ツーリン日和31(第10話)奇抜な提案

 お見合いでも友だちとしての交際期間はあるはずなんだ。引き合わされただけで決まりなんてのは昭和の時代でもなかったはず。

「昭和と言っても長すぎますけど」

 そうなんだよね。だって戦前まで含むもの。だけど今は平成も終わって令和の時代だ。お見合いだって女と男の出会いの場の一つになってるはず。とは言えだ、今でも出会わされた二人の関係はやはり特殊だ。

 恋人になる前に友だち関係があるとしたけど、あれだって一つじゃない。タダの異性の友人と思ってる時期と、恋人にステップしたくなってる時期だ。お見合いの場合は交際を続けるだけで恋人にしたくなってる時期と見なされるんだよ。

「たしかに。会ってその日のデートぐらいまでなら辛うじて異性の知り合いですが、日を改めてデートに進んでしまえば、そう見なされそうです」

 お見合いに特殊性が生じるのは顔合わせの段階から親公認なんだよね。だってさ、高校時代とか、いや大学時代だって男と親しくするだけで、どれだけ口うるさかったか。あれははっきり言わなくてもブレーキをかけまくってた。

 なのにだよ、アラサーになったらアクセルを踏みまくりじゃないの。そういう存在が親だって言えばそれまでだけど、アクセルを踏みまくられてるから厄介んなんだよ。だってさ、お見合いで交際が少しでも続こうものなら結婚へのアクセルをこれでもかって踏みまくりやがるのは目に見えてる。

 これだって哲也さんがフリーターじゃなく、それなりにちゃんとした職業に就いてたら、そのまま乗るのもありだ。もともとのエリートと入れ替わってる点がネックだけど、それより鈴音が行き遅れにならない方が親の関心のはずだもの。

 だったらこれで終わりにするのもありだけど、鈴音も魅かれちゃってるのよね。これきりで終るのはもったいないし、後悔だって残るに決まってる。とはいえ定番の、

『まずはお友だちから』

 これが出来ないのがお見合いだ。そんなことをすれば、外堀も内堀も埋め尽くされて、なし崩しも良いところで結婚させられてしまう悪寒がする。

「そうはならないですよ」

 そ、それも大きい。だってさ、三十歳のフリーターなんて合コンでさえスポイルされてしまう。もし哲也さんと突っ走ったりしたら、外堀や内堀を埋めるどころか、断固反対になるのは目に見えてる。困ったな。

「これは鈴音さんが、それで良ければの話ですが・・・」

 二人の出会いがお見合いだから、そういう状況になるのだから、その状況を変えれば良いってか。理屈ではそうなるだろうけど、お見合いの席で出会ってしまったものは変えようがないじゃないの。

「そうなんですが、それはこの席の延長で考えるからそうなるわけで・・・」

 たとえばだけど、この再会がお見合いの席以外ならどうなっていたかぐらいか。たとえば合コンなら、たぶん連絡先を交換して友だち関係なっていたはず。それぐらいの好意はお互いに持ってるもの。でもそんなやり直しは、

「やろうと思えば出来ます」

 視点を変えようってことか。お見合いの席はぶっちゃけ、見合い相手との結婚にYESかNOを迫られる出会いだ。ここでNOとすれば一切の関係が断ち切られてしまうとして良いはず。断れば妙な後腐れは生じないのはお見合いのメリットのはず。

 だけどお見合いの席で断ったら、二度と会ってはならないルールがあるわけじゃないよね。会いたくなくても、社会の関係とか、しがらみで顔を合わすのを避けられないケースだってあるはずだ。それはそれで気まずいと思うけど。

 だからこのお見合いでの首尾は当初の予定通り不成立にしてしまうのか。そうすればトットと結婚の縛りからは逃げられるのはわかる。

「幸いですが、ボクの家と、鈴音さんの家が親しいわけじゃありません」

 見知らぬ家同士だから、お見合いが不成立ならそれで終わりの関係になるはず。

「仕事の関係もありません」

 フリーターと関わる仕事なんて思いつかないな。それって、それって、

「偶然の再会で相手をもっとよく知りたいの友だち関係に出来ます」

 そ、そうなるか。哲也さんの提案を必死で分析したけど、お見合いが不成立だからと言って二度と会ってはいけないものじゃなし、この関係なら親の知らない関係になるから、アラサー女に結婚へのアクセルを踏まれる心配もない。

「これは鈴音さん次第ですが・・・」

 このお見合いを断った後か。そうなのよね、やっぱりお見合い結婚は気が向かないところはある。今回だって逃げられなくなって出席させられたようなもの。だが、一度受けてしまうと次が断りにくくなるのは容易に予想される。

 親の結婚攻勢をかわすのに最善の策は、付きあってる彼氏がいることだ。これだって、いたらいたらでウルサイだろうけど、次から次へとお見合い話を持ち込まれるよりマシのはず。そういう時にまったく架空の彼氏とするのは虚し過ぎるから、

「方便で使ってもらって、まったく構いません」

 そっか、そっか。今日のお見合いの本来の相手は哲也さんのお兄さんだった。親だってそう信じ込んでるはず。これを鈴音なり、哲也さんが断ったところで、別に不自然でも、なんでもない。だってそもそも身代わりを押し付けて当人は来てないんだもの。

 本当にお見合いの席で出会ったのが哲也さんだと知っているのは鈴音と、哲也さんの家族だけだ。これは哲也さんの家族にとっても伏せて置きたいことだから、明るみに出る事はまずないだろう。

「そういう事です。鈴音さんは兄とのお見合いを断っただけで、お見合いとは関係なくボクと友だちになっただけに出来ます」

 親の与り知らない相手だから、次のお見合い攻勢を防げる防波堤になってくれそうだ。鈴音の本音はもっと、もっと哲也さんを知りたいのよ。これで終わりになんかしたくないもの。

「とりあえずツーリングに出かけましょう」

 賛成だ。哲也さんが乗っているのはハンターカブ。つまりは小型バイク同士だからマスツー相手に申し分はない。それにさ、フリーターなのは置いとくとしてもイケメンなんだよ。どう見たって美形だもの。

 美形の男と一緒にマスツーなんて胸が躍るじゃない。顔だけで評価するなってか。それは誤解してるぞ。男が美人に群がるぐらい、女だって美形に群がるんだよ。そこに男女差なんてあるものか。

 カップルを見た時に、内心で男の評価ぐらい誰だってするもんだ。本性なんて見ただけでわかんないからね。男だってそうしてるはず。鈴音だって一緒にいる男が美形のイケメンだったら、それだけでテンション上がるもの。

「現金ですが、本音は誰だってそうですよね。ボクはそこまでの美形じゃありませんけど・・・」

 余裕でそうだと鈴音が思ってるから良いの。最後の最後は主観だ。少なくとも最高のマスツー相手を手に入れたぞ。