魔王はついにズダン峠を越えてきた。高原のエレギオン側都市はエレギオンの庇護がなくなり、住民の三分の一ぐらいが抜けても決死の覚悟で防備を固めていた。イートスやクラナリスもそうだけど、ラウレリアの悲惨な状況は十分すぎるほど伝わっていたからなの。
魔王は三方面から悠然と押し寄せてきた。ドーベル将軍はキボン川の北岸をゼロンからザラスを目指し、マハム将軍はペラト川の南岸をパライアからレッサウに進むって感じ。この二つの軍団が、ゼロンとパライアの攻略に取りかかったタイミングで魔王がマウサルムに進んできた。
軍勢の数は情報を総合すると、ゼロン方面に一個軍団、パライア方面に一個軍団、魔王は実に三個軍団を率いていると見ても良さそうだった。全部で五個軍団。ユッキーと予想してたアングマール軍の最大サイズやった。
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「コトリ、新しい宿主の使い心地はどう」
「まあまあ」
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「コトリ。魔王は五個軍団連れて来てるみたいやね」
「そうみたい。魔王も五年間は遊んでなかたってことみたい。隷属国はガッチリ抑え込んだってところかな」
「ベッサスで一つ潰しといて良かったわ。あれが健在なら六個軍団だったかも」
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「ユッキー、シャウスはどうするの。このままじゃ、魔王が率いる五個軍団をマシュダ将軍は相手にすることになるよ」
「でもシャウスを無血で渡せないでしょ。あそこを突破されると、エルグ平原都市は全部包囲されちゃうよ。それも予想して準備しているけど、シャウスとシャウスの道で出来るだけアングマール軍を減らしたいの」
「マシュダ将軍はわかってくれてる?」
「だいじょうぶだと思うけど」
これも口で言うのは簡単だけど、一つ間違えば大損害を被る危険な作戦。計画段階ではコトリがシャウスに行く予定だったけど、宿主代わりのためにマシュダ将軍に行ってもらってる。
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「思い切って、シャウスは捨てたら」
「ここはマシュダ将軍を信じようよコトリ」
マシュダ将軍だけど指揮官としての才能はセカは愚か、リメラにも及ばないと思ってる。とくに戦場の微妙な変化に対応しての臨機応変の才に恵まれているとは言えないの。でもなんていうか、すっごい粘り強いところはあるの。退いてはいけないと思ったら、部隊が全滅しても戦い抜くし、部下にそうさせる指揮力はあるわ。
だから防衛戦には向いてるんだけど、今回のシャウス防衛は死守じゃなくて、効率よく戦って相手に出来るだけ損害を与え、適当なところでシャウスの道に誘い込み、もう一撃食らわせてエレギオンに戻るって芸当が必要なのよね。もっとも、現時点ではマシュダ将軍を上回る指揮官がいるわけじゃないから、ユッキーの言葉に従ったとかな仕方がないかな。
アングマールの進撃はドーベル将軍が快調だった。ゼロンを一ヶ月で落とし、ザラスにさっさと進んできた。マハム将軍はベッサスの会戦の結果失っていたパライアこそ軽く抜いたけど、レッサウには苦戦してた。この中で意外だったのが魔王本軍。たしかにマウサルムは高原最大の都市だけど、囲んだだけで落ちる気配がなかったの。
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「コトリ、どう見る」
「誘っている可能性はあると思う」
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「魔王はエレギオンが動くと読んでたのかなぁ」
「そうかもしれないけど、どちらかというと動いて欲しいと思ってるんじゃない」
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「でもさぁ、弱い方のエレギオンが決戦に出ると思うのかなぁ」
ドーベル将軍はゼロン、ザラスで使った動く塔や屋根付き破城槌を持ちこんで組み立て、大攻勢をかけたんだ。マウサルムはエレギオンのような対策は取ってなかったみたいで、動く塔に城壁を脅かされ、城壁から門の防御が手薄になったところを屋根付き破城槌で破られてしまった。
マウサルムでは市街にアングマール軍が侵入してからも激しい戦いが繰り広げられたみたいだったけど、結局落城。魔王はマウサルムに入城。魔王はマルサルムに入城後、三か月ぐらいは動かなかった。そんな時にシャウスに老婆がパラパラとたどり着くようになっていた。でも彼女らは老婆じゃなかった。老婆に見えるだけだったのよ。そうなの魔王の例のエロ処刑で生命エネルギーを吸い取られた女たち。確認するのさえ大変だったけど、王族や貴族の娘や夫人たちだったの。
マウサルムには既に征服された都市からそういう女たちが集められ、次々に魔王の毒牙にかかっていたの。魔王がマウサルムから動かない理由はどうもそれだとしか考えられなかったの。魔王のエロ処刑の犠牲者はコトリも主女神の娘と侍女姿を見て知っていたけど、エレギオン国民には知らせてなかったの。
だからシャウスでは物凄いショックだったみたい。さらにその噂は平原都市だけでなくエレギオンにも広がった。さらに魔王はわざと逃がした犠牲者にコトリたちへのメッセンジャーにしていた。
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『こうなりたくなかったら、エレギオンの五女神を差し出せ』
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「ユッキー、単なる脅しよね」
「脅しには間違いなけど、他の意味もある気がする」
「他の意味って?」
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「魔王がエレギオンに再び現れるまで五年かかってるじゃない」
「それは隷属国の反乱鎮圧のためでしょ」
「反乱鎮圧の時もアレをやっていたはずよ」
「それはそうだと思うけど・・・」
「ゴメン、考えがまとまらないわ。また明日考えよう。そのうち眠れなくなれそうだし」