ツーリング日和10(第6話)北海道あるある

 お風呂は今どきのスパ風銭湯みたいだったけど清潔で気持ちよかったな。食事はレストランってなってるけど、なんて言えば良いのだろ、研修施設風というか、レストハウス風というか、この中途半端感がツーリングに合ってる気がする。

 でも食事はなかなか。頓別産ほたて、頓別産毛がに。クッチャロ湖名産スジエビと地元の特産品を使っているのが良いし、当たり前だけど新鮮だから素材も良い。それにしても今日は良く走った。だって、今日の朝は小樽だったんだよ。そこから宗谷岬を回って浜頓別なんてウソみたい。

「明日に余裕を持たせたかったからな」

 その代わりに走った、走った。それもひたすらの快走路ばっかりみたいなもの。これが北海道の距離と時間の感覚なのかも。

「そやったな、次のセコマまで五十キロって書いてあって笑うたもんな」

 セコマってセイコーマートのことで、北海道を牛耳るコンビニ・チェーンのことでセイコマとも呼ばれるみたいなんだ。セコマに限らずああいうものって、本州ならせいぜい数キロぐらいからの御案内じゃない。だけど何十キロが当たり前のように出て来るの。

「距離が書いてある道路標識なんか百キロ以上がゴロゴロしとるし」

 どんだけ前から距離を表示してるんだと思ったもの。本州なら、そうだね、有名スポットに時々ある、

『ここから東京まで三百キロ』

 みたいなものが普通にあるのが北海道で良さそう。だから百キロぐらいは近いは言い過ぎだけど、北海道の人にとってはそんなに遠いと感じないみたい。でも走ってみたら、なんとなくそんな感じがわかる気がした。

「それとユッキー、瓦屋根の家がホンマにあらへんもんな」

 これはコトリに言われるまで気づかなかったけど、それこそ一軒も見ることはなかった。やっぱり雪対策なのかな。

「気になって調べてみたんやが・・・」

 開拓時代の北海道はまず木を切り倒して原野を開いて行ったから木材は豊富だったから、木で屋根を作っていたんだって。つまりは平たい屋根になるのだけど、そのまま伝統になって、今では鋼板葺の平たい屋根になってるそう。瓦より雪下ろしをしやすそうだから定着したのかもね。

「厚田のセコマで塩にぎり買った時も・・・」

 あれも言われた瞬間は「???」だったもの。だって当たり前の顔をされながら、

『温めますか?』

 こう言われたんだよ。おにぎりも温めた方が美味しいと思うけど、それより冬が寒すぎるから温めるのが常識みたいになっているのかもしれない。冷たいままなら、持って帰る間に凍ってしまうとか。

「リボンシトロンが北海道に健在やったとはな」

 これは昭和、それも第二次大戦がらみになる。話を簡単にするのだけど戦前は大日本麦酒が業界のガリバーとして君臨してたのだけど、その時に清涼飲料水として開発され売られていたのがリボンシトロンになるんだ。

 戦後の財閥解体で西日本のアサヒビールと東日本のサッポロビールに分かれるのだけど、リボンシトロンはサッポロビールが受け継いで、アサヒビールはバイヤリースを導入したぐらいとして良いと思う。

「戦後に登場したのがあのコカ・コーラや」

 ファンタもあるけど、リボンシトロンは本州から駆逐されてしまったぐらいで良いと思う。西日本では大日本麦酒が分割された時に消え、東日本ではコカ・コーラやファンタの台頭で少し遅れて消えてい行ったぐらいだよ。

「あんまり懐かしいから飲んでたもんな」

 でも北海道では今でも健在でセコマでも自販機でも普通に売ってるのよね。

「内地って言われるのもな・・・」

 これは前から知ってるけど、北海道の人は津軽海峡の向こうの日本を内地って呼ぶのよね。

「内地なんて言葉が生きてるのは北海道だけちゃうか」

 戦前は本土を内地、それ以外を外地って呼んでたけど、北海道は今でも外地意識なのかな。

「明治ぐらいやったらそうかもしれんけど、今は単なる方言やろ」

 だよね。後はとにかく虫が多かった。ヘルメットとかにカンカン当たるのよ。

「うっかりシールド上げとったら飛び込んで来て往生した」

 わたしもそうだった。これは本州の田舎道でもあるのだけど、北海道の数は桁が違う気がした。これも多分だけど夏が短いから、その間に一斉に虫が湧くって感じの気がする。

「コトリもそう思う。神戸ぐらいやったら、三月から十月ぐらいまで順番に出てくるのが、短期間に凝縮されとるんちゃうやろうか」

 北海道だって花見はあるし、その時にジンギスカンを食べるのが定番みたいだけど、

「盆過ぎたら秋やそうや」

 そう神戸の春から秋までの期間が半分ぐらいしかないのよね。虫さんも活動期間が短くなるから子孫を残すために大忙しかもね。

「鹿もおったな」

 いたいた、北海道ではクマが出るのは知ってた。クマはさすがに見なかったけど鹿はいたもの。本州でもたまに鹿との衝突事故はあるけど、北海道ではわりとポピュラーみたい。気を付けないとね。

「夜は寒かった」

 小樽に着いたのが九時頃じゃない。クソ暑い神戸からだから異世界に降り立ったみたいだったもの。それと緯度が高いから日暮れも遅い。日没なんて七時だよ。

「冬は逆やからたまらんやろな」

 その辺は住めば都だろうけどね。でもね、これは北海道に来て、ツーリングして発見したこと。出張で札幌には良く来るけど、千歳と札幌と関連会社の視察を慌ただしくやって、

「下手すりゃ日帰りやもんな」

 仕事だから仕方がないけど、あれじゃ、本当の北海道なんてわかるはずないじゃない。もっと、もっと北海道の魅力を知りたいよ。これこそツーリングの醍醐味そのもの。

「どこでもエエとこ、悪いとこがあるけど、これだけ内地の人が魅かれるとこやもんな」

 でもさすがに疲れた。

「明日も早いから、女は騒いでサッポロビール。お代わり」

 コトリと行けば必ずツーリング日和だけど、北海道の天気予報もおもしろいのよね。全道の予報をやってくれるのは助かるけど、総合振興局単位でやるのよ。たとえば函館なら渡島、札幌なら石狩になる。稚内なら宗谷ね。

「総合振興局いうても内地の県ぐらいの広さがあるからな」

 北海道の広さは内地の十一位までの県を足したぐらいがあるからね。神戸の天気予報は近畿二府四県と福井と三重と、香川、徳島まで出るから北海道の天気予報の範囲にそんなに違和感はなかったけど、さすがに地名と場所とのリンクがちょっと困ったかな。

「東北は逆やったな」

 あれはあれで笑った。山形だったかな。だって山形県の予報しかなかったんだもの。

「なぜか東京も付け足してあった」

 そうそう、ガソリンスタンドも要注意。こんな広いとこで人口希薄だから、本州の感覚でいたらガス欠騒ぎをよく起こすそう。次のスタンドまで百キロなんてところもあるのが北海道。

 これはコトリも注意してた。ツーリング予定ルートのガソリンスタンドのマップを何度も確認してたものね。とにかくわたしたちのバイクの燃費は大型バイクよりはるかに悪いものね。コトリはエライ。

「褒めるのはエエけど、チイとはプランを考えんかい」

 さあ、寝よ寝よ。