本州最西端の毘沙ノ鼻から一時間ぐらい走ったところでまた国道一九一号から外れた。あれって『かくしま』って読むのかな。
「つのしまや」
どうも島巡りをする気みたいだ。海に近づいてる気がするのだけど、あそこの信号を左折だな。曲がって正面を見たら、これはなんなのよ。海に向かって橋が伸びてるじゃない。
「インスタスポットでも有名な角島大橋や」
これは凄い。橋と言うより海上高速道路みたいだ。景色だってまさに絶景だ。そうだよ、こういうところを走るためにツーリングをするはずだ。橋はまっすぐじゃなく微妙にカーブしてるのと、途中で高くなっているところもある。
「船のためやろ」
絶景以外の誉め言葉を探しているうちに角島に上陸だ。ここを走らなかったらバイク乗りとは言えないぞ。
「エエとこやろ」
「何回でも走りたくなるところよ」
道は角島の西に向かってるけど見えて来たのは灯台だ。灯台の周囲も綺麗に整備されていて公園になってるのか。食べ物屋さんとかもある立派な観光スポットだ。バイクを下りたけど海が見るし、公園だって海に向かってあんなに広がってるじゃないの。
「登るで」
この灯台は登れるのか。そりゃ、登らないと。とは言ったもののエレベーターなんて無いから螺旋階段をひたすらえっちら、えっちら。最後の梯子みたいな階段を登りきると、こ、これはまさに絶景。
この灯台は明治九年に出来たのも感心したけど、それ以前から船乗りの信仰を集めていた島でもあったそうなんだ。
「江戸時代の北前船の船乗りは角島の先を北前の海としとってん」
あっちの方だな。だからだと思うけど角島の沖を通る時に角島詣って儀式もやっていたそう。どんな儀式かだけど西洋の船乗りの赤道祭みたいなものかな。
「そんな感じや」
それにしても高い灯台で三十メートルもあるそう。日本一は日御碕灯台だそうだけどここだって相当なものだ。ここも端っこ感があるところだけど、
「ああ毘沙ノ鼻より西側になるわ」
だったらこっちが本州最西端になるはず。
「残念ながらこっちは島や」
そうなのか。本州の端っことはあくまでも本州から地続きのところなのか。島って言い出すとキリがなくなってくるし、そもそも行けないところが多くなる。だから地続きの毘沙ノ鼻が最西端になってしまうってことみたいだ。
でも観光スポットなら角島の方が圧倒的に上だ。歴史的な由緒だってあるじゃない。こっちがもし本州最西端だったら価値は変わってただろうな。そういう点では確かに惜しい気がする。
絶景を堪能させてもらって灯台から下りてツーリング再開。帰りも角島大橋を通るからまたもや絶景ロードだ。うん。トンネルより橋が絶対に良い。最後に本州側の展望スポットに寄って、そろそろ出るぞ、
「コトリ、お腹空いた」
まだ早いと言いたけどアリスもそうだ。朝があんだけ早かったからね。角島で食べるのもありだったけど、時刻的に食べ物屋さんは開いてなかったんだ。開くのを待つのも選択だと思うけど出発しちゃってる。
今回のツーリングに関しては今までと違ってコースはだいたいだけど把握してるんだ。そりゃ、地図を広げてプランを練ってるところにも参加したからね。今回のツーリングの目玉はなんと言っても秋吉台だ。
角島も良いところだけどあの二人は行ったことがあるから、アリスへのサービスみたいなところはある。毘沙ノ鼻なんてそうだろ。この秋吉台巡りだけど北側からアプローチしたいみたいだから、角島からなら、
「長門市から秋吉台の方へ下る予定や」
そうなると海岸沿いに国道一九一号で長門市まで行き、長門市から国道三一六号に乗るはず。メインの秋吉台でお昼ってプランもありそうだけど、さすがにここから秋吉台は遠いよ。
「アリスも調べてたんか。秋吉台までは一時間半は見とかなアカンやろ」
そうなると時分時にガッチャンだ。時分時にランチをしたって悪くはないけどコトリさんはそういうのを好まない人だから、
「推理ドラマみたいやな。まあ、秋吉台はかなり南まで下らんと食い物屋はあらへんみたいやねん」
そうなると秋吉台までにランチを済ますはずだけど、やはり長門市内か。そんな大きな街じゃないと思うけどそれなりに店はあるはず。それと重要なポイントが別にある。これはツーリングであり旅行だ、旅先のご飯となると名物を食べたいじゃない。さすがにファミレスのサービスランチは悲しいよ。じゃあだけど長門市の名物ってなんだろ。
「やきとりと仙崎イカだよ」
ユッキーさんも良く知ってるな。どっちも美味しそうだけどランチにするには、
「酒無しで食べるもんやあらへんで」
そこまでは言わないとしても気が進まないな。
「名物いうても色々あるやんか。長門市はやきとりとイカかもしれんが、それとは別に県民熱愛グルメみたいなものもあるで」
神戸なら長田のそばめしとか、ぼっかけみたいなやつ。
「それはそれでディープな気がするけど」
明石の玉子焼きとか、姫路おでんとか、播州ラーメンもあるぞ。う~んと、う~んと、山口県と言えばフグだ!
「下関のフグは有名やけど、明石鯛ぐらい山口県民でも気軽に食べれるもんやあらへんぞ」
ましてやランチだものな。フグはとにかく高い。コトリさんは予想通り国道一九一号を走って長門市内に入り、
「次の信号右に曲がって美祢の方やで」
「らじゃ」
国道三一六号だ。へぇ、長門湯本温泉に向かう道でもあるのか。それは良いとして市街地抜けちゃったじゃない、ここはもう完全に郊外のカントリーロードだよ。それどころか長門湯本温泉に着いてるよ。河を渡ったところで、
「右に入るで」
ここって、
「山口県民熱愛グルメや」
「やっぱりそう来たか」
なんなの、なにを食べる気。店には瓦そばって書いてあるけど、どんな取り合わせなんだよ。でも店はシックな和風で本格割烹って雰囲気さえあるし、
「予約しとった月夜野や」
ちゃんと予約もしていたんだ、オーダーもしてあったみたいで出て来たものに目を剥きそうになった。たしかに瓦そばなのはわかるけど、これって焼きそばなの。
「焼きそばやのうて瓦そばや」
瓦は熱してあって載せてあるおそばがジュウジュウいってるんだよ。これで中華そばなら焼きそばだろうけど、中華そばじゃなく茶そばだ。焼いて食べる日本そばなんて見たことも聞いた事も無いぞ。
「やっぱり知らんかったか。それやったら、これで聞いたし、見たし、食べれるで」
おそるおそる食べたのだけど、
『美味しい』
ゲテモノかと思ったけどちゃんと茶そばだ。しらすご飯がセットになってるけど一緒に食べたらなお美味しい。なるほど県民熱愛グルメなのはよくわかる。これこそ旅飯だ、こういうものを食べてこそツーリングだ。
「みたらし団子もいけるで」
デザートって事になるのだろうけど、これも美味しいよ。コトリさんはこういうサプライズが大好きらしいけど、こんなもの予想なんて出来るものか。さすがはタダの暴飲暴食女じゃない。