「ユッキーに来てもらったのは、これを読んでもらうためやってん」
一束のコピーになにやら文字のようなものが、
「なんですか」
「セレネリアンがもっていた手帳のコピーや」
「それって機密指定じゃ」
「あれだけ世界中にばらまいたら手に入るで」
まあそうだけど。ユッキー副社長は興味深そうに読んでいましたが、
「とりあえず現代の統一エラン語じゃないね」
「ディスカルも読めへん言うとったわ」
ミサキも読みましたがチンプンカンプン。
「ほいでも数字部分は解読されてるんやけど」
そんなものまで手に入れてたんだ。
「似てるね」
「そやろ。この辺なんか結構似てる気がする」
なんに似てるかと聞いたら原エラム語だそう。原エラム語は一万五千年前にエラン人が築いたエラム基地の末裔が話していた言葉で、これがエラム語になり、シュメール語にも影響したとなっています。
「その眼で読むと、ここなんかほら・・・」
「そうだね。ここもなんとなく・・・」
そうなるとあのセレネリアンはエラン人になるけど、
「結論を急がん方がエエで。手帳はエラン製のものと考えてもエエけど、エラン製の手帳持ってるからエラン人とは限らんで」
ただ内容については二人がかりでも殆ど読めません。
「こいつの字は汚すぎるわ」
「悪筆過ぎるよ」
ミサキの目では字の良し悪しは判別できませんが、そんなものの判別が出来るのはこの世に二人しかいないかもしれません。
「ユダもわかるで」
「まさかユダに協力を」
そしたら二人は声をそろえて、
「やだ」
でしょうね。それから二人で読めそうなところを探し回っていましたが、まるで判じ物みたいなみたいなもの。かなり時間が経ってから、
「これはギガメシュと読むんじゃない」
「ユッキーもそう思うか。これって国の名前やないやろか」
「神とか指導者の名前の可能性もあるけど」
何度か出てくる文字パターンに注目されたようです。
「この並びは表音文字だけやろ」
「表意文字は混じってないでイイと思う。たぶんやけど表意文字の場合は・・・」
「わたしもそう思うけど、国名なら表意文字にしそうなものじゃない」
「その辺は文化の違いがあるから、なんとも言えんけど」
エランもよくわかってないけど、そのエランの五万年前と言われても想像しようがないものね。
「ユッキーはジュシュルからエラン史聞いた?」
「どのあたり」
「先史時代」
「それが殆ど話してくれなかったの」
ジュシュルもそうだったんだ。ジュシュルは、
『あれを偉大なるアラが封じた気持ちはよくわかる。指導者は知っておかないとならないし、その過ちを繰り返さないようにしなければならない』
でもそうなると、
「ディスカルにエラン史の調査を命じてますが、怪鳥の時と同様に開かないんじゃないですか」
「その可能性はあったんやけど、例のカギやけどガルムムが持っていたのとジュシュルが持っていたのは同じでエエみたいや」
えっ、どういうこと。
「宇宙船の建造を命じたのはアラやんか。そやからデータ・バンクもアラ時代の設計のままで作られて、カギもまたそうやったみたいやねん」
「そうなると」
「ディスカルも言うとったけど、おそらくベースは総統府にあったデータ・ベースをそのままコピーしたと見て良さそうやねん。再編集するのがメンドクサイからやないかと思うで」
なるほど。
「アラにとって他のエラン人に読んで欲しくないところだけ封印したんやと思う」
「だから統一野菜のところだけ」
「エランの先史時代もやりかけた痕跡があるみたいやけど、その頃は反アラ戦争が始まっとったやんか。そやからかなり不完全と見て良さそうや」
それどころじゃなくなってたものね。
「アラかって一号機、いやあれって初号機っていうらしいけど、どっちか言うたら試作品みたいなのに乗って地球に逃亡したぐらいや」
「だからあれだけトラブルを抱えてのものになったとか」
「それだけやなくて、時空トンネルの様子も荒れ模様やったんもあったみたいやけど」
そうだったんだ。
「ディスカルはかなり調べられているのですか」
「近いうちに報告があると思うで。ミサキちゃんも聞いてみたら」
それは無理だろうな。普段のディスカルは温厚な紳士だし、家事だって積極的に手伝ってくれる。たぶんエラン人夫婦ってあんな感じだと思ってる。マルコも協力的だったけど出来るレベルが段違い。
だけど元軍人。というより、今でもエラン総統府親衛二番隊長の気持ちのまま。もうそれは無くたって言ってみたんだけど、
「総統府からの命令は解除されていない。これを解除できるのは親衛隊の場合、ジュシュル総統のみ。ただ一人になってもこれを守るのがエラン軍人」
「そういうけど」
「ミサキの言いたいことはわかる。しかしこれは私とエランを結ぶ最後の絆だ。これが無くなれば根なし草になってしまう」
そのためだと思うけど、とにかく仕事の機密はキッチリ守るのよね。エラン史の調査だって、コトリ社長の直命だから、報告するまではミサキにも話してくれないぐらい。
「もう少し待ってくれ。ミサキがこの報告書の内容を見れる人間であるのは良く知っている。その時に一緒に聞くことになると思う」
とにかく組織の命令を守る点では教科書みたいな人。だってこの文書の解読を頼まれた事なんて一言もミサキに話さないぐらい。軍人ってそういう人種なのかもしれない。