純情ラプソディ:第54話 札幌の夜

 試合場に雛野先輩と片岡君は来てくれた。上手くいったと顔見た瞬間に確信した。どこか翳があった片岡君の表情が吹っ切れてたし、雛野先輩のあんな嬉しそうな顔を見たことがないもの。

 京大との決戦は意外な展開になった。だって三連勝で勝っちゃったのよ。なんと片岡君が朝比奈さんにも波多野さんにも勝っちゃったんだよ。城ケ崎クイーンも、

「まさか真澄と瞳が負けるなんて・・・」

 ポイントゲッターとして計算してた二人が、安牌と踏んでいた片岡君に負けたら勝負はそこで決まったようなもの。三試合で終わったものだから、

「玲香、勝負はお預けね」
「御託はクイーン戦を勝ち上がれてから聞いてあげる」

 楽しみにしていたクイーンと梅園先輩の真剣勝負が見られなかったのは残念だったかな。夕方から表彰式があり副賞のビール一年分を無事ゲット。引き続いて優勝パーティみたいなものがあったけど、これまたモロの映画撮影。開会式の時の様に着飾ってエキストラ。ちなみに出席していたのはうちと京大だけ。これすら途中で、

『後は不要です』

 部屋に帰らされた。なんかお腹も中途半端と言うか全然足りないよ。そしたら梅園先輩が、

「せっかく札幌に来てるのよ。なのにずっとホテルに籠りっぱなしじゃない」

 たしかにそうだ。

「早瀬君、これから玲香たちと繰り出すから、店を手配しとて」

 札幌に来てまで達也に投げるな。でも、話に聞くすすき野は行きたいよね。

「達也お願い」
「お任せ下さい」

 まあ達也も行きたいはず。任せておけば心配ないけど、

「ヒナと片岡君は留守番ヨロシク。今日中には帰らないし、時間がもっと欲しかったら連絡してね」

 だったらヒロコと達也も、

「悪いけど早瀬君がいないとすすき野にたどり着ける自信が無いから我慢して。やりたないなら神戸に帰ってからにして」

 だからモロ過ぎるって。片岡君も雛野先輩も茹蛸のように真っ赤になってるじゃない。やがて城ケ崎クイーンたちも部屋に来て、

「いざ、すすき野の夜に」
「楽しむぞ」

 それにしても梅園先輩と城ケ崎クイーンはホントに仲がイイね。まずジンギスカン料理の店に行き、たらふく食べて大いに盛り上がり。次のカラオケでも、

「行くわよ玲香」
「任せてムイムイ」

 二人で歌って踊りまくってた。いつもの梅園先輩の暴走だけど、二人になると二倍じゃなくて二乗だよ。カラオケで歌いまくって、そろそろお開きかと思ったのだけど、

「まだ飲み足りないよ」
「そうだ、そうだ。朝まで飲むぞ。でもその前に札幌ラーメン」
「それイイね」

 飲んだ後にラーメンってよく聞くけど、そんな感じのお客さんが一杯いたのに驚いた。ラーメンを食べ終わって、

「ヒロコは早瀬君に送ってもらってね。ムイムイは玲香たちと盛り上がるから」

 アッと思う間もなく達也と二人にされちゃった。そこから達也と喫茶店に行ったんだけど。

「今ごろ、片岡君と雛野先輩は」
「かもですね」

 愛する男と女が二人っきりになって盛り上がらないはずがないものね。ましてや旅先だし。

「ヒロコ、あのぉ、そのぉ・・・」

 そういうことになるよね。ヒロコの心はとっくに決まってる。達也しか考えられないし、できれば達也だけにしたい。いやそうしてみせる。でもそうなるとラブホか。どこでやっても同じようなものだけど、一番最初がラブホなのはちょっと。

「ヒロコおいで」

 喫茶店を出た達也はグイグイって感じでヒロコを連れて行くのよね。これは達也も心を決めてるよ。今夜は絶対にしてるはず。やがて見えてきたのは札幌駅。駅に入って左側に進んだけど、そこにはタワーホテルがあるはず。受付で達也はなにやらカードを見せて、

「一番良い部屋を」

 こんな時間にいきなりどうにかなるのかと思ったけど、

「承りました」

 達也はヒロコのために御曹司の力を使ったんだ。そこからエレベーターに乗り部屋に入ると、なんて広くてゴージャスな。きゃぁ、キングサイズのダブルベッドだ。こんなに大きなベッドが本当にあるんだ。

「夜景も綺麗だよ」

 達也は窓辺で夜景を眺めるヒロコの肩に手を置いて、

「愛してる」
「ヒロコも・・・」

 続きは言わせてくれなかった。だって唇が塞がっていたんだもの。なんて甘い、なんて気持ちイイの。なんだか体の力が抜けていく。これがヒロコのファースト・キス。そんなヒロコを達也は力強く抱き寄せて、

「誰にも渡さない」

 もうたまらなかったけど、

「お願いシャワーを・・・」

 達也が先に浴びたけどヒロコは震えてた。だって、だって、今からヒロコはこのベッドで達也と結ばれるんだよ。達也がバスローブで出てくると、一目散にバスルームに。服を脱ぐのにも恥しいぐらい手が震えてるのもわかったもの。最後の一枚に手を懸けた時なんか、もうブルブル。本当言うと怖い。何されるかわかっていても怖いものは怖いもの。

 シャワーが終わったヒロコはなんとかバスローブを羽織ったけど、部屋に戻るのが怖かった。嬉しい気分もあるけど、怖い方がどうしても勝ってる感じ。そんなヒロコを達也はしっかりと抱きしめてくれた。

 達也に抱かれると不思議に落ち着いてきた。口づけってそんな効果もあるのかも。達也の手がバスローブの紐にかかっているのがわかる。次に起こるのはバスローブが床に落ちるけど、その瞬間にヒロコの身を隠すものがすべてなくなるんだ。

 そしてベッドに抱き合ったまま倒れ込んだんだ。恥しかった、顔から火が出るほど恥しかった。逃げ出したい気持ちもあったけど、必死になってシーツをつかんでた。ここで逃げちゃダメ、ここまで来たんだって。

 達也の手が、達也の唇がヒロコを愛してる。ヒロコのすべてを愛そうとしてる。そして何度も何度もヒロコを落ち着かせるために口づけを与えてくれた。

「ああっ」

 そ、そこは・・・来るのは知識にあるし、必ずそうされるってわかっていても、実際にされると耐えるしかなかった。それも唇からだった。

 達也は丹念に丹念にヒロコの大事なところを愛してくれている。シーツを握る手に力が入る。こんなの耐えられないよ。でも、でも、これで終わらいないのはヒロコでも知ってる。今夜はそれを達也が望みヒロコが受け入れた日だもの。

「行くよ」
「うん」

 熱くて逞しいものがヒロコにあてがわれている。ヒロコはシーツを引き千切れるぐらいつかんでた。

「うっ」
「痛くないか」

 来る、達也が来る。ゆっくりと、でも確実にヒロコに入ってくる。ヒロコの全神経はそこに集まってる。こ、これが達也。

「痛い」
「ゴメン」

 口づけで慰めてくれたけど、終わってくれるはずもなく、

「うっ」

 また進んでくる。達也はヒロコの反応を見ながら、何度も何度も休みながら進んできた。もう限界と思った時に、

「ヒロコ、ちょっとだけ我慢してね」
「あっ」

 そこから一気だった。

「うぅぅぅ」

 達也のすべてを受け入れたってわかった。だって身動きできないよ。でもこれで終わりじゃない。ここから始まるぐらい知ってるけど、こんな状態からホントにあるの。こんなものどうやって耐えれば、

「ヒロコ、愛してる。もう離さないよ」
「達也、達也」

 この言葉が合図の様に達也は動き出した。男が動くとこうなるのを体で覚えさせられたよ。受け入れるってこういう事なんだって。なぜか涙が出るのをどうしようもなくなった。何分ぐらい経ったのだろう、すっごく長いような気もするし、短いような気もするけど、達也の動きが一段と早くなって。

「愛してる」
「あぁぁ」

 達也がヒロコから去って行くのがわかったけど、あれだけ大変な目に遭ったのに、なぜか去って行って欲しくないと思ったのが不思議だった。もう泣きじゃくり状態のヒロコを達也はずっとずっと慰めてくれたよ。


 気が付いたら朝だった。いつしか眠ってたみたいだけど朝の光が眩しい。これは二人の朝。もう昨日までの二人と違う。扉を開けて新しい世界を歩みだしてるって強く強く感じてた。

 あれはまさに扉だった気がする。ヒロコがずっと守っていた扉。そこに達也を迎え入れられたけど、やだシーツに、

「ヒロコ、頑張ったね」
「うん」
「痛かっただろ」

 痛かったけど、その何倍も嬉しい気分に満たされてる。そうだよ、もう離れないし離れられない気持ちしかなかったもの。隣で寝ている達也が最高に愛おしい。この世の幸せを一身に受けてる気がする。

「ヒロコは幸せ」
「ボクの方が百倍幸せだよ」
「だったらヒロコはその千倍」

 確信した。この世に赤い糸はあって、それが結びついてるのが達也だって。そんな達也を受け入れた自分が誇らしい気さえした。