隠岐の鮑

 隠岐でパッと浮かんだのは長崎俵物。干鮑、煎海鼠です。隠岐の干鮑も歴史は古く延喜式にも出てくるぐらいです。古代においては隠岐の鮑は珍重されていたようで、貢納量は全国一となっています。当時のブランド鮑だったと見て良さそうです。

 時代が下って長崎俵物にも隠岐の鮑は出荷されています干鮑に関しては今でも中華料理の海鮮三大珍味の一つとされ、その中で最高級品が日本製です。さすがに隠岐じゃなく吉浜産だそうで、岩手県の大船渡市のエゾアワビだそうです。隠岐の鮑は乱獲で滅んだのかと思っていましたが、いまでもちゃんと獲れているようです。

 この鮑の食べ方ですが、日本では干鮑を食べる機会はまずありません。かつては食べていたのは間違いありませんが、今はひたすら生の鮑です。そういう風に食文化は変わったぐらいにしか言いようがありません。

 これがどれぐらい変わったかですが、かつて京都の貴族に珍重されたのは当たり前ですが干鮑だったはずです。生なんか隠岐から運べませんからね。ですがこれがどんな干鮑であったのかは今では不明となってしまっているようです。ヒントは延喜式にある、

    御取鰒、短鰒
 この言葉のみです。古代の鮑の加工法はあれこれあったようで、延喜式には、御取鰒、鳥子鰒、都都伎鰒、、放耳鰒、耳鰒、長鰒、耽羅鰒、短鰒、凡鰒、串鰒と記載されていますが、これもどんな状態だったかよくわからないとされています。

 それでも研究者と言うのはいるもので、基本は熨斗鮑に近いのではないかとしている研究がありました。熨斗鮑とはなにかですが、熨斗紙のもとになったものです。熨斗紙は贈り物に使われますが、右肩に赤い折り紙みたいなマークがあるのを御存じかと思います。

 あれがかつては熨斗鮑で、それが鮑がなくなって今に至るになっているそうです。ほんじゃ、熨斗鮑は今でもあるかの話になりますが、伊勢神宮御料鰒調製所で古式に則って今でも作られています。リンク先に画像もありますから興味がある人は見て下さい。

 鮑を薄く切り伸ばして長い一本のヒモみたいなものにして作る干鮑が熨斗鮑のようです。干し上がれば、これを切り分けて大身取鰒(おおみとりあわび)・小身取鰒(こみとりあわび)・玉貫鰒(たまぬきあわび)にしたのが熨斗鮑になります。

 研究者もこれが古代の干鮑とまったく同じかどうかは、慎重に言葉を選んでいましたが、他に参考に出来るようなものが日本に残っていないので、おそらくこんな感じの鮑が貢納されていたのだろうとしていました。

 人によっては生より干した方が美味しいとしていますが、日本で干した鮑を食べる機会は少ない(つうか食べたことがない)ですし、生でも高級品なのに干したものとなれば財布に厳しいのかもしれません。それでも一度ぐらい食べてみたいものです。