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「コトリ、留守番お願い。今回は自分で見てくる」
「かまへんけど、珍しいね」
「気分転換よ」
具体的には軍団兵の休養施設にもするつもりみたいで、さらに大規模な倉庫群、武器の修理施設も作る予定としてた。この調子やったら、ハマは廃都市になってイスヘテが都市に成長するかもしれへん。
するかもしれへんというか、ユッキーはそうするつもりでエエみたいや。イスヘテ整備の資材はハマから解体して運び込む指示出しとったから。イスヘテで必要な指示を出し終わったユッキーはエルルの案内でシャウスの道を登り坑道にも入ってた。
ユッキーが後で言うとったけど、エルルの推測通り、かなりの量の塩がありそうやった。坑道はシャウス攻撃用に掘ったものやけど、これを塩採掘用に整備する指示と、整備のための資材は、塩がある場所から奥の坑道の資材を解体して使うように指示してた。解体は危険やねんけど、新たな木材の調達が難しくなってるから、やむを得んやろ。ユッキーは初めて坑道に入るから興味深そうに見てたそうやけど、
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「エルル、これね」
「はい、鉱脈は奥に続いていると推測されます」
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「パリフ、城壁のかさ上げを急いで。資材はシャウスの街で使えるものは使いなさい。それと、第二広場前の土嚢も運び上げて利用しなさい」
「高さは」
「最終的に二十メートルぐらいは欲しいけど、とりあえず十メートル必要」
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「工作部隊も派遣できるように訓練中。使えるようになったら送る」
「わかりました」
「それと残っている巨大投石機と巨大石弓を運び込みなさい」
「エレギオンには・・・」
「こっちが今は大事」
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「農園は?」
「かなり荒れております」
「人は」
「老人ばかりで子どもさえ殆ど見かけていません」
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「女は?」
「老婆ばかり」
「全部老婆だった?」
「いえ」
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「アングマール王の所在は」
「今はマウサルムで良いかと」
「敵軍は?」
「おそらくマウサルムに二個から三個軍団、ザラスに一個から二個軍団は確認できています」
「直属軍?」
「ほとんどがそうかと」
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「年齢構成は?」
「シャウスを落とした時ぐらいしかわかりませんが、一部に少年兵の姿もありました。また、これまで見たことの無いような高齢の兵も混じっていました」
シャウスの道突破からシャウス奪回までで失った兵力は、延べ一個軍団程度になったけど、これを補充するのが精いっぱい状態。この先で大きな損害が起ると軍団数削減に追い込まれそうな状態なのよね。
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「動きそうか」
「現時点では何とも言えませんが、動くのなら早いかと。ただし・・・」
「ただし、どうした」
「アングマールに動く塔なりを作れる木材が調達できるかどうかになります」
「森は根こそぎか」
「はい、見える範囲で木は残っていませんでした」
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「そうなるとマウサルムだな」
「だから魔王もいるかと」
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「陸路は」
「人手不足ではないかと」
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「負けたら地獄やけど、勝ってもなんにも手に入らへんなぁ」
「そうねぇ、生き延びるために戦ってるようなものだわ」
「生き延びるか・・・エレギオンが生き延びるために、どれだけ死ななアカンか考えただけでもイヤになるわ」
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「ハマの農園復旧はどないしたん」
「人手不足でどうしようもないね。仕方がないから麻畑にするように指示しといたわ」
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「でも負けられない」
「なんか、何もかも放り出して逃げたい気分や」
「それが出来ればね。でも逃げられないわ」