ここでカスミンが、
「片岡君、雛野先輩の返事だけど、そのまま受け取るつもり? はい、そうですかって終わりにするの?」
カスミン、それを片岡君にこの場で言わせるの。こんなもの突然聞かされて答えられないじゃない。そしたら片岡君は憤然として、
「藤原が彼氏でないのなら、ボクを彼氏にしてください。雛野先輩がポチであって欲しいと言うのなら、喜んでポチになります。藤原にポチを譲った後悔は二度としたくありません」
片岡君がポチに喜んでなるって! あんまり見たくないけど、雛野先輩のことをそこまで。雛野先輩の顔がもう涙でグチャグチャ。
「ダメ、絶対にダメ。ヒナに関わるとロクなことにならない。片岡君にヒナは相応しくない。他のもっと、まともな女を選ばないといけない」
これって本音は、
「雛野先輩のどこがまともじゃないのですか。素敵すぎるレディです」
「だから穢れちゃってるから」
「どこも穢れていません。男とやっただけで穢れるのなら、世の中の奥様はすべて穢れ切って腐っている事になります」
それはたとえがあまりにも。こういうものは相手が誰かはどうしたって気になるじゃない。
「夫婦や恋人のように愛し合って結ばれるのと、男の性欲の犠牲になるのは根本的に違う。一緒にできるはずがない」
「一緒には出来ないのは仰る通りです」
やっぱり片岡君も気になるよね。
「違いは愛し合って結ばれる時は楽しく、男の性欲の犠牲の時は辛いだけでしょう。そんな犠牲になったことは悲しいことですが、相手は人間の男であることは同じです。だから穢れるはずがありません」
ホントにイイの。
「ヒナのはレイプよ。それも一人じゃなくて四人が相手だよ。違うに決まってる」
「違いません。夫婦や恋人であっても、レイプであっても、その相手が何人であろうとも、一夜に何回やろうとも単なる過去の性行為に過ぎません」
レイプを単なる性行為って・・・そこまで割り切って本当に言えるの?
「半端な穢されかたじゃないって言ったじゃない。聞いてなかったの。ヒナの全部よ。それも普通のカップルなら話題にも出来ないところまですべて穢されまくっているんだよ。それも念入りに、何回も、何回も数えきれないぐらいやられて、ガバガバにされてるぐらい穢されてるのよ」
雛野先輩、その話はもうやめようよ。
「洗ったら終わりです。それで元通りになります。傷ついてたって時間が経てば治ります。ガバガバに緩んだのは一度に多人数を相手にしただけの事。人間の体の復元力を舐めてはいけません」
おいおい、そりゃ見た目と言うか、今はそうかもしれないけど、
「それだけじゃないのよ。その時に妊娠させられて一度堕ろしちゃってる体だよ」
「それがどうしたと言うのですか。ちゃんとした病院で堕ろせば次の妊娠になんの影響もありません。雛野先輩はどこも、なに一つ穢れていません。どこをどう見たって、何を知ろうがピカピカに輝いてます」
しびれた。そこまで言い切れるんだ。
「レイプだけじゃないよ。男が怖くなってレズに走ってしまった変態女だよ。これのどこが、まともだって言うのよ。ヒナは女に喜ばされてしまった女だよ。そんな変態女を選んじゃいけない」
「女が気の迷いからレズ行為に走る事があるぐらいボクだって知っています。でも雛野先輩は真性のレズではなく男を愛しています。ボクにとってはそれだけが重要で、どこをどう見ても、どこをどう切り取っても、まもとな女です」
痺れた、完全に痺れた。片岡君だって、今この場で雛野先輩の悲惨な体験を聞いたんだよ。集団レイプだけでも余裕で衝撃なのに。それで妊娠させられて、堕ろして、レズまで走ってるんだよ。ついでに言えばポチもある。
こんな最悪セットをいきなり聞かされて動揺しない人間なんていないよ。だって冷水をバケツで何杯も何杯もぶっかけられたのと同じじゃない。そんな女への愛なんて一瞬に醒めたって薄情とは思わないもの。
もちろん、それを乗り越えて、受け入れ、愛することが出来る男だっているだろうけど、それだって心の整理をする時間が絶対に必要なはず。もしヒロコが逆の立場だったらそうだもの。
なのに、なのにだよ。片岡君は即答じゃない。そんな事が出来るのは、雛野先輩を心の底から惚れている以外にないはず。そんなものじゃ、全然足りない気がする。惚れて愛したからには、すべてを当たり前の様に受け止め認める心構えが、まるで岩の様に固く出来てるとしか思えない。
片岡君がどれだけ本気で雛野先輩を愛しているかは良く判った。これ以上の証明方法が思いつかないぐらい。世の中にはこんな男が本当に実在するんだ。惚れ惚れするぐらいの男、いや、ここまで来ると男じゃ足りない、まさに男の中の漢だよ。
「過去がなんだと言うのですか。一度の過ちは死ぬまで許されないとでも言うのですか。雛野先輩のは過ちですらない。雛野先輩が望まないのに強制されただけじゃありませんか」
「でもレズはヒナから望んで」
「それはレイプ被害があったから起こったセットみたいなものです」
片岡君は何が何でも雛野先輩を手に入れるつもりだ。
「半歩だけ譲りましょう。雛野先輩には他人に言えない過去があるのは知りました。そういう事を気にする男が多いのも認めます」
これはそうだとしか言えないけど、
「本当の問題はそこじゃありません。雛野先輩のそういう過去を相手が認めるかどうかだけじゃありませんか。ボクはすべて認めます。気にもなりません。気にもならないから、こうやって告白しています」
格好イイ。それも片岡君が言うから渋いし、重いし、決まるよ。雛野先輩は片岡君の愛に応えるべきだと思う。だってだよ、藤原君にも応えていたじゃない。片岡君なら自分が許せないはダメだと思う。
雛野先輩が困ってる。いや、あれは悩んでる。片岡君の愛を受け取って良いべきかどうかを悩んでるはず。それにしても片岡君の愛は本当にストレートだ。真正面からグイグイ迫って行く感じ。あれだけひたむきに迫られたら逃げ場が無くなる気がする。違うよ、逃げなくても良いんだよ。雛野先輩も心を開くべきだ。
「ムイムイ、ヒナはどうしたら・・・」
「そんなもの決まってるじゃない。なんなら今からここでやってもイイよ。ビールはあきらめる」
おいおい、なんてダイレクトな。いやモロ過ぎるよ。
「ヒナはそれを越えなきゃいけない。越えるためには、越えさせてくれる男が必要。どんなに苦労しても一緒に越えてみせると言う強いハートを持った男がね。片岡君にはあると思う。ヒナも女なら素直に受け入れろ。好きなんだろ」
ここで梅園先輩は、
「試合は十五分後に始まるから、ムイムイたちは先に行ってる。ヒナも片岡君も来てくれると信じて待ってるよ。さあ、みんな行くよ」
梅園先輩も男だ。控室を出た時に、
「怒るよヒロコ。こんな美人の男がいるものか。ムイムイは百%混じり気なしの女だ」
「来ますよね」
「来るに決まってる。ヒナもビールをあきらめるものか」
そこじゃないでしょうが。