セレネリアン・ミステリー:これも真相

 エラン人と地球人の種として近い原因は多様に進化したエラン人類の中でたまたま勝ち残ったのがそうであったの解釈で良いのでしょうか。コトリ社長は、

 「結果から見ればそう見るしかないけど」
 「でもコトリ、奇跡的過ぎると思わない」
 「そりゃ、そうやけど、エランでもこれぐらいしかわからへんやんか」

 まあそうだけど、ユッキー副社長が違和感を持つのはわかる。

 「ところでディスカル、遺伝子操作の技術は五万年前でどれぐらいだったの」
 「なんともはっきりしませんが、相当なレベルだった感触があります」

 これも人種間戦争の副作用見たいなもので良さそうです。とくに第三期になると見た目では区別が難しい時があり、遺伝子レベルで見分けたり、逆にスパイとして見破られないような操作も行われていた形跡があるようです。

 「言うてもたらどうや」
 「なにをですか」
 「最終戦争の前にそろえてもたんやろ」

 そろえるって、なんの話。

 「同じ種でも住む環境によって見た目に違いが出るのは地球人類見てるだけでわかるやんか。ほいでもエラン人はみんな一緒やん」
 「そうなのよ。ガルムムの時の乗組員も地球で言ったら北欧系の白人ばかり、ジュシュルの時もそうだったわ。あまりに多様性が乏し過ぎるのよ」

 たしかにそうだった。

 「さすがですね。第三期人種間戦争はまさにその違いで行われています。ですから二度とそんな事がおこらないように操作されています」

 そんなことまで出来たんだ。

 「それだけやないやろ。第一期はさすがに無理やったやろけど、第二期ぐらいになったら出来たんちゃうか」

 ディスカルの顔が苦しそう。

 「エランが先史時代を伏せたんは、人種間戦争は殲滅戦でもあったけど、改造戦の側面もあったはずや」

 そこまでやってたの。

 「確証はありませんが、強制収容所でそれをやっていたらしいの話が残されています」
 「それが劣勢やったエラン人種が第二期人種間戦争で勝ち残った勝因の一つやろ。なんやかんやと言っても戦争には数がいるからな」
 「・・・」
 「第三期は勝ち残ったものの、純血種と改造種の争いになったんや。それが種が違うけど、同じ種やった原因に違いない」

 ディスカルの顔色が、みるみる悪くなる。そこから苦しそうに、

 「エレギオンの女神にウソは通用しないみたいですね。その通りです。人種間戦争は遺伝子操作による人種改造合戦でもありました。この時にエランの遺伝子科学は極限にまで発展しています」

 なんとそこまでやっていたとは。

 「これで話の辻褄はだいぶ合って来たわ」
 「そうよね、そうじゃなくっちゃおかしいもの」

 なになにコトリ社長とユッキー副社長は何がわかったっと言うの。

 「ディスカルが言いたくないのはわかる。たぶんやけど最終戦争後のエラン人の指導者も後世に伝えたくなかったんやろ。そりゃ、最後に勝ったんは改造種やなんてな」

 ええっ、本当にそうなの。

 「そんなもん見たらわかるやろ。種の改造のためにはモデルがいるやんか。どうせ改造するならエラン人の中でも格好エエやつをモデルにするはずや」

 言われてみればエランの乗組員は全員似てるだけでなく、例外なく背も高くて眉目秀麗。

 「純血種が勝っとったらもっとバリエーションがあるはずや。能力もな」

 そっか、人種改造は見た目もそうだけど能力を高めてもおかしくないのか。

 「地球では天災であるトバ・カタストロフで人種が減っただけやなく、人口が激減しボトルネック現象まで起って遺伝子の多様性が失われとる。エランでは天災が起らんかった代わりに遺伝子操作で遺伝子の多様性が失われるボトルネック現象が起ったんや。いや起させたとしてもエエやろ」
 「その通りです」
 「そんなもん、子孫に教えられるもんやないで。それに、そこまで出来たらさらなる改造も可能になるやんか。そやから人類への遺伝子操作技術は完全に破棄されてもたぐらいやろ。同時にエラン人が改造種であることも伏せたんや」

 技術が進み過ぎるとそうなるのか。

 「ディスカル、あんたの忠誠は今でもエランやな」
 「えっ、そ、それは・・・」

 あのディスカルが答えに詰まるなんて、

 「まあエエけど。しっかし、アラもジュシュルもそうやったけど、エラン人はウソが下手や。ようそんなんで生き残れたもんや」

 それは地球の神が一万年もウソつき合戦をやってたからでしょうに。息を吐くようにウソを吐くコトリ社長に言われたないわ。

 「ギガメシュの話もあそこまでウソつく必要はないやろ。あそこまで話しといて、移住計画がなかったとするのは無理がアリアリや」
 「でも、コトリ。そこの点はまだ疑問が残るよ」
 「そこも答えが見えてる気がする」

 どういうこと、どういうこと。

 「最初は持ってこようと思たんでエエんちゃうやろか」
 「それで説明可能だけど、その前の状態よ」
 「一つしかない気がするけど」
 「そりゃ、そうだけど、どうなのディスカル」

 なんの話よ。

 「ミサキちゃん、わからんか。そこまでの技術を持ってるんやで。それに技術水準的にはアラの時はカルト教団でも作れたぐらいや」
 「それって、もしかして」
 「そういうこっちゃ。戦争は人種間戦争やんか」

 でも五万年前。

 「ディスカル。最終戦争は二万年前やない、五万年前に起ったんや。違うとは言わさへんで」

 あっ、ユッキー社長の顔が怖い顔に。それだけじゃない睨みも入って来てる。

 「ちょっと待ってください。ディスカルを責め立ててどうしようというのです。どんな民族だって黒歴史の一つや二つもってるでしょうし、それがあったからって、その遥か子孫に罪があるわけではないでしょう」
 「いいんだミサキ」
 「だって、ユッキー副社長はあんな顔までしてるんですよ。どうしてディスカルがこんな目に遭わなくちゃいけないの。こんなもの許せるものですか」
 「それでもいいんだミサキ。エラン人は生き延びるために地球人を利用していた」

 ミサキの頭が混乱してます。

 「なにを言いだすのディスカル。今日は帰りましょう」
 「いやエラン人として最初から話すべきだった。社長にウソは通用しない」

 コトリ社長は、

 「ミサキちゃんにはわからないかな。人類滅亡兵器の対抗策の一つはなんだったか覚えてる」
 「地球人の血液です。だからジュシュルはあれだけの血液製剤を持って帰ってます」
 「そうや。地球人の血が人類滅亡兵器への対抗策であることは誰が見つけたんや」
 「それはアラのはず」
 「なんでアラは知っとったんや」

 なんでって言われても、

 「連れ去られた地球人の優遇にもウソが混じっとる。完全人工生殖のためとしとったけど、誰が異星人と争ってエッチをしたがるものか」
 「そんなことはないです。コトリ社長だって、ユッキー副社長だって、ミサキだって」
 「エラン人から見たら言葉も通じへんし、原始人みたいな連中やで。シオリちゃんがエエこと言うとった。まるでクロマニヨン人に性欲覚えるようなもんやて」

 ミサキを変態とでも言う気なの。それだったらアダブとやったコトリ社長も、ジュシュルとやったユッキー社長もド変態じゃないの。

 「ディスカル、人類滅亡兵器は何回使われたんや」
 「最後の物はアラ時代なのはそうですが、最終戦争時には数えきれないぐらい」
 「だから宇宙探査をあれだけやったんやろ」
 「そうです。ギガメシュが見つけた地球と地球人を求めてです」

 ディスカルが観念したように、

 「最終戦争時の人類滅亡兵器の影響は、アラ時代に最後に使われた物より効果は弱く限定的なものではありました。ただし使われた数が半端ありません」
 「そりゃ劣勢になれば使いまくるやろ。あれは改造種を狙い撃ちするからな」

 話が何かつながってきたような。

 「お見通しですね。読めたのですか」
 「ディスカルでも読めるものをコトリやユッキーが読めへんはずないやろ」

 えっ、えっ、えっ、みんな読めてた上で今までの話をしてたとか。ここでユッキー副社長が、

 「あれは字体が古いし、手書き部分は悪筆だけど、原エラム語にかなり近いのよ。ディスカルだって最初は読めなかったと思うけど、データ・バンクに古語辞典ぐらい入ってると思うから読めたってこと」
 「それだけじゃないでしょう。データ・バンクの操作法も覚えられたようですね」
 「あんなもの一度見ればわかるわよ。コトリは三回ぐらいかかったみたいだけど」
 「うるさいわ。ユッキーが早すぎるだけや」
 「コトリがノロマなのよ」

 じゃあ、全部知ってた上で・・・腹立った。

 「知ってるのなら、あそこまでディスカルをイジメる必要はないでしょうが!」
 「やっぱりエラン人の裏付け欲しいやんか」
 「それだけのために怖い顔や睨みまで使うのですか!!」
 「コトリは使てへんで」
 「ユッキー副社長です!!!」
 「あらそうだったかしら」

 こいつら、

 「ディスカル、帰ります。こんな座興に人が付きあうものじゃありません。社長も、副社長もヒマ潰しやってただけです」

 渋るディスカルを引きずって帰らせてもらいました。