アングマール戦記:魔王誕生(3)

 何日か後に気を落ち着かせてユッキーと話してんだけど、

    「コトリ、魔王にはわからないところがあるわ」
    「わかってるところの方が少ないやんか」
    「そりゃ、そうなんだけど、コトリが見た魔王は強大だったじゃない」
    「うん、ありゃ強大やわ。コトリとユッキーが組んでも勝てるかどうか疑問や」
    「さらに記憶を受け継ぐ神で良さそうやんか」
    「たぶんそうと思う」
    「変じゃない」
 ユッキーが言いたいことを理解するのにちょっと時間がかかったの。神は昔からおり、なおかつ数が増えないのは知ってた。さらに神の強さに変化がないのも知ってた。また記憶を受け継ぐ神は、通常は成人を宿主として渡り歩くのよね。
    「そっか、あれだけ強力な神が今まで知られていないのがおかしいってこと」
    「そうなのよ。エレギオンではともかく、シュメールなりエラムなら知られていない方がおかしいもの」
    「そのうえ生き残ってるし。まさかエンメルカルとか」
    「そこは自信がないけど違う気がする。エンメルカルは神ではあるけど、あんな変態プレイをするとは聞いたことないもの。あれだけの変態プレイをやりまくったら、そっちの方だけでも有名になりそうなものよ」
 ユッキーの言いたいことが段々わかってきた。
    「それと人の生命力はエネルギーとして大きいのよ」
    「まあ、そうなんだけど。だから吸い取ってるんじゃない」
    「どう言ったらイイのかなぁ。吸い取りすぎてる気がするの」
    「吸い取りすぎるから老婆になっちゃうじゃない」
    「そうじゃなくて、そんなに吸い取ってどこに貯めとくのだろうって」
 さすがはユッキーやと思た。
    「そっか、あれだけ吸い取って何に使ってるだろうってしても良いってことね」
    「そうなのよ、ここら辺は神がすべて同じかどうかわかんないけど、人の生命力エネルギーは直接には神は利用しにくいのよ」
 でもこれ以上はわからんとこが多すぎて、二人とも大した推測は出来なかった。とりあえずは、宿主の人としてのパワーアップに使ってるんじゃないかぐらいしか思いつかんかった。
    「・・・そう考えると宿主代わりして、エレギオンを攻めて来ないんは、人としての武力アップのチャージをやっとったとか」
    「うん、人としてもムチャクチャ強かったし」
 リュースもイッサもその武勇はエレギオンでも指折りだった。女神の男に相応しい強さだったけど、そんな二人が命を懸けて挑んでも、かすり傷程度しか付けられなかったのよね。神、とくに武神の戦闘力は宿主依存性の部分が大きく、宿主が老いれば、人としての武力も落ちるはずなの。リュースやイッサが戦った頃は魔王の前宿主の最晩年状態の時なのに、あの強さはまさにムチャクチャ。人じゃ勝てへんとしか思われへん。
    「アングマールはとにかく手強いわ。兵も強いし、戦術も優れてる。王は神だし、王個人の武力も頭抜けてる。ラーラの恨みはモチベーションとして大事だけど、頭は氷のように冷やさないとやられるよ」
 魔王への憎しみは目一杯あるけど、毛ほどの油断も出来ない相手であるのはユッキーの言う通りだった。
    「ところでユッキー、すっごい気になるんだけど、魔王は人から生命力エネルギー吸い取るけど、女神からも吸い取れるんやろか」
    「わかんないけど、吸い取られる前提で考えてた方が良いと思う」
 これを話した時に股の間が妙にスースーする感じがしてもた。人のエネルギーでも吸い取って利用できるのなら、女神のエネルギーなら極上の御馳走かもしれへんって。魔王に負けたらコトリもユッキーも魔王にやられてしまうんやろ。コトリが三番目でユッキーが四番目、主女神がラストだろ。
    「やな相手だ」
    「単に強いだけでも厄介なのに」
    「負けるものか」
    「いや負けてはならないのよ。魔王相手に妥協は存在しないわ」