宇宙をかけた恋:大団円

 ディスカルは科技研に就職となりました。科技研でもっとも力を入れていて、活気のある部門はエラン技術部門。ここは三十五年前の第二次宇宙船騒動の時に手に入れたエラン宇宙船の委託研究と、第三次宇宙船騒動の時にコトリ副社長が騙し取った、もとい習得したエラン技術の地球への応用を研究する部門です。

 ディスカルはエラン人とは言え軍人ですから研究者でないのですが、ディスカルには誰も真似できない特技があります。そうなんです、現代エラン語が読み書きできるのです。その代りに日本語が怪しいところがありますが、あれだけ読み書きでき、さらに各種装置の操作法も知っているので実力で重い地位を占めています。

 この辺は奇異がられるところもあるのですが、そこはそれ、あれこれ工作を重ねたのと、科技研も能力至上主義の面が高いので、そういう余人に代えがたい特殊技能者は歓迎されています。


 ディスカルとは正式に入籍しました。ですから今は霜鳥ディスカルです。ただし結婚式も披露宴もごく内輪のものにしています。参列してもらったのはユッキー社長、コトリ副社長、シノブ専務の他に、シオリさん御夫妻、それに準メンバーともいえるマドカさん御夫妻です。

 参列者は少なかったですが、撮影はなんとあの渋茶のアカネ先生です。それは、それは綺麗に撮って頂きました。動画の方はオフィス加納の動画担当部門長であるサキさんです。まるでプロモーション・ビデオのような見事な仕上がりになりました。


 ハネ・ムーンに関してはディスカルから希望がありました。ミサキは地球での見聞を広めるために、定番のコースでも良いと思っていたのですが、

    「エランの神話では、人工物じゃない自然の風景がかつてあったそうなんだ。そこには美しい海と天然の森があり、人々はそこに争って出かけたらしい」

 もう少し聞くと千年戦争よりずっと前の最終戦争の前と言いますから、二~三万年ぐらい前のお話のようです。この最終戦争は、モロ核兵器の打ち合いだったそうで、この時にエランの殆どの地域は放射能に汚染され、生き残った人々は汚染されていない地域、汚染が比較的軽い地域に限定されて住むようになったとされます。

    「最終戦争と名付けたぐらいだから、もう戦争は起らないはずだったのでしょうね」
    「そうだったはずだけど、人類はアホだ」

 ちなみにディスカルが地球に亡命することになった戦争は、

    「名づける者はいても、語り継ぐ者がいない滅びの戦争だよ」

 エランの事はともかく、ディスカルの希望に沿う場所を相談したら、シオリさんが、

    「それならツバルはどう」

 そしたらアカネさんが、

    「そりゃ、天国に一番近い島だと思うけど、それこそなんにもないよ」

 さらにアカネさんが、

    「でそのツバスだけど」
    「それはハマチのちいさなやつ。ツバルだ」
    「そうそのツバルの首都のスナフキンは・・・」
    「アカネ、スナフキンじゃなくフナフィティだ。イイ加減覚えろ」
    「それそれ。五千人しかいないけどまだ街だったよ。出来そこないのペンションみたいな宿もあったけど」
    「あれは出来そこないのペンションではない。あれでもツバルの三ツ星ホテルだと言ったろ」
    「最後にツバサ先生と行ったヌメヌメ環礁なんて」
    「ヌメヌメではないナヌメア環礁だ」
    「なんにもなくて、キャンプ道具から食糧まで持ちこんでのサブイボ・キャンプだったし」
    「それをいうならサバイバル・キャンプだ。そこまでひどくなかったぞ」
 アカネさんのぶっ飛びは相変わらずですが、ディスカルが異常に興味を示したので行ってきました。ハネ・ムーンにはどうかと思ったけど、ディスカルが望んでるし、こんな機会でもないと訪れることはないだろうし。

 ユッキー社長がプライベート・ジェットを使わせてくれましたが、まさに天国に一番近い島。島めぐりをやったり、キャンプもしましたが、ミサキも大満足しました。でも半端な覚悟で行けるところではないのは良くわかりました。

 新婚旅行から帰ると新居。ここも懐かしい場所で、マルコと住んでいた借り上げ社宅のところ新築しました。えへへへ、ちょっとこだわってるかも。でも今度はちゃんと買ってます。


 それでね、それでね、ついについにです。病院で確認してもらったら、

    『オメデタです』

 ディスカルなんて飛び上るぐらい喜んでました。これも聞いたら、エランでは結婚して子どもが二年出来なかったら自動的に離婚が成立してたそうなんです。それぐらい女性も、女性が妊娠することも貴重だったぐらいです。ディスカルは、

    「これで正式の夫になれた」

 地球じゃ、とっくの昔に正式なんですが、黙っておきました。もう一つディスカルが喜んでいたのは、

    「ミサキには心から感謝している。異星人を愛してくれた上に子どもまで。そう、この子は新しいエラン人の初代だよ」
    「違うわ、エランと地球の友愛の印の初代よ」
 普段のディスカルはちょっと日本語が変な白人ってところです。変と言ってもマルコより百倍マシです。まあ、マルコの件で懲りましたから、家でも出来るだけ日本語使っています。


 そんなディスカルが年に一度だけ、エラン人に戻る時があります。それは乗組員の墓参りに行くときです。特別に誂えたエランの軍装を着込みます。その時にディスカルはエラン暦でその日を決めます。

    「どの乗組員の命日なの」
    「この日は偉大なるジュシュル総統と、我が友アダブが命を懸けて我々を送り出した日。最後のエラン人として参る」

 帰り道で、

    「地球に来たことを後悔してる?」
    「あの時に死ぬべきだったと思ってる」

 やっぱりどうしてもね、

    「でも使命を授かり生き残ってしまった」

 ここにいるのはアダブで、ミサキじゃなくコトリ副社長だったかもしれない。

    「生き残ったからには、総統やアダブの夢を叶えたい」
    「どんな夢」

 これは地球からエランに戻る航海の途中であった会話だそうですが、

    『・・・なんだ、お前たちもか』
    『総統がまさか、あの小山代表とは驚きました』
    『これは三人の秘密にしよう。でもな、これで人類滅亡兵器を克服できたなら、私はエランを去る』
    『総統』
    『権力なんかより大切なものを見つけた。その時は一緒に来るか』
    『もちろんです。喜んでお供します』

 ここでディスカルは涙をハラハラ流しながら、

    「三人一緒に、
    『宇宙をかける恋』
    これを叶えたかった。私は二人の夢を背負ってる。今の私の使命はミサキを幸せにすること。これが二人に対する御恩返しと思っている」
 ミサキもユッキー社長とコトリ副社長の夢を背負ってます。二人で六人分の幸せを必ず実現させてみせます。これもまた女神の仕事。