ハマの土塁も急ピッチで出来上がっていた。とにかく攻撃を考えなくて良いから、ドンドン土を運び込んで土塁を高くしていった。もっともエレギオン軍も無傷かといえばそうではなく、城内から巨大投石機でブンブン石を投げつけてきた。それぐらいはやるよね。やられっぱなしは士気にも関わるから、
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「エレギオンの巨大投石機を運び込め」
巨大石弓を運び込んだ目的はハマの城門の跳ね橋の破壊が目的やった。二基の巨大石弓は期待通りの働きを見せてくれて、数日で跳ね橋を使い物にならなくしてくれた。巨大投石機の設置には時間がかかったけど、同時に三十メートルの物見やぐらも作らせた。これは巨大投石機の着弾点を観測するのと、攻撃目標を確認するためやねん。
巨大投石機の射程距離は第三次エレギオン包囲戦の時と同じでエレギオンが優位やねん。つまりは、アングマール軍の巨大投石機の射程外に設置して撃ちあえるってこと。もっとも遠くなるから精度も落ちるけど。
巨大投石機の投げる弾にもコトリは改良を加えてた。石は改良の仕様がないけど、壺をたくさん作らせてたの。壺に魚油を詰めて、蓋をしっかりと閉じ、蓋の上に布を厚く巻き付け、そこにもオイルを浸み込ませて火をつけて放りなげる戦術。一種の火炎瓶みたいなもの。燃えやすいようにオイルは撃つ前に熱したものを詰め込んで撃たせてた。ただ数に限りがあるから、使う時には充分な偵察が必要で、そのために物見やぐらが必要だったんだ。
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「次座の女神様、ハムノン高原のアングマール軍に動きがあります」
「わかった、イスヘデに向かう」
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「どう」
「どうやら今夜ぐらいに」
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「準備は?」
「十分な量の松明と篝火の準備は整ってます」
「じゃあ、これも使って」
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『ボォ』
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「イルクウ将軍、昼間に来たのもこんな感じだった?」
「はい」
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「どう見る」
「は、既に尽きたかと」
これは情報作戦本部が集めた情報にあるのやけど、エレギオン包囲への大量動員と戦死率の高さ、さらには魔王のエロ処刑のために女狩りに反発しての暴動が何回か起っていたらしいの。そりゃ、起らない方が不思議だもの。それに対してアングマール軍は徹底した虐殺で鎮圧したみたい。
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「次は直属軍が来るかもね」
「御意、直属軍は甘くありません」
「準備はどう」
「明朝までには終らせます」
「明朝にはまだ無理やと思うけど、早い方がイイワ。それとシャウスの道の出口付近にも貼り付かしておいて。こっちの細工がバレたら面白くないわ」
「御意。手配させます」
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「巨大石弓、撃て」
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「次の対策は済んでる?」
「指示通りに」
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「かなりの重量級ね。大型鏃を使え」
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『グサッ』
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『ズドン』
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「次座の女神様、燃やしますか」
「もったいないから回収する」
イスヘデの攻防戦はこれで一段落しそうだったから、ハマに戻ってみた。で、見たらビックリした。土塁がドンドン高くなってて、高い所では十メートルぐらいはありそう。これも予定通りだけど、城門付近だけではなく、ハマをぐるっと囲むような包囲網が六割がた完成してた。それを見て回ったコトリは、
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「マシュダ将軍、後は作戦通りに任せた。予定通り、第一・第四軍団を率いてエレギオンに戻る」
「かしこまりました」
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「どう」
「リューオン郊外にマハム将軍が出てきたのは意外やったけど、他は、ほぼ作戦通りになってる」
「マハム将軍に何されたの?」
「牝馬の計」
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「笑いごとやないで、紙一重の勝負やってんから」
「ゴメンゴメン、それにしても凄いこと思いつくね」
「ホンマやで」
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「使うべきね」
「ちゃんと準備しといた」
「さすがね」
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「これで内部工作はまた難しくなったやろ」
「そうね、第一軍団の連中も協力してくれるだろうし」
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「コトリ、これ美味しいね」
「そやろ」
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「でもこれだったら、こっちの方が合うんじゃない」
「あれっ、いつのまにビールを」
「四座の女神の祝宴の時に特別に作らせたじゃない。あの後も特別に作らせてるの」
「じゃあ、毎晩飲んでたの」
「ううん、コトリが帰って来る日まで我慢してた」