「ミサキちゃん、ついに発表されたで」
ミサキも驚きましたが、月面基地で異星人が発見されたのは本当でした。コトリ社長はやっぱり見えてたのかな。
「それにしてもセレネリアンが地球人類と同じと言うのはワクワクするやんか」
「そうですけど、五万年前の人類がどうして地球に?」
「それこそセレナリアン・ミステリー♪」
さっそく買い込んだセレナリアン・ビールを飲みながら、
「たぶんやけど考え方は二つやろ。一つは異星人に宇宙服を着せられた地球人類が月に置き去りにされた。もう一つは地球人類と全く同じ異星人が月に置き去りにされた」
二つしかないですが、
「じゃあエラン人の仕業」
「その線も十分にあるけど、そもそもエラン人が地球人とほぼ同じ種ってのも無理がありありやねん」
種がほぼ同じ証拠はエランに連れ去られた地球人の子孫がいるのもありますし、我が家にも一人います。ミサキもセレネリアン・チップスを食べながら、
「エラン人の可能性は中間報告でも上がってましたけど、いかにエランでも五万年前に地球に来れたのでしょうか」
「そこやねん。ミサキちゃん、セレネリアン・サラミ切ってくれる」
「セレネリアン・ピクルスも出しますね」
「セレネリアン・チーズも頼むわ」
エラン史はディスカルにも聞いたことがあるけど、かなり複雑みたい。複雑というか、千年戦争からアラ時代を事細かにやるそうですが、千年戦争の前はお座なりみたい。ディスカルも、
『あれは偉大なるアラを賛美するためのプロパガンダも含まれていて、習う方はウンザリだった』
『ディスカルも歴史は嫌いだったの』
『好きな奴っていなかったんじゃないかな』
あっさり流される千年戦争の前もエラン統一政府が出来た頃までは、簡単ながら習うそうですが、
『その前は先史時代ってされて、学校では習わなかった。地球に較べたら長すぎるからね』
ですよね。
「そやそや、ミサキちゃん忘れとった。セレネリアン焼豚を買って来とってんや」
「よく買えましたね」
「だいぶ並んだけど」
これは美味しい。たぶん和記よね。
「そこまで行ったらセレネリアン豚まんも買ってきたら良かったですのに」
「あんなもん並べるか。三時間待ちやで」
観光客のターゲットみたいなものだし。ミサキもセレネリアン・ビールをお代わりして、
「エラン統一政府が出来た時に統一エラン語になったんですよね」
「一万五千年ぐらい前らしいけど、あれも考えたら変な気がする」
コトリ社長が言うには、そう簡単に自分の民族の言語を捨て去れるものかっていうところです。それをさせるには余程の圧政がなければ不可能じゃないかって。
「でもエレギオン人もエレギオン語を忘れてますよ。マルコだって知らなかったわけだし」
「そりゃそうやけど、エレギオン人と数の桁がなんぼ違うんよ。日本人が第二次大戦の時にアメリカの領土になってたら、日本語が滅んでいたかと言われたら疑問の気がする」
滅ぼそうと思えば大変な手間がかかるのはわかります。
「そうやセレネリアン豚まんは買えかったけど、セレネリアン味覇は買ってきたで、一つあげるわ」
「ありがとうございます。でも、どうせならセレネリアン味王の方が」
「売り切れやった」
中華街も大人気なのよね。
「そういうえばセレネリアン・シュリンプ・サンドは」
「案外、美味しかったで」
「今度、行ってみます。やはり並びますか?」
「そやな、一時間ぐらいで買えた」
ありゃまあ、何時間並ばれたことやら、
「ちょっと甘いものも欲しない」
「それだったら・・・」
「うひょ、セレネリアン・プリンやんか。よう手に入ったな」
そりゃ朝の五時から並んでましたから。
「エラン史の話に戻るけどアラもあんまり話してくれへんかった」
「アラでもですか」
「そうやねん、一時間ぐらい責め上げたんやけど、そんなに話しにくれんかったんかな」
責め上げたって・・・あの手をアラにも使ったのか。
「少しは聞けたけど」
どれぐらい少しか聞くのも怖いけど、
「エラン人類は地球人類と少し違うみたいや」
「でも種としては同じじゃ」
「ゴメンゴメン、今のエラン人は差がわからんぐらい同じやけど」
どういうこと。
「ちょっとディスカルに仕事を頼もうと思うねん」
「そういうからには業務じゃありませんね」
「そういうこっちゃ。女神の仕事になりそうな予感がする」
なにをするかと聞いてみれば、エラン史の調査。
「ディスカルだって知らないって・・・」
「あのデータ・ベースにあるんちゃうやろか」
「でも、あれは自衛隊が持って帰っちゃいましたけど」
怪鳥事件の時に使ったガルムムの宇宙船のデータベース。事件が終わるや否や血相変えて取りに来たもの。開かないデータ・ベースに意味はないと思うけど、ひたすら、
『管理は自衛隊』
この一点張りだったもの。自衛隊も官僚だってコトリ社長は笑ってた。もちろんカギは渡してないし、キーボードも外して、元のままで丁重に返却したけどね。
「あれをもう一度借り出すのは厄介ですよ」
「ああそれ、総理に交渉したらウンと言ってくれた」
こういう時にユッキー副社長なら怖い顔と睨みを使うのだけど、コトリ社長はひたすら交渉。ただし思い通りにならなかった事を思い出せないぐらい。『恐怖の交渉家』の異名はダテじゃないどころか、交渉の場にコトリ社長が現れただけでも、相手は絶望感に浸るとか、浸らないとか。
「ところで、その化粧ポーチ素敵ですね」
「エエやろ、百個限定のセレネリアン風化粧ポーチや」
「もしかして噂になってた」
「そうや、財務部総動員して応募させてやっと手に入れたんや。親戚まで動員させたで」
それ、やり過ぎだし公私混同もいいところじゃないですか。
「ミサキちゃんの財布も可愛いやん。それってもしかして」
「苦労しましたもの」
総務部を総動員して応募シールをかき集めましたからね。
「しかし毎度のこっちゃけど、ようこれだけ便乗商品売り出すもんやな」
「まったくですよ」
「あんなんラベル替えてるだけやんか」
「それを必死になって買い求める人がテンコモリいるのに驚きます」
「哀れなもんやな。うちは女神の矜持にかけて便乗商法はやらん」
「やるべきじゃありません」
今晩はセレネリアン風シチューに、セレネリアン風サラダ。後はやっとこさ手に入れたセレネリアン・ブレッド。ディスカルも喜んでくれるはず。朝はもちろんセレネリアン・ヨーグルトです。