純情ラプソディ:第53話 無償の愛

 試合場には決勝らしくチームごとの控室まで用意されてるんだ。ちょうど試合場の隣ぐらい。五回戦も戦うから、試合の合間に休憩を取ったり、作戦タイムを取るためで良いと思う。さすがにリッチな大会だ。

 試合開始時刻までに試合場に着席すればOK.京大は既に着席してるけど、こっちは雛野先輩と片岡君待ち。でもヒロコも必ず来ると思う。ビールのためもあるけど、必ずあの二人は上手くいくに違いないと思うもの。

 だってもう間違いない、雛野先輩も片岡君が好きなんだ。いつからかはわからないけど、ずっと好きだったに違いないもの。でも年下だし、レイプの過去も気になって避けてたんだよ。

 雛野先輩は愛するが故に片岡君を退けようとしたんだ。でもどうしても諦めきれなかったで良い思う。諦めきれない想いがレイプ体験のカミング・アウトだったはずだよ。そりゃ、そんな話を聞かされたら九十九・九%の男は引くと思うんだ。

 雛野先輩は愛する片岡君に隠し事はしたくなかったに違いない。だからカミング・アウトして完全に終わらせようとした気がする。でも、でも、どこかで受け止めて欲しいの想いもあったはず。そんな雛野先輩の想いを片岡君は全身で受け止めたんだよ。

「ヒナも素直になれば良いのよ。惚れたら年下も年上も関係ないじゃない。レイプの過去だって、レズの過去だって気にするような男なら相手にしなければ良いだけ。今のヒナに惚れる男ならいくらでもいるんだよ。どれぐらい自分がイイ女になってるかぐらい鏡を見やがれ」

 それってもしかして、

「ああそうだよ。ヒナはレイプ体験を辛うじて克服はしてた。でも完全じゃない。完全なんて一生かかっても無理に決まってる。出会った頃のヒナは男性恐怖症もあるけど、男に完全に自信を失ってたんだよ」

 わかる気がする。

「こんな穢れた過去を持つ女に惚れる男なんているはずないってね。あの頃のヒナは地味の権化の陰気な女だったよ。ヒナを綺麗にするためには恋をさせなきゃいけなかったんだよ」

 えっと、えっと、

「だからムイムイはヒナを受け入れた。男に恋が出来ないなら、女に恋させるしかないじゃないか」

 でも女に恋ってなると、

「悪いけどムイムイは女に興味がない。女の愛し方も知らなかった」
「それってキス程度で留めたってことですよね」

 梅園先輩は渋そうな顔をして、

「あのね。そんなものでレズって言わないよ。仕方がないから、女が女をどうやって愛して喜ばせるか調べたし、勉強もした」

 そ、そんなことまで、

「やるからには本気でやらないとヒナに通じるものか。ちゃんとやったわよ。もちろんキスもしたけど、その次も最後までね」

 最後って、やっぱり。

「当然だよ。ヒナのすべてを愛してやった。もちろんだけどヒーヒー言うまで喜ばせてやった。そこまでやらないと本気の恋愛にならないでしょ」

 そりゃレズでも本気で愛し合えば、たぶんそこに行き着くはずだけど、

「あの時に困ったのは、男って出したら一段落じゃない。ヒナがやられた時だって、他の三人にやられている間は休んでたからこそ次が出来てるんだよ」

 話がヤバくなってきた。

「ところが女同士はまさにエンドレス。とにかく時間と体力の続く限りだから、そっちに参った」

 ちょっと、ちょっと、そこまでフルコースで、

「ああそうだよ。恋する者同士のアレって、そうならなきゃおかしいだろ。ヒロコ、わからない、ヒナがこれでどう変わったか」

 どうって言われてもレズやっただけ。

「ヒナにはあれこれ怖いものが残ってるけど、一番怖いのは性行為じゃない」

 たしかにそうだと思う。悲惨すぎる記憶しかないものね。

「それを女相手にしろ出来るようになったってこと。あれって裸になって相手に身を委ねる事じゃない。これでヒナは女相手だけど体を開くことが出来たんだよ」

 なるほどそう言う意味か。

「ヒナは女相手でも最初は怖がってた。ガチガチに震えてたのをよく覚えてる。でも勇気を出してムイムイに体を預けてくれたってこと。後はムイムイの仕事。ムイムイもその点は初心者だったけど、ヒナも初心者だったからなんとかなった」

 具体的になにやったかは早瀬君たちもいるから聞けなかったし、言われてもわからないと思う。

「それだけじゃない。体を開くことで得られる女の喜びも初めて経験できたんだ。それを堪能させるまで感じさせるのが重要だった」

 あ、あまりにも強烈でモロ過ぎる。ちなみにだけどレズ行為だけど常に梅園先輩がタチで雛野先輩がネコだったそう。

「それはヒナに受け身での喜びだけ感じてもらうため。ヒナとのレズはあくまでもリハビリみたいなものだからね。相手こそ女だけど、やられる行為の基本は男にやられるのと近いぐらい。そうやっておいて、ムイムイを男に置き換えればOKになる」

 ここも、

「正直な話、ヒナのためにタチやって責めたけど、さすがにネコまでは無理。言い訳すればヒナにタチまでやらせたら本物のレズになりかねなかった」

 そこまでの努力の結果で、雛野先輩は梅園先輩への恋に溺れるぐらいになっただろうけど、

「そこまでヒナに恋させたから綺麗になろうと思い出したし、ムイムイも恋をしたヒナを綺麗にしてやったよ。どんな男でも振り向くぐらいにね」

 ひょっとしたらあのコスプレも、そのための一つだったかもしれない。

「ヒナはムイムイへの恋が上手くいって、ようやく自分への自信を取り戻すキッカケをつかんでくれた。次は男に向かわせるだけ」

 簡単に言うけど、もし男への恐怖症が拭い去れなかったら、

「その時は死ぬまでヒナとレズして暮らす。それだけのこと。ヒナが望めば覚悟を決めてネコになる」

 ぐぇぇ、いくら友だちでも、そこまで出来ないよ。

「それでもヒナは男が怖かったし、自信もなかった。だから賭けをした」
「賭けって藤原君ですか」
「そうだよ。ポッと現れた男でも、一目見たらヒナに夢中になるかどうかをね」

 そこまでやるか。

「やるよ。それがヒナのためならなんだってやる。他人にどう言われようが、どう思われようが関係ない」
「藤原君はやはり道具だったのですか」

『パ~ン』

 痛~い。頭を殴らなくても。それも梅園先輩の払い手じゃない。

「藤原君はヒナに惚れていた。全部聞いても微動だに動揺しないぐらいにね。だから藤原君にムイムイは託した。道具なんかじゃない、ムイムイがヒナのために選び抜いた男だよ」

 そうだったんだ。

「藤原君は真剣だった。結ばれてもおかしくなかった。でも実らなかったのは誰のせいでもない。あえて言えばヒナが悪い。最初っから片岡君が好きなら、そうすれば良かったんだ。それをあんなに回り道させやがって」
「いつ気づいたのですか」
「そんなもの今日に決まってるでしょ。知ってれば最初から片岡君とくっ付けてたよ。嫌がろうが、抵抗しようが、押さえつけてでもくっ付けてる」

 梅園先輩なら本気でやりそう。いや必ずやったはず。その時に片岡君をポチにする必要があれば、絶対にそうしてたはず。雛野先輩に必要なら、遠慮も情け容赦もしそうにないもの。

 でもこれも愛だ。梅園先輩の雛野先輩への愛だ。実際にもレズ関係にもなってるけど、そんなちっぽけな愛じゃない。もっともっと大きな愛だよ。ただの友だちに出来るようなものじゃない。雛野先輩を愛し抜いたが故に、報いなどなにも求めないピュアすぎる愛としか思えない。

「梅園先輩は雛野先輩のことを」
「どうだろうね。もしムイムイが男だったらヒナを口説いてたかもね。だけどやっぱり女はダメだね。やっぱり男がイイよ。ヒナとあれだけやってもレズはやっぱり好きじゃない」

 そこでふっと笑って、

「お似合いだね」
「はい。素晴らしいカップルになります」
「ヒロコも早くやっちゃいな。早瀬君が逃げちゃうよ」

 なんか凄いものを見せられた気がする。片岡君も梅園先輩も。人を愛するってここまで出来るんだ。