セレネリアン・ミステリー:ギガメシュ

 ディスカルの報告は三十階で行われた。ユッキー副社長まで出席してたんだ。言い換えればそれぐらいの秘密事項になるのよね。

 「ギガメシュは見つかりました。これは国家の名前であり、指導者の名前であり、宗教の名前と見て良いかと思います」

 やはりというか当然ですが五万年前にエランに実在した国のようです。当時のエランは現在の地球のように多数の国に別れていたようです。政治形態も様々だったようですが、

 「ギガメシュは祭政一致であったと見て良さそうです」

 ギガメシュは宗派の始祖と見て良いギガメシュが広めた宗教集団が国家になったようなものみたいです。

 「エランでは民主体制は普及しなかったの」
 「ええ、先史時代はとにかく戦乱期が多くて、戦争に便利な体制が有利だったようです。独裁政治も欠点は多々ありますが、意思統一と非常時のレスポンスという点で、民主体制を上回りますからね」

 アラ時代は平和な時期が長かったはずと言ってみたのですが、

 「統一政府となると統治範囲が広すぎて・・・」

 どうもエラン人は統一政府を作り上げながら、地球人同様に不満勢力が常に活動し、何かあれば大きな反乱を起こして中央政府を覆そうとしたようです。千年戦争もその一つですし、怪鳥騒ぎもそうでしょうし、今のエランを滅亡の淵に追い詰めている人類滅亡兵器もそれで良さそう。

 「これは統一政府成立後も周期的に繰り返されています」

 どこも同じってことか。アラ九千年はエランにとっても桁違いの長期体制で良さそう。そのギガメシュだけど、かなり高度の技術国家だったで良さそう、そりゃ、五万年前に地球に来ているぐらいだからです。

 でも良く地球まで宇宙船を送り込んだものだ。だって戦乱の絶えない時代だから、宇宙開発に膨大な予算を傾けるのはムダじゃない。

 「この辺は記録がはっきりしない部分が多いのですが、ギガメシュはなんらかの方法で時空トンネルを発見し、その利用が可能であったと見て良さそうです」

 これもわからない部分が多いそうだけど、当時のエランでも地球まで宇宙船を送り込めるだけの能力があったのはギガメシュだけだったかもしれないとしてた。よほど地球への宇宙航海に力を入れていたのだけはわかるけど。

 「目的はやっぱり周囲の国々への技術力の誇示?」
 「それもあったと思いますが、それだけではない気配があります」

 ディスカルが言うには、国家の生き残りをかけるほどの大事業みたいに見てるようです。

 「地球への航海は偉大なるアラ時代でさえ負担が大きなものです。ですから偉大なるアラ時代にも二度しか行われていません。ギガメシュは当時のエランの中では大国の方ですが、その負担は巨大であったとしか言いようがありません」

 これはこれで謎だけど、ここでユッキー副社長が、

 「地球への植民計画でも考えてたの」
 「それは無さそうですが・・・」

 それでもギガメシュの計画は壮大としか言いようがなく、月に前線基地を置いて、地球を目指したとなっています。ここでユッキー副社長が、

 「それも妙ね。月まで来ていたのなら、ダイレクトに地球を目指したらイイじゃない」
 「ええ、そう考えるのが普通ですが、当時の技術水準では地球からの離陸に問題があったぐらいに考えれば良いようです」

 宇宙旅行でもっともエネルギーを必要とするのは引力圏からの離脱。かつて地球人類が初めて月面着陸に成功させた時のサターン・ロケットは全長一一〇・六メートル、直径は十メートル、総重量二七二一トンに及びますが、いわゆる宇宙船部分は0.5%にも及びません。巨大なロケットの殆どの部分が、ロケット・エンジンと燃料が占めていたことになります。

 エランと地球の重力はほぼ等しいと見て良いですから、地球に着陸すればエランを離陸するのと同等のエネルギーを要することになります。地球をダイレクトに目指し、着陸してから離陸するとなると、地球着陸時に地球から離陸できるだけのエネルギーを抱えていなければなりません。

 たとえをサターン・ロケットにすると、地球着陸時にサターン・ロケットがそのまま着陸する必要があり、そうなるとエラン離陸時には単純計算で二百倍ぐらいのパワーとエネルギーが必要になります。

 「その辺が五万年前の技術ってことね」
 「ええ、当時の技術では地球まで探査船を送る事は可能でも、地球から再離陸させるのは不可能としか言いようがなかったようです」

 そこで目を付けたのが月のようです。月の重力は地球の六分の一、エランからの離陸に較べるとはるかにラクになります。

 「なるほど! 月からなら離陸時の負担は遥かに軽くなるから、地球から離陸できるエネルギーを持って行けるってことね」
 「そういう計画であったと見て良さそうです」
 「理屈はそうでも、そうするには月にかなりどころじゃない基地が必要になるじゃない。それも全部エランから運び込まないといけないし」

 そんな無謀ともいえる計画をギガメシュは、国力を傾けて行なおうとした形跡が記録に残されているようです。

 「でもさぁ、そこまでするのは、地球に植民するか、地球から何かを持ち帰るぐらいしかないじゃない。でも植民計画じゃなかったんでしょ」
 「ええ」
 「でも持って帰るったって、ペイするような鉱物資源なりがあるとは思えないけど」
 「それもそうです。宇宙からの輸入でペイした例はほぼゼロです」

 訳わからないな。ギガメシュは祭政一致国家だったらしいから、教義が暴走しまくったとか、

 「宗教にはそういう側面があったのはエランでも同じです。ギガメシュの宇宙計画もそういう面があったのは否定しませんが、もっと現実的な問題を宇宙計画でカバーしようとしていたと見た方が良さそうです」

 そんなものがあるとは思えないけど。

 「これはギガメシュの話だけ聞かれても理解は難しいと思います。私もエランの先史時代がどうなっていたかを知るまでわかりませんでした。エランはたしかに地球と似た環境、似た進化をした部分はありますが、同じではないです」

 まあそうだろうけど、

 「エランの先史時代を国民に教えたくなかったのが、私も良くわかりました」

 これはアラもジュシュルもそうだったみたいだけど、何があったのよ。