ツーリング日和(第30話)出会い

 朝食を番組録画してから、

「仕事は終わりにしようや」
「悪いがケニーロードをもう一回付き合ってくれ」

 昨日のビデオを見ていたが、ちょっとアイデアが浮かんで、

「荷物下ろしてまうんか」
「ここのコーナーを本気で攻めてみる」

 ハングオンとドリフトだ。何か所か場所を変えて撮って、

「気持ちはケニーとフレディか」
「編集の時に使えそうだからな」

 午前中は撮影に費やして、

「時間もあるからケニーロードを下って、ミルクロードを駆け上がろうや」
「それイイな」

 ミルクロードを駆け上がってから昼食をとり、中岳の観光に。

「なんかツーリングと言うても、仕事ばっかりやったから、こういう勝手気儘さを忘れそうになってたわ」
「そうだよな。オレたちはこういう楽しさを伝えなきゃいけないのに、こっちが仕事の段取りばかりを考えて額に皺寄せて悩んでたら、撮れた絵も楽しくなくなるよな」

 その後も思う存分走りまくって、

「早いけど宿に行こか」
「産山温泉だったな。それにしても温泉三昧なんて久しぶりだな」
「松山住んでるのにな」

 温泉宿へのコースを進んでいると、前を走る加藤から、

「前のバイクを追い抜くけど、ちょっと派手にやるぞ」

 安全運転の加藤にしたら珍しいと思ってたら、

「あのバイクって」
「そうや、謎のバイクや。後ろ付けたりしたらストーカーやと思われる」

 豪快に追い抜いて宿に。駐車場で宿泊に必要な荷物を取り出すために荷解きをしていたら、

「来てもたやんか」
「わぁ、どうする?」

 謎のバイクはオレたちの隣にバイクを停め、

「あんたらも泊りなん?」

 わお、声をかけられた。どうも謎のバイクの二人組もここに泊まるようで、バイクをここに停めても良いかの質問だった。そうだと答えると、

「ここのご飯って、お食事処やんか。コースは何にしたん」

 囲炉裏料理だと答えると、

「一緒やん。じゃあ、また後で」

 間違いない、石鎚で会ったあの二人だ。それにしても美人だ。加藤も震えながら、

「あれが女神の美しさか」
「あんな美人に写真を撮らないように頼まれたり、石鎚の事件を伏せるように頼まれたら」
「二つ返事でOKするわ」

 部屋に入っても夢見心地だったが、

「とりあえず風呂入ろ」

 確認すると風呂は大浴場は露天風呂と内風呂。

「えっと、七時まで男は内風呂のかぼちゃの湯やな」
「露天風呂はご飯の後だな」

 まだ三時過ぎ、風呂も二人だけだったからノンビリと。

「杉田、どうする」
「どうするも、こうするもない。一緒にメシ食うだけだろ。どうせテーブルは違うだろうし」

 風呂からあがると、昨日からのツーリング、キャンプの疲れが出てきて、二人とも昼寝。こんな時間を過ごすのも贅沢で良いな。腹が減ってきて目が覚めると既に夕方、お食事処へ。黒光りのする床板に囲炉裏は風情があるな。

 席に案内されてしばらくすると、あの二人組もやって来たのだが、部屋に入っただけで華やぐのがわかる。浴衣がホントに良く似合う。するとオレたちを見つけて、

「一緒に食べよ」
「エエやろ」

 宿の人になにやら交渉すると席替えになって四人で囲炉裏を囲むことに。

「えらい、人懐こいな。ホンマにエレギオンの女神やろか」
「綺麗さは間違いないけど」

 食事は自家製梅酒と、小鉢二皿、前菜の八寸盛りが並べられ、まずは梅酒で乾杯。

「コトリ、漬物みつくろってきて」
「よっしゃ、あんたらもお任せでエエか」

 ここの名物みたいで、三十種類ぐらいの漬物バイキングがある。コトリと呼ばれた女性は手際よく四人分を盛り付けるとオレたちにも配り、

「最初はビールでエエか」

 あっと言う間にビールを空にして、吸い物も出てきて、

「熊本言うたら、やっぱり焼酎やな」
「もちろんよ。へぇ、焼酎にも吟醸ってあるんだ」
「ここエエで、ボトルで出してくれるやんか」

 飲むかと誘われるとOKしたのだが、

「吟醸ってなってるから、割ったら意味ないよね」

 いやぁ、冷やでグイグイだぞ。そう言えば広大生も夕食を一緒にした時に日本酒を一升瓶単位でオーダーしてたと言ってたはず。次に焼き物とお造りが出てきたが、

「お造りって馬刺しなのね」
「溶岩焼きは趣向やな」

 囲炉裏の上で焼きながら食べていると、

「産山の赤牛だって」
「馬刺しも本場やな」

 あっと思う間もなく、

「追加お願いしま~す」

 出来るかと思ったら、コトリさんがなにやら宿の人と交渉したら、ゴッソリって感じで出てきたのに魂消た。

「これぐらい食べないと来た意味がない」
「そうやで、食べてよ。それから焼酎お代わり四本持ってきて」

 その間に鮎の塩焼きと野菜の天ぷらも出てきたが、

「天然やな」
「天ぷらもカラっと揚がって、シャキッとした歯応えがイイね。鮎と天ぷらお代わりできますか」

 牛飲馬食とはこの事かとあきれるぐらいだ。そこから、だご汁とご飯だが、

「釜炊きじゃない。それも、山菜の炊き込みご飯だ」
「漬物との相性もバッチリやな。だご汁も乙なもんや」

 こっちはもう腹が苦しいのだが、一粒残さず平らげて、

「どないしたん。えらい小食やな」
「遠慮しなくても良いのに」

 遠慮じゃないって。デザートのおはぎも、

「この手作り感が良いね」
「なんぼでも食べられそうや。お代わり頼むわ。出来たら十個ぐらい」

 まだ食うか。食事がようやく終わると、

「後で部屋に行くわ」
「飲み直しましょうよ」

 これからかぼちゃの湯に行くから、一時間後に部屋に来ると言ってお食事処を出て行った。

「杉田、とりあえず苦しい」
「オレもゲロ出そうや」

 オレも加藤も良く飲み、良く食べる方のつもりだが、

「ありゃ、桁外れやな」
「ああ、食べる量もそうだが酒もだ。酔い潰して襲うなんてしても、こっちが潰される」