ツーリング日和31(第21話)ランチで恋バナ

 なになに長浜一番本店ってなってるから、この辺のチェーン店なのかな。それにしても本店ってなってるから、ここで繁盛して支店を広げたはずよね。

「そうなるはず。まあ、ラーメンとか蕎麦とかはディープなところがあるからね」

 それは言えてる。だって、こんなところにってところにお店があったりするもの。千草先輩に連れて行ってもらって加西のうどん屋さんもそうだった。ラーメン好きは美味しいと聞けば、少々の困難を乗り越えても食べに来るよね。

「その代わりじゃないけど、不味いとなれば隣にあっても行かないよ」

 それは食べ物屋さんならどこでもだ。誰が不味いものにカネを払うかって話だ。それでもラーメンマニアは別格のところがあるのは認める。ま、こんなところで生き残って支店まで出すぐらいだから期待できそう。

 お腹も減ったからラーメンに小ご飯に餃子のラーメン定食風にしてみた。女同士だから餃子もノープロブレムだ。小ご飯も付けたのは高菜がサービスになっていて、これを載せて食べてるのが美味しそうだったのよ。


 ラーメンが来るのを待ちながらだっけど、千草先輩とマスツーに来てるから、やっぱり相談したい。哲也さんとの恋のこと。

「えっと、えっと、ロマンチックそうだけどややこしいね」

 話してみたらそうなった。出会いは劇的で鈴音がガス欠で立ち往生していたのを颯爽って感じで助けてくれたこと。それも名前も告げずに去って行ったんだもの。これで気にならなければウソだろ。そいでもって再会したのが、嫌々引っ張り出されたお見合いの席だ。

「ここだけでも小説とかネット漫画の世界じゃないの」

 そうなる。再会できたお見合いだって、そこで再会出来ただけで余裕のロマンチックだけど、本来の相手がドタキャンして身代わりの代打で急遽出て来てるのよ。だから感動の再会とはなったのだけど、これで自然に恋が花開いたらそれもありだったはず。

 ところが哲也さんが身代わりを引き受けたのはお見合いを断るためだったんだよね。ここもだけど身代わりを押し付けられたのがお見合い当日だったらしくて、鈴音の顔写真すら見ずに出て来てたって言ってた。

 哲也さんがお見合いを断るつもりだったのは、本来の見合い相手がお兄さんだったのもあったとは思う。でも見合いの席で出くわした相手が鈴音だったから、お互いにこの場で終ってしまうのが惜しくなったのは確実にある。

「それはそれで変則と言うか、レアケースと言うか・・」

 そうなるよね。再会したのがお見合いだから、たとえ異性の友人のつもりでも交際を続けてしまうと、周囲と言うかお母ちゃんが結婚に暴走しそうな悪寒があったんだ。あの勢いなら一人で大坂城の外堀も内堀も埋めてしまいそうなんだもの。

「でも気に入ったんでしょ」

 そうなんだ。会えば会うほど魅かれて行ってる、こうやって結婚になって行くと実感もしてるぐらい。だってだぞ、イケメンだし、優しいし、インテリジェンスもあるし、気配りだって出来るし、肉キチガイでもなさそうだ。

「だったら・・・」

 そうは行かない大障壁がある。哲也さんはフリーターなんだよ。これも正確じゃないな。本業であるはずのイラストレーターが売れないから、フリーターで生活費を稼いでいる状態なんだよ。

「えっ、イラストレーターなの」

 そうなのよ。それも三十歳にもなって芽が出てないなら、そもそも向いてない気がするのよね。言い出したら大器晩成の可能性だってあるけど、そんなものを期待して養えるほどの甲斐性は鈴音に無いもの。

「お給料は安いものね」

 そうなのよね、その代わりにブラックじゃないのが取り柄みたいな会社だもの。

「ちょっと見せてくれる」

 正直なところイラストの良し悪しなんて鈴音にはわかんないけど千草先輩ならわかるのかな。

「千草もわからないけど・・・これか」

 なんか小首をかしげながら見てたけど、

「イラストに詳しい人を知ってるから聞いといてあげる」

 そんな知り合いがいるのか。さすがにダテに歳を取っていない。

「あのね」

 ラーメンが来たけど美味しいと思った。お腹も減ってたからの部分もあるけど合格点にしても良いかな。ただし、こんなところまでまた食べに来たいかと言われたら無理だけどね。お腹も一杯になったから、

「さあ、走るツーリングの後半戦よ」

 ラーメン屋さんからは夜久野高原を下って行き、下りたらこれまたカントリーロード。空いてて快適だけど、ここだってかつては幹線道路として混雑してたはずだよね。

「そうでもなかったも」

 道には休憩所が必要。高速ならSAとかPAだし、下道にだって道の駅とか、ドライブインがある感じ。そこで食事をしたり、ジュースを飲んで休憩したり、生理現象の解消も必要だ。だけど千草先輩が指し示したのは、

『いねむりゾーン』

 なんだって思ったけど、公設のパーキングゾーンみたいなもので、その名の通り眠気を催したらクルマを停めて休憩するだけのところみたい。

「ここはトイレもあるから立派だよ」

 こんなものがわざわざ設置されるのは、道の駅とかドライブインが出来ないからだろうって。それこそロードサイド店が軒を並べるような状態なら作らないものね。そう言う目で見れば食べ物屋さんとか、コンビニも少ないのよ。コンビニだって一軒しかなかったぐらい。

 もっとあったのかもしれないけど、夜久野の道の駅と同様に潰れてしまったのかもしれないけどね。だって閉店になってるような店は幾つもあったもの。

「なんでもそうだけど、客商売って客の数に応じた分だけしか出来ないもの」

 まあそうなるよね。夜久野の道の駅も、

「あそこは施設の魅力で需要を掘り起こそうとしたはずだよ」

 寂しさはあるけど、バイク乗りには嬉しい道だ。やがて川を渡ったけど、ここも由良川だって。どんだけ長いんだと感心した。橋を渡ると福知山の市街に入って行くのだけど、国道一七六号から篠山に行くよね、

「だから今日は走るツーリングって言ったでしょ。このまま国道九号線を走って行くよ」

 そうなると、えっと、ええっと、鈴音の頭の中の怪しい地図がフル回転したけど、たしか、このまま進んで行くと、わかったぞ、国道一七三号とクロスするはず。

「だいぶツーリングで覚えたね」

 あの時は国道一七三号を北上して来て、それから国道九号に入って、さらに国道二十七号に入ったもの。

「それって小浜に行った時?」

 海鮮丼は美味しかった。国道一七三号ならデカンショ街道を走って丹波の森街道で三田のはずだ。