セレネリアン・ミステリー:最終戦争と人類滅亡兵器

 「ミサキちゃん怒っちゃったね」
 「謎解き趣向で楽しんでもらえると思てんけど」
 「ミサキちゃんの物堅すぎるのは欠点よね」
 「やっぱり怖い顔と睨みの演出はやり過ぎやったかな」
 「そうみたいね。コトリの恐怖の交渉家の演出もね」

 どないしてギガメシュが地球から再離陸したかやけど、手間は少々かかるけど、シンプルな方法やった。当時のギガメシュでもブースターを使わずに離陸は可能やってん。問題は燃料。

 そこでエランの軌道上に宇宙ステーション飛ばして、そこに燃料貯蔵庫作ってるんよ。そこに丸菱の宇宙トラック見たいな輸送船を何度か往復させて必要な燃料を貯めこんだんや。

 それから地球探査船をエランから出発させるんやけど、エラン離陸で使った燃料を宇宙ステーションで補給。地球に着陸して再離陸って寸法や。燃料補給基地を月面に作る計画はあって、初期工事だけしかけたのがセレネー計画に使った洞窟。

 そやけど純血種と改造種の対立が深刻になってもたで良さそう。既に国ごとに純血種国、改造種国に人種分けさせれる状態まで言ってて、ギガメシュは純血種側の大国の一つぐらいと見て良さそうや。

 「それにしても嫌な対立構図ね、純血種はどうしたって改造種を下に見るでしょうし、能力は全体に改造種の方が高いでしょうし」

 この能力差は純血種側も意識しとったみたいやった。そやから秘密兵器の研究に励んだんよ。そうやって作り上げたんが人類滅亡兵器の元祖みたいなやつで、当時は戦力削減兵器と呼んどってんけど、

 「女性が妊娠しにくくなって、女の子が生まれにくくなるってやつ」
 「ホンマはそうやなかったみたいや。狙とったんは人の能力の低下やったみたいやねん。そやけど、そっちの効果は結果的にイマイチすぎるぐらいで、そやなくて後の人類滅亡兵器的な効果の方が強かったみたいや」

 兵器開発ってそんなもんやねんけど、この兵器にギガメシュは期待しとったみたいや。

 「ここは気づかなかったけど、対抗策も考えてから使用に踏み切っているのね」
 「たぶんやけどエランも一度使ったらすぐにマネされたんやと思うで」

 この対抗策に用いられたのがなんと地球からサンプル捕獲していた地球人。地球人の血液から作ったワクチンを使っておけば、同じ兵器で報復されても影響を阻止できるぐらいかな。

 やがて最終戦争が始まったんや。ギガメシュはここぞとばかりに秘密兵器を大量使用したんやけど、人類滅亡の効果の方はすぐに出るわけやないし、能力低下効果も低くて話ならんかったみたいや。

 最終戦争言うてもヨーイドンで始まった訳やのうて、まずは小国同士の小競り合いで始まって、これに大国が介入。これがエラン中に拡大していき、最終的には大国同士の直接対決にヒートアップした感じで良さそうや。

 戦況は一進一退の繰り返しやってんけど、徐々に純血種側が追い込まれていき、ギガメシュも本土決戦に追い込まれてもたぐらいでエエやろ。本土決戦になってもギガメシュの苦戦は続き、

 「それって起死回生と言うより、最後っ屁みたいなものじゃない」
 「でっかすぎる最後っ屁やけどな」

 ついに核兵器の使用に踏み切ったんや。改造種側もすかさず報復攻撃に出るんやけど、

 「あれよね、最初から全面核戦争になってしまったら分が無いとわかってたのよね」
 「そうみたいや。エランから指導者階級が逃げてもてるし」

 どうもやけど、本土決戦になる頃にはギガメシュ政府は宇宙ステーションに移転しとったみたいやねん。さらにやで、地球への宇宙船も宇宙ステーションに稽留させとったみたいで、核ボタンを押したら、後は自動攻撃に切り替えて地球に亡命してもたんや。

 「国民捨てて逃げてどうするのと思うけど」
 「まあ降伏しても戦犯として処刑されるやろし、どっちにしても改造種にされてまうやろし」

 この辺も計画的な部分はあったみたいで、地球への亡命船も複数やったみたいや。

 「何人ぐらいだったの」
 「はっきりせんへんけど数百人ぐらいって推測はあるらしい」

 ギガメシュ滅亡後に純血種側は戦力削減兵器の存在に気づいたらしい。これも最初はアホな兵器を作ったものやと笑われとったみたいやけど、女性の妊娠能力の低下と女の子の出生数の減少が戦後に問題化したらしい。

 「その時に地球人がワクチンになる情報を手に入れたのね」

 この時の兵器の威力はアラ時代に使われたものと較べるとはるかにマイルドだったんやけど、ギガメシュが見つけた地球人を探し出せば防げるとわかって、地球と地球人探しが戦後の重要な課題になったでエエと思う。

 「やっと一万五千年前にイラン高原にエラム基地を作るとこまで漕ぎ着けたのね」
 「当時のエラム人やシュメール人からかなり採血したんちゃうかな」

 このエラム基地が時空トンネルの変動により放棄されたんはホンマやった。

 「じゃあ、浦島たちが連れて行かれたのは?」
 「それも目的の一つやった可能性はある。もっとも当時のエランのエリート層が通常生殖行為を禁じられとったんもホンマで、そっちでも歓迎されたんもウソやなさそうや」
 「それって薄まっても地球人の子孫を残す目的もあったんじゃない」
 「たぶんな。そやからアラも放置状態にしたんやろ」

 蛇足やけどアラ時代に桁違いにパワーアアップした人類滅亡兵器が使われ、地球人の子孫からワクチン作ったけど、さすがに薄まり過ぎて効果を遅らせるんが精いっぱいになったで良さそうや。

 「これも騙されたね」
 「というか、アラの真意を誰も理解してなかってんやろ」

 アラが作った宇宙船団は地球移住用ではなく、血液採取用で良さそう。十隻分もあれば、再びどこかのアホウが人類滅亡兵器を作っても足りるぐらいかな。

 「それとアラも嫌になってたみたいね」
 「まあな九千年もやっとったからな」

 反アラ戦争やけど、調べてみるとアラが勝てそうな感じやねん。敗因はアラのやる気のなさに見えて仕方があらへん。さすがのアラも享楽欲でヨタヨタやったで良さそう。

 「アラやったら地球人になれるからね」
 「そこなんだけど、アラはジャンプ出来たのじゃないかしら。あの時のアラは意識だけカプセルで分離して脱出してるじゃない。カプセルに付いてた移動装置の故障寸前にジャンプしたって言ってたけど、自分で飛んだ気がする」

 ユッキーの言葉に愕然としてもた。

 「アラってどれだけ英雄やねん。自分の意志だけでジャンプをせんかったことになるやんか。コトリなんか何千年やっても一度も成功してへんねんで」
 「そりゃエラン随一の英雄よ。次座の女神の心を鷲掴みにした男の中の漢だもの」