ツーリング日和24(第16話)お見合いの組み合わせのイフ

「千草の見合いの話は聞いとってん」

 三回続けて蹴られた話もよね。

「三回の話まで知らんかってんけど、上手いこと行かんかったぐらいや」

 千草も田舎では有名人だものね。

「そやから思うたんや。もしセットアップされたらどないしようってな」

 コータローとのお見合いなんてあるはずが・・・無いとは言い切れないか。もちろんネックはある。それは同い年だからだ。お見合いの釣り合いには年齢もあるんだよ。ああいう時の釣り合いは男が年上になるのが条件だ。

「そやないのもあるやんか」

 それはね。中には女が年上もあるぐらいは聞いた事がある。だけど、そういう組み合わせになる時には、

「あれこれ裏の事情があるとは思うで」

 その中には男が年上趣味とか、女が年下趣味ってのもあるだろうけど、それこそ財産目当てとか、あからさまの政略結婚の類だ。まあ、同い年は釣り合いとして多くはないだろうけど、組み合わせとしてはあるかな。

 次の釣り合いは家柄だ。コータローの家は昔からのものじゃないんだ。爺さんの時に神戸から引っ越してきた家なんだ。

「爺さんの生まれは愛媛の宇和島や」

 だからなんだって話なんだけど、爺さんは生まれも育ちも故郷とは無縁の人物だった事になる。つまりは他所者だ。じゃあ、いつまで他所者扱いされるかというと死ぬまでなのが田舎のデフォなんだよ。
もちろん他所者の家の子どもだから無条件に忌避されるわけじゃないよ。そうだな、少し色眼鏡で見られるぐらい。とくに千草の家みたいに田舎なりの政略結婚含みなら積極的には組み合わせないぐらいかな。だけどコータローの家はちょっと違うところがある。

「婆さんが梅香屋の出や」

 余所者は死ぬまで余所者扱いだけど、余所者が故郷の人間と結婚して出来た子どもはそうでなくなる。コータローの家だって親父さんんは故郷の人間なんだけど、婆さんの家の血筋を引いてるのは違う目で見られるのよ。

 故郷では昔から松笠屋、竹乃屋と並んで江戸時代から続く旧家であり、別格の名家みたいな存在なのよね。そもそもで言うと、薬剤師である爺さんを見込んで嫁に出し、さらに地元で薬局を開業させたとかなんとか。だから他所者ではあるけど扱いが違うのよ。

 さらにコータローのお父さんは医者だ。それも地元で開業してるのよね。田舎では医者ってだけで尊敬されるのよ。爺さんが薬剤師で、親父さんが医者だから地元ではエリート名門ぐらいの扱いにされてるで良いと思う。ぐだぐだ並べてるけど、家柄のバランスは文句の付けようもないのよね。

 それとなんだかんだで幼馴染だし、親同士だって知らない仲じゃない。親しいとまで行かなくても、元ご近所ぐらいの付き合いはある。爺さんの実家なんて同じ町内だもの。この辺は幼馴染だからって見合い相手に選ばれるものじゃないにしろ、

「お見合い相手が初対面に限るってルールもあらへんやろ」

 だと思う。だからコータローの言う通り、お見合い相手として出て来ていた可能性はあるのはある。もっともだけど、

「そこはあるわ」

 お見合いがあったのは千草が短大を卒業してブラック企業を三年で辞めて実家に舞い戻った年からだから、二十四歳から二十五歳の時になるけど、

「こっちは新卒の研修医やった」

 研修医ってよく聞くけどどんなものかと聞いたら、

「ヒヨッコの見習いや」

 研修医も前期と後期で五年ぐらいあるらしいけど、それが終わってやっと一人前になれるのか。

「そんなもんでなれるかい。五年目の医者なんか、一番危ないとも言われるぐらいや。今かって冷や汗ぐらいなら何べんも流しとるわい」

 要するに新卒の二十五歳ぐらいじゃ、ペーペーの下働きみたいなものでとにかく忙しかったみたいで、

「あんな安月給で家族なんか持てるかい」

 医者って高給取りのイメージなんだけど研修医はまだ勉強中と言うか、修行中だからあんまりお手当はもらえなかったみたい。そういう事情はコータローのお父さんだって良く知ってるはずだから、たとえ見合い話を持ち掛けられたって、

「普通はまだ早いって断るとは思うけど、あん時は・・・」

 それがあった。コータローのお父さんに癌が見つかったのよね。緊急入院になって、手術して、休診してたものね。幸い、その時は助かったのだけど、

「急に嫁さんとか、孫の顔を見たいって言い出しとってんや」

 助かったとは言え癌は怖い病気だ。再発ってのがあるし、それもコータローの親父さんなら良く知ってるものね。きっと生きてるうちになんて思いが出た気がする。

「そやから、もしかしてって考えとってんや」

 二十五歳ぐらいだから同い年でも結婚してもおかしくないか。なるほど、もし持ち込まれていたら実現していたかもしれないよ。なんだかんだで狭い世界の組み合わせだものな。ちょっと待ってよ、コータローは本当にお見合いをしてたはず。

「ああそうや。三倉さんとこや」

 あそこだったのか。コータローの高校の入れ替わりぐらいの後輩の薬剤師で、

「薬剤師いうても製薬会社の研究員や」

 なんか賢そうだ。でもそのお見合いは、

「ああ断った」

 ブサイクとか、性格が悪かったの?

「スタイルは良かったけど顔は十人並みぐらいや。性格は悪そうには見えんかった」

 だったら、

「悪いけど趣味やあらへんかった」

 あのね、コータローの趣味ってホントにどうなってるのよ。

「親父には悪いことをしたとは思ってる」

 コータローが悪いとは言えないけど結果的にはね。コータローの親父さんは再発して亡くなってるんだよ。あのまま結婚していたら嫁どころか孫の顔だって見せられたはず。でもさぁ、そのために結婚を妥協するのもどうかだよ。

 そうやって考えたら、三倉さんとこの娘さんじゃなくて、千草が見合い相手になっていた可能性だってあったのか。三倉さんとこの娘さんがまずお見合い相手になったのは年齢の釣り合いだったかもしれない。

 だけどだよ、その次とか、さらにその次ってお見合いをしていたら、千草が候補に挙がっていた可能性だってあるよね。

「どうしてもあの時に結婚する気やったらな。そやけど、あの頃はそこまでの結婚願望はあらへんかってん。お見合いなんか最初が一番良うて、後になるほど質が下がるって言うやんか」

 それも良く聞く話ではある。千草の相手もそんな感じはしないでもなかった。千草のお見合いがそれ以前の話だったのはほっとけ。それでも水面下では話ぐらいあったかもだし、

「ああそうや。もしかしたらはあったから、オレも考えてもたんや」