アングマール戦記2:男さがし

 平和条約による膠着状態は思いの外に長引いてくれたの。ユッキーも復帰してくれたし、四座の女神も帰ってきてくれた。ユッキーが復帰したらさっそく、

    「シャラックを三座の女神の男と宣言する」
 戦時体制下だけど、五女神そろっての祝宴を挙げてあげたよ。三座の女神は幸せそうな顔しとったけど、アングマール戦が続けば、どれだけ生きていることかと思うと、チイと複雑やった。祝宴が終わった後に、
    「コトリ、相談があるの」
    「なに」
    「新しい男は見つかった」
    「いきなりなんやねん」
 あれ? 休養中に見つけたんやろか。ただ、ユッキーとは好みが被るから、要注意やねんけど。
    「メイスは女神の男に相応しかったけど、コトリには新しい男を見つけて欲しいの」
    「そんなん、言われんでもするつもりやけど」
    「うんとね、ちょっと違って・・・」
 エレギオンでは女神の男に選ばれるのは最高の栄誉やってん。どれぐらい栄誉かっていうと、女神は宿主代わりの時に施療院附属の孤児院から選んでたのよ。今回なら四座の女神とユッキーが選んでたけど、いうても二人やんか。でも女神の宿主候補になったというだけで奪い合いになるぐらい人気があったぐらい。

 ユッキーはいつ終わるともしれないアングマール戦対策として、常に女神は男を持つようにしようって提案してきたのよ。女神の男は士官から選ばれることが多かったし、もし選ばれたら、その名誉を守るためにどれほど戦うかも良く知ってたの。

    「それって・・・」
    「言いたいことはわかる。女神の男の使い捨てみたいになっちゃうのは知ってる」
    「ユッキーだって二人目、三人目の男が必要になるかもしれないんだよ」
 ユッキーは今でも基本は一途タイプ。セカの時のように二人目を選ぶのは滅多にないことなの。
    「使える手はすべて使わないと勝てない」
    「ユッキー・・・」
    「それとね、これからも多くの兵士が死んでいくわ。今の軍団兵だって戦争が終わるまで生き残っているのが、どれだけいるかわからないぐらい。一人でも多くの兵士に女神の男になれる栄誉を与えてやるべきだと考えてる」
    「コトリとユッキーは、子どもが出来ないからイイけど。三座や四座の女神は・・・」
    「わかってるけど、負けたら終わりなの」
 軍団は五個軍団まで整備した後に引き続いて第六・第七軍団も編成中なの。平和条約による休戦中みたいなものだけど、エルグ平原にはハマにマハム将軍の二個軍団が頑張ってるし、とにかく相手は王が神のアングマールだから、魔王を倒さない限り果てしなく戦争は続いて行くのはわかってる。

 考えようによっては魔王を倒せばアングマールと言えども勝つのは容易なの。それこそ女神の戦術をユッキーと二人で必死こいてやればイイだけ。でも魔王を倒すハードルは高くなってるのね。

 一撃が魔王に効くのはわかったけど、一撃一発じゃ魔王を倒せないのもわかってしまったのよ。それに前は完全に不意打ちで喰らわしたけど、魔王だって用心するだろうから、アングマール軍を追い詰めて魔王を引っ張り出さないと一撃も無理ってところ。

 魔王相手では女神の戦術が使えないから、エレギオン軍でアングマール軍を撃破して行かないとならなくなってるのよね。それもエルグ平原のハマからハムノン高原都市を奪還していき、ズダン峠を越えてアングマール本国まで攻め込まないといけないわけ。

 エレギオン軍もかなり強くなったけど、やっぱりアングマール軍は強い。軍勢だって今でやっと互角ぐらいかもしれない。ユッキーは十個軍団ぐらい欲しそうだけど、それでも消耗戦をやっていけばアングマール本国にたどり着くころには、どれだけ生き残っているかは不安なぐらい。

    「コトリもわかってると思うけど、エレギオン軍を支えているのは士官よ。士官の質だけはアングマールにも勝るとも劣らないと思ってる。これをより強化するには女神の献身は効果的なはずなの」
    「そうかもしれへんけど・・・」
    「わたしはね、一人じゃなくて複数の女神の男を持っても良いぐらいに考えてるの」
    「ちょっとユッキー」
    「前に言ったでしょ、二人で男に頑張らないといけない時期が来るだろうって」
 ユッキー、マジや。でもこれじゃ、三座と四座の女神があまりにも、
    「それやったら、まずコトリとユッキーだけでやろう。それと複数持つのはやめとこ。そんなんすれば女神の価値下がってまうやん。エレギオンは女神の国だけど、最初から支えているのは二人だから」
    「わかった、まずは二人で頑張ろう」
 それにしてもユッキーは目を付けてるのがいるのかな、
    「コトリも男探すけど、ユッキーは目を付けてるのはいるの」
    「コトリにだけ押し付けて、わたしがノホホンとしてられないわ」
    「誰?」
    「次席士官のパリフよ」
 あちゃ、また被った。ユッキーの奴いつの間に。
    「あらコトリも?」
    「今回は譲るよ。ホンマによう被るわ」
    「イイの」
    「イイよ」
 こればっかりは昔から不思議なんやけど、これだけキャラが違うのに好きな男のタイプは被るのよね。そのうえ、ガチで競り合ったら、かなり分が悪いのよ。そりゃ、コトリは微笑む女神やってて、基本的に人気者キャラやから、最初はリードするんやけど、ユッキーはそりゃ一途に追いかけて来るのよ。

 たぶんやけど、あの氷の女神の本性の意外性に男はやられちゃうみたい。コトリは良く知ってるけど、ビックリするどころか、腰抜かして唖然とするぐらい可愛い女になれちゃうのよ。あの氷の女神がだよ。あの落差はどんな男だってメロメロになると思うわ。

 だからユッキーとやり合う時には、短期決戦でケリをつけるか、そりゃ全力勝負で競わないと勝負にならないわけ。とくに今回はユッキーも体がまっさらやんか。このクソ忙しいさなかに真剣勝負やるのはシンドイわ。

 でもイイの、コトリはもう一人、目を付けてるのがいるの。ユッキーならこっちが被るんじゃないかと思ってた三席士官のバド。可愛いのよこれが。ユッキーなら絶対こっちだと思ってたもの。

    「ところで、ユッキー。パリフのどこが良かったの」
    「才智とも申し分ないし、先々は将軍になってもおかしくないわ」
    「でもユッキーならバドかと思ってた」
    「バドまで被ってたんだ。バドでも良かったんだけど、パリフはパライア出身なのよ」
    「ユッキー、女神の恋は・・・」
    「だから今は非常事態なのよ。首座の女神がパライア出身者を女神の男にするのに意味があるの。次座の女神であるコトリの男になるよりね。だからバドは譲る」
 事はユッキーの計算通りの効果があったのよ。首座と次座の女神が同時に男を決めるのも珍しかったけど、ユッキーがパライア出身の男を選んだのは大きな驚きをもって迎え入れられたの。今まで女神の男はすべてエレギオンの男だったから。

 ユッキーは戦時体制下だったけど、自分の男の宣言の後の祝宴をかなり派手にやった。もちろんコトリもセットの祝宴だったけど、わざわざ禁止されていたビールまで作らせての盛大なものにしたのよ。あえて見せびらかすような演出としてイイわ。さらにユッキーは祝宴の会場で、

    「パリフを上席士官に進める」
 これも異例で、通常は女神の男にしたからには、贔屓に見えないような扱いにするのが慣例だったの。それを首座の女神自らが破った感じかな。結構どころでない驚きの声が会場どころかエレギオン中にあがった感じになっちゃった。

 でも、これはとくに高原からの移住者に大きな喜びをもって受け入れられた。女神が、それも首座の女神が高原出身者を自分の男にしたことで、大祭の反乱後も根強く残っていた、アングマール戦の矢除けに使われる噂が一掃されちゃった。これはコトリがやった大粛清の後始末にもなってくれた。

    「ユッキー、ここまで計算してたの」
    「なに言ってるのよコトリ、パリフはイイ男よ。首座と次座の女神が目を付けるぐらいイイ男だってこと。ベッドでも優秀だよ」
    「パドだって、ちゃんとコトリが一人前にしてあげてるから」
 パドは据え置きのままの三席士官。ユッキーにはやっぱり敵わないわ。ここまで計算しながら、恋に殆ど妥協してないんだもの。パリフはコトリが見てもイイ男。ユッキーが選ばなければコトリが選んでた。もちろんコトリはバドに大満足してる。