ツーリング日和10(第7話)オホーツクライン

 朝風呂入って朝ごはん食べて、七時半に出発。まず目指すのは、

「オホーツクラインをひたすら南下して終点までや」

 石狩から稚内まではオロロンラインだけど、宗谷岬からサロマ湖まではオホーツクラインって呼ぶのだよ。どんな道かと言うと、

「ひたすらシーサイドロードや」

 走りだしたらそうだった。ほとんど真っすぐの道がそれこそ延々と続く感じ。そうそう昨日走ったエサヌカ線は猿払村にあったけど、あそこはあそこで日本最北の村になる。礼文島とか利尻島にも村がありそうなものだけど、どちらも町なんだよ。

「そやから礼文町は日本最北の町になる」

 この辺に来たらなんでも日本最北系が多いけど、

「それ言うたら稚内空港は日本最北の空港やからな」

 たしかに。でもそういうところは訪れることに意味があるのがツーリングよ。このオホーツクラインも北海道あるあるみたいな道で良さそう。だって浜頓別町から次の枝幸町まで二十五キロぐらい、さらにその次の雄武町になるとさらに五十キロ以上離れてるんだもの。

 雄武町のセコマでトイレ休憩して、紋別のセコマで次の休憩。さすがに遠いよ、もう十時半じゃない。へぇ、紋別にも空港があるんだ。

「オホーツク紋別空港や。羽田に行ってるわ」

 一日一往復とは厳しいね。

「但馬空港よりマシや」

 だよね。苦心惨憺して伊丹の便を維持できてるだけだもの。さて湖が見えて来たから、

「あれはコムケ湖や」

 じゃあ次のは、

「シブノツナイ湖や」

 よく知ってるね。

「だから調べてんやて。ほら見えて来るで」

 これは大きいよ。海みたいだ。どこか見晴らしの良いところは、

「サロマ湖展望台やけど、ちょっと回り道になる。そやからキムネアップ岬に行くで」

 ああここか、左に入って、畑の中の道だけど日本の風景とは思えないよ。防風林の切れ目みたいなところを抜けて、見えて来た、見えて来た。これがサロマ湖か。駐車場からでも砂嘴が良く見える。

「夕日が綺麗やそうや」

 朝日でも綺麗そうだけどね。ところで腹減った。

「なにがところでや。お前は餓鬼か」

 言いながらコトリもお腹空いてるんだよ。へぇ、緑のトンネルか。林道と違って真っすぐだから気持ちがいい。コトリが入った店は、う~ん、なんと言えば良いのかな。ドライブイン風というか、ロードサイドの小綺麗なラーメン屋風というか。二人が頼んだのは何故か一致して、

「ミックスフライカレー」

 こんなところでカレーと思われそうだけど、店内のカレーの香りに誘われたかな。でも美味しい。サロマ湖産のシマエビ、ホタテ、カキのミックスフライだもの。

「カレーがマイルドなんがマッチしとるな」

 サロマ湖というより北海道と言えばホタテみたいなとこがあるけど、北海道のホタテと内地のホタテは少し違うそう。ホタテ自体は同じだけど養殖法が違うんだって。養殖と言っても稚貝を集めるところまでは同じだけど、

「北海道のは地撒き方式いうて、そのまま放流するのが主流やけど、噴火湾とか内地は耳吊り方式いうて、ホタテの耳にひもを通してぶら下げるのが主流や」

 養殖法でどう変わるかだけど、期間は地撒きだったら三年から四年かかるそうだけど、耳吊りだったら一年半ぐらいで出荷できるそう。

「地撒きはほぼ天然みたいなもんやから肉厚でしっかりしとるそうや。耳吊りは砂も入らないから軟らかいそうや」

 じゃあ、今食べてるのはサロマ湖の地撒きだ。たしかに歯応えがしっかりあって美味しい。

「関西では未だに珍しい方に入るもんな」

 まあね。昭和の時代ならまず売ってなかったはず。今はそれなりに売ってるけど、食べる方に馴染みがないから地撒きと耳吊りの違いなんて意識してないものね。

「寒いとこやなかったら養殖できへんし、今の時代でも北海道から運ぶのは遠いわ。そやそや、ボイルしたんは耳吊りが多いねんて」

 サロマ湖産のミックスフライカレーを堪能したら、いよいよ納沙布岬に、

「その前に忘れてへんか」

 はて。この辺に納沙布岬以外に有名スポットなどないはず。雑魚スポットなど関心はない。コトリがどうしても行きたいのなら仕方がないけど、

「知床や」

 そんなもの誰が忘れるもんか。世界遺産だぞ。ここまで来ておいて知床に行かないなんて詐欺みたいなものじゃない。知床でハマナスが咲いているところを見るのは生きる目標みたいなもんじゃない。

「忘れとったくせに」

 えへへへ、つい。

「チンチクリンは足が届かない」

 ほっといてよ。それと、そこまで捻り過ぎたら、なにをもじってるかわからないじゃないの。

「伝わったからエエやん」

 でもコトリは悩んでるみたい。イイのよ、わたしとコトリの仲じゃない。ウンコしたいなら行っといで。

「朝、行ったわい。悩んでるのは時間や。やっぱり遠いわ」

 サロマ湖からでも知床はまだ三時間ぐらいかかる。距離にして百三十キロぐらい。さすがにこの辺はそれなりに交通量があると言うか、ぶっちゃけクルマが走ってる。遅いのに引っかかるとペースが上がんないんだよね。

「今日中に行けたら知床五湖まで行きたかったんやが、無理あったわ」

 知床五湖は遊歩道になってるのだけど、とにかくクマがいつ出るかわからないコースなんだよね。だから電気柵を設けてある高架木道以外はガイドを依頼しないといけないシステムなんだよ。

 コトリは今日中に高架木道を歩きたかったみたいだけど、今からじゃ知床五湖フィールドハウスに着くのは四時頃になるのよね。でもさぁ、でもさぁ、考えようじゃない。明日の朝に歩いたら良いじゃない。

「それがフルコースで三時間ぐらいやねん。明日に回すんやったらフルコースにしたいやんか」

 ここのガイドシステムは個人依頼がベースなんだ。個人依頼と言うか、所属事務所依頼で、ガイドによって案内できる時刻が変ってくる。一番早いのは、

「五時や」

 そうなると終わるのが八時か。そこから宿に帰って食事は中途半端やなぁ。

「遊覧船が十時やから、ちょうどエエのはエエねんけど」

 えっ、遊覧船も乗るの。さすがコトリだ、よくわかってる。そりゃ、外せないよ。そうなると交渉だね。明日が楽しみだ。交渉の結果? そんなもの心配する訳ないじゃない。恐怖の交渉家のコトリがするんだよ。電話中だけどまとまるに決まってるじゃないの。

「宿の方は着いてからするけど、クマが出るぐらいでメンドイな。出たら湖にでも投げ込んどいたら済む話やのに」

 まあね。でも、それを言ったら悪いわよ。