ツーリング日和18(第11話)迷子寸前

 ランチを満足したら一路秋吉台へ。

「コトリ、この道って国道よね」
「そのはずやけど県道と重複してるんちゃうか」

 なんの話かと思ったらガードレールの色らしい。言われ見れば白じゃなくだいだい色だ。これは山口県道の特徴らしくて特産のミカンにちなんだものだそう。ガードレール一つにもお国柄ってあるもんだ。

「次の信号、ガソリンスタンドがあるとこを左に入るで」

 秋芳洞まで十三キロってところだな。長門市で国道三一六号に入ってから完全に山の中の道だけど、こういう道も嫌いじゃない。そりゃ、シーサイドロードは最高だけど、ツーリングって色んな道を経験できるから楽しいんだよ。

「別府弁天池って方に曲がるで」
「行くの?」
「時間も押しとるからパスや」

 どういう意味? というかさ、これって集落の間の細い道じゃない。たぶんさっきまでの道がバイパスってやつでこっちは旧道でしょ。

「そうやねんけど」
「あれこれあってね」

 なにがあったって言うのよ。それでもずいずい進んでいくのだけど、

「ちょっとストップ」

 なにやらユッキーさんとナビを見ながら協議。

「この道をナビが行きたがらん訳やで」
「ホントね。でもさぁ、ここってここになるから・・・」
「そやから、こう行ったらここに出るはずや」

 曲がっても相変わらず細い道だけど北に向かってる感じかな。それでも走っているうちに二車線になってくれて、田んぼの中の直線道路だ。走っている間も二人は真剣に道について話してるんだ。

「ちょっとストップ」

 またもや協議タイム。

「ここやから左やな」
「次が問題ね。道路案内ぐらいありそうなはずだけど」

 左折してしばらくすると、

「やっとあったで。奥秋吉台でエエはずや」
「ホント、やっとって感じだよ」

 右折ってことだけどここだよな。ぎょぇぇぇ、また細い道じゃない。間違ってるんじゃないの。この橋を渡って良いの、また集落みたいなところに入り込んで、なんとなく二車線の道に出てくれた、

 ひたすら田んぼの間の道だけどなんにも無いじゃない。あったのは奥秋吉台の道路案内だけ。ここってメジャーな観光地のはずだから、もっと何かあるはずよ。喫茶店とか、道の駅とか、秋吉台まで何キロとか。

 と思ってたら完全な山道になってるよこれ。それも峠越えだ。アドベンチャ―ツーリングとは聞いてないぞ。ダックスちゃんでも超えられる峠だったけどやっと下りてきたみたい。まさか迷ってるんじゃないよね。ここから引き返すのは許してくれ、

「やっとあったで」
「景清洞ってこんなところにあったんだ」

 と言うことは合ってるの。やっとコトリさんが説明してくれたのだけど、秋吉台はカルスト台地だから鍾乳洞があるんだ。秋吉台の南側の秋芳洞が全国的には有名だけど、北側にも景清洞、大正洞があるんだって。

 秋吉台の道の基本は南北の一本道だそうだけど、北側から入るのに大正洞を目印に考えていたみたいなんだ。奥秋吉台って道路案内にもあったけど、秋吉台の北側の奥ぐらいを意味しているはず。

「角島から秋吉台を走るツーリング動画もあって大正洞駐車場を目指しとってん」
「だけどね、具体的にどう走ったのかはっきりしなくて・・・」

 Vlog動画あるあるだ。あれって走行風景は出て来るけど、それがどこかは示してくれないんだよね。さらに尺の関係で編集も入るから。あっさり着いたように見えちゃうのが普通だ。だから途中で迷ってもカットするか、

「よっぽど迷ってその日のツーリング計画がガタガタになってもたら、開き直って迷子動画にしてまう」

 迷子動画にするより日を改めて撮り直しの方が多いかも。一度迷えば次はスムーズに行けるはずだものね。それも角島から秋吉台を周る動画があったからそれを参考にしたのだろうけど、どこを走って角島から秋吉台にたどり着いたかわからなかったそう。

 ツーリングコースとしてはいかにもポピュラーそうだから、ツーリング前に地図であれだけ再確認していたのか。

「そやねんけどナビが行ってくれへんねん」
「そうなのよ、よっぽど頑張らないと大正洞に行きたがらないのよ」

 いつもならコトリさんが少しでも迷う素振りを見せたら、すかさずツッコミを入れるユッキーさんがひたすら道の検討をコトリさんとしてたぐらいだったもの。

「そやけどもう大丈夫や。ここからは完全に一本道やさかい」

 ユッキーさんが付け加えてくれたけど、秋吉台観光のメインはなんと言ってもまず秋芳洞だって。ここだけで帰る人だって珍しくもないぐらい。もう少し足を延ばす人は引き続いて秋吉台に行くのだけど、

「フルコースみたいに回っても、秋吉台を突っ切って大正洞と景清洞を見てピストンで帰って来るコースだと思うのよ」

 さらにみたいな話だけど、秋吉台周辺の道路整備も進んでいるのだそう。具体的には小郡と萩を結ぶ自動車専用道路が出来ていて、この道は中国道と美祢東JCTで結ばれているらしい。

「中国道いうても山口JCTで山陽自動車道と合流した後や。東から高速で走って来たら簡単に利用できるで」

 西から走って来てもそうだよな。この小郡萩道路だけど、これを使えば秋吉台の南側からでも北側からでもアプローチ出来るからピストン往復する必要もなくなるのか。たとえばみたいなコースだけど、秋芳洞を見て秋吉台を突っ切り、そこから萩に向かうなんてのがお手軽に出来る事になる。

 だから中型以上のバイクで秋吉台の北側から入ったのは小郡萩道路利用の可能性が高いだろうって。でもさぁ、でもさぁ、それは南側からのアプローチの場合じゃない。角島からの秋吉台へのツーリングもあったんでしょ。

「今日の道かって間違いやあらへんけど」
「正解とは言えないね。まさか、まさかだけど」
「なんかそのまさかの気がしてるねん」

 今日は角島から長門市に入り国道三一六号で南下したけど、そうじゃなくて萩まで行って小郡萩道路に入ったって!

「パッと見で大回りに見えるけど」
「急がば回れって言うじゃない」

 それなら少し遠回りになるけど秋吉台の北側にすんなりたどり着くはずだ。動画編集でも長門市内はカットするだろし、萩は通り抜けるだけだからカットか。見れるのは既に秋吉台に向かう風景だけだ。

「その証拠みたいなもんやけど、秋吉台を北から南に走り抜けた後に高速で広島に向かってるねん」
「あれは乗ったのが小郡萩道路で中国道まで行って、さらに山口JCTから山陽自動車道に乗ったはずよ」

 そういう道路があれば利用するのは悪いことじゃないけど、そういうルートがポピュラーになれば、

「そんな気がするねん。道路案内かって、観光案内かって、それを見て利用する人はおるから整備されるし、それに関連する施設かって出来るやんか。あんだけ何も無いってことは・・・」
「そうなのよね。長門市から国道三一六号で秋吉台にアプローチするルートは観光用としては廃ってしまってるのかもしれない」

 そんなぁ、小型バイクじゃ小郡萩道路なんて走れないじゃないの! そしたら、

「だから走れる道はあるやんか。バイクはクルマと走らせ方がちゃうねん。必ずしも広くて便利な道がエエわけやあらへんねん」
「そうだよ。クルマが集まって来て混んでる道なんてクソくらえだ」

 あははは、それもまたツーリングだ。バイク乗りは道だって楽しめる種族だ。迷子だって楽しんでしまうのがツーリングだもの。もっとも深刻すぎるのは嫌だけどね。

「そういうこっちゃ。結果で言うたら迷子になってへんし、余計な時間もかかってへんから大正解の道やったってことや」

 さてやっとお楽しみの秋吉台だ。