シャウスはエルグ平原から攻め上ると難攻不落の要塞みたいなものだけど、ハムノン高原側から攻めたら普通の都市並みの防御力しかもってないの。普通と言っても、ユッキーが大改修したエルグ平原都市に較べたらお笑いレベルで、アングマール戦以前の規模。
だからどうするかは、シャウス奪還後の問題としてあれこれ検討されてた。この辺はシャウス進出後の戦略問題に関わってくるのだけど、基本は高原都市争奪戦になると見てるの。そうは単純じゃないけど、あくまでも基本ね。
そりゃ、大決戦やってアングマール軍を木端微塵に吹き飛ばしてしまえれば話は簡単だけど、あの第三次包囲戦でコトリが魔王に一撃食らわしてからでも十七年が経ってるの。そう、魔王は確実に回復していると考えられるし、魔王と決戦やっても容易に勝てると思えないのよ。
そこでって訳じゃないけど、まずは高原の拠点としてシャウスの防備を固める事にしたの。これはユッキーが視察に行った時に決めたことだけど、城壁のかさ上げをしようって。ただなんだけど、人手と資材不足は深刻なのよね。
エレギオンの大城壁を築いた時には、それこそ同盟国の人々が総出で来て作ったとして良いぐらい。しかしシャウスは今や無人の都市、さらにハマも廃墟と化しちゃってる。エルグ平原都市もアングマール戦での損害でどこも人手不足。仕方がないから軍団兵を送り込んでるぐらい。これだって、
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「コトリ、やっぱり五個軍団必要?」
「人手と速度は比例するし」
資材不足、とくに木材不足も深刻。シャウスの城壁のかさ上げも、以前にマシュダ将軍がやったように木材を多用すれば、応急処置的なものは早く出来あがるんだけど、それの調達も難しくなってるぐらい。
ちょっとだけラッキーだったのは、シャラックがシャウスを落とした時に、木材集積所が手つかずで残っていたこと。シャラックは燃やす予定だったんだけど、結局見つからず、燃やしたのは兵舎一つだけ。それでも十分には程遠いんだけど。
マシュダ将軍はどうするのかと思ってたけど、土嚢の積極使用を行ってた。これはこれで調達に難儀するのだけど、麻栽培がそれなりに順調だったので、なんとか対応できた。ギリギリだったけど。
コトリも見に行ったんだけど、マシュダ将軍のプランはなかなかのものだったわ。城壁のかさ上げのためには土台の拡大が必要なの。だから城壁の内側に土塁を作り上げる必要があるのだけど、そのための土を確保するために内堀を作ってた。
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「なるほど、これなら手近に土が集められるね」
「ええ、それだけじゃなく、敵の坑道作戦に対するものにもなります」
土を掘りだして城壁に沿って固め、土台部分を拡大したら、城壁のかさ上げになるのだけど、ここも問題。単に土嚢を積んだだけなら登れる斜面になっちゃうんだ。どうするのだろうと思ってたたら、何段か土嚢を積んだら前に石垣組んでた。
石垣積むのも難しいんだけど、これについては工作部隊に四座の女神が叩き込んでくれた。石についてはシャウスの街にそれなりにあるから、どんどん引っぺがして積んでた。
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「首座の女神様がお望みの二十メートルは無理でございますが、十メートルぐらいなら、なんとかなりそうです」
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「コトリ、動く塔も破城槌も出て来ないみたいよ」
「アングマールも木材調達に困ってるのかな」
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「ハマの時のマネ」
「違うと思うよ。シャウスは裏口が空いてるから兵糧攻めは出来ないよ」
「じゃあ、カモフラージュ」
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『ズシッ』
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「このオレを見よ、一歩たりとも退きはせん」
対抗と言っても、女神の力でさえ目に見える範囲にしか及ばず、女神の力で回復させても、しばらくするとまたもや戦意喪失状態になってしまう蟻地獄状態。アングマール軍の攻撃は城壁の各所に及んだから、四女神は駆けずり回って対抗してた。ただマシュダ将軍の受け持ち部署に行くと。
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『ここはマシュダがいる限り突破されません。女神様方は他の部署の督励を』
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『首座の女神様が建てたもう、この聖なる城壁を、悪しきアングマールの輩に越えさせるな。我らには恵み深き主女神の守護があるのだ』
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『ヤカン親父の仁王立ち』
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『それほどの事ではござらん。先頭に立ったら、下がる気力さえ奪われてしまい、開き直って怒鳴っていただけでございます。あははは』
城壁を越えたアングマール軍も、城内奥深くに突入するには内堀を越えなければならず、また落ちたら這い上がれそうになく、奮闘はしたものの結局全滅。アングマール軍もこの時点で退却になったみたい。そりゃ、シャウスの内堀に沿ってエレギオン軍が戦列を組んで待ち構えてるんだもの。
その代わりマシュダ将軍もタダでは済まなかった。エレギオンの大城壁に較べると低いから、
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『アイツを射落とせばシャウスは落ちる』
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『こんなヘッポコ矢で、このマシュダを仕留められるものか』
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「急使、アングマール軍はシャウスを総攻撃、なんとか撃退しましたが、マシュダ将軍は重傷」
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「マシュダ将軍・・・」
「はははは、このマシュダにも年貢の納め時が参りましたようです」
「傷は浅いよ、三座の女神も間もなく来るし。すぐに良くなるわ」
「私如きに三座の女神様の治療は過ぎたるもの。どうか他の兵士の治療に向かわせて下され」
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「次座の女神様、なんともったいない。私のようなものの手を取るとは畏れ多すぎます」
「なにを言うの。マシュダ将軍はエレギオンに取って大事な人。ここで死なせるわけにはいかないもの」
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「次座の女神様、ベルに伝言があれば承ります」
「なにを言うの、気をしっかりもって」
「もう行かせて下され。お恥しいですが、次座の女神様は必ず来られると信じてました。ですから、一目見るまで頑張っていた次第です。このうえ手まで取ってもらえるとは望外の幸せ」
「ではベルに伝えといて、マシュダもまた立派な女神の男になったと」
「御意」
葬儀は軍団葬の格式で行われた。国家の柱石と呼べるマシュダ将軍の死は悲しみをもって迎えられた。コトリは気持ちだけは女神の男、コトリの男を送る気構えで出来得る限り毅然として見送ったわ。葬儀の後に、
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「ユッキー、何人死んだら終りが来るの」
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「何人も、何人もよ。わたしとコトリだって生き残れるかどうかがわからない」
「そんな勝利に意味があるの」
「あると思わないと戦えないわ」
「もう逃げ出したい」
「わかるけど・・・」
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「コトリ、あれを見てごらん」
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「負ければ皆殺しなのよ。それだけでも戦う意味はあると思ってる」
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「他人の子どもだって、あれだけ可愛いのよ。自分の子どもならなおさらのはず。エレギオンの兵士たちは、これを守るために命を懸けてると思ってる」
「ユッキー、ごめん」
「イイのよ。わたしだって辛いの、投げ出したいの。でも、今は投げ出さないのが正解と思ってる。パドと燃えてらっしゃい。こんな時は男にしっかり愛してもらうのが一番イイと思うわ」