セレネリアン・ミステリー:装備研究班

 ここはラシュワン博士が主任となっています。宇宙服自体は地球の物と類似していますが、調べれば調べるほど違いがあるのがわかります。類似しているのはヒューマノイド型であるが故のデザインの制約ぐらいにしか思えません。

 装備研究班も素材グループは難航しながらもまだ順調です。たとえばバイザー。紫外線、赤外線、放射線を抑える技術もそうですが、地球の物とは素材も製法も根本的に違います。宇宙服の生地もそうで、その頑丈さに感嘆の声があがっています。

 地球の宇宙服の構造は地球では一~三層が体の表面から余計な水分を取り去り適正な体温維持を受け持つ部分、真空状態での気密維持を受け持つ四~五層、さらに熱や小隕石から飛行士を保護する六~十四層からなりますが、

 「博士、このシンプルな作りを見て下さい」

 テストでは地球のものより十倍以上は頑丈で強力となっています。この素材自体の分析に取り組んでいるところです。


 問題は生命維持装置。基本発想は地球の物と同じで、酸素を供給し、二酸化炭素を除去するのですが、

 「これからすると、セレナリアンは地球人と同様に酸素呼吸と見て良さそうです」
 「そうだな」

 しかし冷却システムとなると、どうも冷却水を用いたものでない可能性が出ています。さらにこれらの電源となるバッテリーとなると、根本的に構造が違います。

 「電源を入れてみるテストは」
 「失敗すれば終りですから、もう少し調べてからの予定です」
 「その方が良いな」

 それ以外にも通信システムと見られものもあり、

 「あくまでも推測ですが、グラスコックピット状になっていた可能性があります」

 さらに制御システムらしきものもあるのですが、これがどういうメカニズムなのか悪戦苦闘中といったところです。ラシュワン博士もリー将軍のもとに向かい、

 「エラン船の宇宙服の分析結果は入手できないでしょうか」
 「あれは大統領でも無理だ。日本の最高機密になっていて、これまでいかなる要請もすべて拒否されている」

 ただ第四次宇宙船事件の時に手に入れた焼け焦げた断片の分析結果はあり、どうもセレナリアンのものと違うらしいの報告は来ています。

 「もっとも五万年の歳月がありますから、当然と言えば当然ですが」

 まだまだ断片的過ぎるとはいえ、ここまでの情報を総合する限り、エラン船の宇宙服とは違う感触を持ってはいます。ただ距てる歳月が長すぎて、何も断定的なことを言えないぐらいでしょうか。

 「せめて整備マニュアル的なものがあれば、話が変わって来るのだが」

 整備マニュアルとまでいかなくとも、機器になにか記されているのはわかります。研究員の意見として、

 「地球の機器でもよくある、なんらかの注意書きではないでしょうか」

 もちろん使用用途なりが書かれている可能性もありますが、当然の事としてまったく読めません。言語班に聞いても、

 「このサンプルの少なさで未知の言語を解読するのは不可能」

 グループ長同士の会議の時に、

 「これだけの材料ですべてを解き明かすのには大きな困難を伴います。なんとかエラン船のデータを入手できないでしょうか」

 この辺についてもくれぐれも機密情報と何度も念押しされた上で、リー将軍から実情を教えてもらっています。

 「君たちも内密にしてほしいのだが、日本は神戸で鹵獲したエラン船の研究に長年取り組んでいる。たとえば宇宙トラックがそうだ。しかしあれだけ時間がかかった割には、成果が乏し過ぎると思わないか」
 「たしかに」
 「CIAの調査によるとエラン船のほぼすべての機器にロックが掛かっており、これが未だに外せないとして良さそうだ。今のところは手探り状態だが、セレナリアンの場合はロックがない感触がある。その分は有利の可能性がある」

 有利と言われても難問なのは同じです。

 「とりあえずもう少し言語がわかれば研究は進みますが」
 「それは同意見だが、サンプルを増やすにはあの手帳を開くほかない。まず出来ることを着実に積み上げておこう」

 ラシュワン博士は、さらに教えられている事があります。リー将軍に、

 「エラン船のロックだが、どうやら外せるようになっている情報がある」
 「日本はついにですか」
 「いや政府の研究機関では未だに無理だ。外せるのは科技研らしい」
 「科技研ですか・・・」
 「日本政府より難しいよ」

 科技研となるとアメリカ政府でも手の出しようがないのはラシュワン博士でも知っています。もしかしてですが、

 「ではあの及川センサーも」
 「可能性はある。ロッコールのレンズもな」
 「EBバッテリーも、もしかして」
 「十分にあるそうだ」

 バッテリー革命とまで呼ばれたEBバッテリー。あれは従来のバッテリーの常識を覆す高出力、長時間使用、さらに誰もが驚かされた短時間充電があります。今、世界で走っている電気自動車の九割以上がEBバッテリーだとされ、他にも携帯機器のバッテリーも七割以上となっています。

 「とにかく地球上でエラン語が話せるのはエレギオンHDの亡き小山社長、月夜野社長、香坂常務の三人しかおらず、この三人がECOの代表を務め、さらには血液製剤の製造にも協力しておる。どれだけエランからの知識を持っておるのかわからないぐらいだ」
 「でもECOは国際協力機関のはずですから」
 「建前上はな。だがあの時のECOはエレギオン・グループが人員・施設・資金のすべてを丸抱えで運用された」
 「それでも」

 リー将軍は嘆息しながら、

 「ラシュワン博士は亡き小山社長や月夜野社長に会った事はあるか」
 「ありませんが」
 「ジョーカー大統領でさえ失禁させられたそうだよ。ジョンストン大統領だってどれほど怖い目に遭ってることか。あの二人に命令したり、逆らえる人間はこの世にいない」

 そんなに。でも国家権力なら、

 「この際だから話しておくが、怪鳥作戦の真相を教えておく」
 「それは将軍の作戦により怪鳥の弱点を」
 「そうなっておる。しかし実際は違う。あの怪鳥を月夜野社長はなんらかの力をもって足止めし、小山前社長が、これまた何らかの力で怪鳥を失神させたのだ。我々は失神して身動きが止まっていた怪鳥の背後を攻撃したに過ぎない」
 「そんなバカな」
 「私があの時の指揮官であり、すべてを見ていた」

 怪鳥があの時に仕留められたのは事実であり、その指揮官がリー将軍であるのも間違いありません。

 「あの力の前では米軍一個師団ぐらいでは話にもならんだろう」

 しばらく沈黙があり、

 「人なのですか」
 「素敵すぎるレディだよ」