。そういう相手が千草だって言うの。

「千草やったら、オレはそんなに過剰な期待を持たへんやんか。千草もオレにそんなもんあらへんやろ」

 そうなんだけどコータローの仮説には重大な欠陥があるぞ。恋人時代のプラスポイントの蓄積は、単なる結婚後の持ち点だけじゃなく、獲得点数が結婚と言う臨界点に達する意味もあるはずだろうが。

 結婚するって、それぐらいのモチベーションが必要のはずなんだ。そうだよ、プラスポイントを積み上げてやっと結婚へのスタートラインに立つ資格を獲得するぐらいだろうが。コータローの仮説ならそこに結婚はないぞ。

「普通の恋愛やったら千草の言う通りや。そやけど見合いやったら話はちゃうやんか」

 見合いだって・・・とも言い切れないかも。見合いって初対面で出会ってから結婚を決めるまでの期間ってどれぐらいなんだろ。普通の恋愛より短い気がする。普通の恋愛だって結婚までの交際期間が短いのはいくらでもあるけど、

「あれは短期間にプラスポイントをゲットしたからやろ」

 そこなんだよな。お見合いだって出会ってからお付き合いをするか決める期間、そこからプロポーズを受け入れるまでの期間はあるはずだけど、

「それって一つ抜けてるんよ。普通の恋愛やったら単に付き合ってる期間があるやろ」

 そ、そうなる。そこから結婚を前提と言うか、結婚も意識した付き合いにステップアップはずだよね。だけどお見合いならお付き合いの時点で結婚が前提だし、

「オレも最後のところはわからんけど、お付き合いを決めた時点で結婚は決まるみたいな感じやないか」

 千草だって知らないけど、そうかもしれない。だったら、だったら、もしあの時にコータローがお見合いの場に引っ張り出されていたら、

「今は夫婦やろ」

 ぎゃふん。腐れ縁でお見合いの席で出会って、なんとなく断れなくて結婚って、あまりにも夢もロマンも無さすぎるよ。

「夢もロマンも結婚してから作ったらエエやんか」

 そんなのヤダ。結婚は女の夢なのよ。

「結婚と言うより結婚式の花嫁姿やろ」

 うぐぐぐ、それもあるけど結婚自体が夢と憧れの塊みたいなもの。古臭いって言われるかもしれないけど千草はそうなんだ。なんか成り行きで仕方が無く結婚はゴメンだ。