アングマール戦記:シャウス攻防戦(1)

 エルグ平原都市はアングマール戦が始まる前から城壁の強化に取り組んでたけど、ハムノン高原都市はそうじゃなかったの。せめてシャウスぐらいは強化したかったんだけど、予算が足りへんかった。だから防備の強化と言っても泥縄式の応急措置的なものになってる。

 シャウスの城壁は五メートルぐらいなのよ。これを無理やりかさ上げして七メートルぐらいにまずしてる。無理やり部分は日干し煉瓦と木材で出来てるぐらいかな。守備用の塔も木製の仮設。数も規模も十分とは言えないものなの。平原都市でやった空堀とスロープも同じ規模は無理で、浅い空堀とそこから掘り出した土でのスロープで精いっぱい。

 防御用の武器も基本は軍団の野戦用のもの。エレギオンでは固定式の大型石弓も備え付けたけど、シャウスに回すほど作れなかったの。その代りにせこい代用兵器を備えさせた。大型石弓はロープを付けた銛を破城槌の屋根に打ち込んで引っ張ってひっくり返す段取りやねんけど、ロープの先にフックみたいな物を付けて引っ掛けてひっくり返す作戦。

 マウサルムでエロ処刑をやり尽くしたのか魔王は全軍を率いてシャウスにやってきた。マシュダ将軍には逐一報告してくれるように頼んどいた。エレギオンが包囲された時の参考になるからね。でもってとりあえず攻めるアングマール軍は五個軍団、守るエレギオン軍は一個軍団。う~ん、無理があるなぁ。

 シャウスの街の位置はシャウスの道を登りつめたところにあって、城門は高原側とシャウスの道側にあったの。セトロンの崖をバックに道を塞ぐように出来てるの。ある種の関所みたいなもの。だから完全包囲はできない構造になってるの。高原側の守りが危なくなれば、シャウスの道にいつでも逃げれるってところ。

 そうそうマシュダ将軍は城門の前にも空堀作ってた。兵力差はアングマール軍が五倍だから、城外での戦いはしないぐらいかもしれない。戦いは城門前の空堀を埋めようとするアングマール軍と、それを妨害するエレギオン軍の戦いから始まったわ。

 最初は押し寄せてくるアングマール軍を矢で迎え撃ったみたい。空堀までの距離は十分に計算してたから矢は次々に当たったみたい。でもこれはアングマール軍の作戦だったのよ。最初に押し寄せていたのは、アングマール軍ではなく強制的に連れて来られた高原諸都市の捕虜だった。ロクに甲胄も付けずに、そんなところに投入されたんで次々に射殺されてしまっただけど、魔王は死体で空堀を埋める作戦だったのよ。

 途中でマシュダ将軍も気が付いたみたいだったけど、アングマール軍はエレギオンの弓攻撃に躊躇が見えると、今度は自軍から矢を浴びせやがったみたい。高原諸都市の捕虜は矢から少しでも身を避けるために空堀の中に逃げ込むんだけど、今度はあの動く塔を空堀の近くまで進ませて、上から矢を浴びせた。

 マシュダ将軍は動く塔にも矢を浴びせたのだけど、野戦軍の弓では動く塔に効果的なダメージは与えられなかったってところみたい。戦争なんて勝てばナンボで、なんでもありの世界なのはコトリも知っているつもりだったけど、捕虜の死骸で空堀を埋めようとする魔王の発想にはゾッとした。こういう事を平気で思いついて実行するのが相手なんだと今さらながら思い知らされた。

 空堀は高原諸都市の捕虜の死骸でかなり埋まってしまったのだけど、次は屋根付きの車みたいなのを出してきた。その屋根の下でアングマール兵はさらに空堀を埋めていったみたいなの。マシュダ将軍の持っている兵器ではどうしようもなかったみたい。そりゃ、そうやろな。

 やがて空堀が埋まると屋根付き破城槌が前進してきたの。マシュダ将軍の報告では屋根は三角になっており、石を落としても、なかなか効果的な攻撃にならないとなってたし、屋根の表面は濡らせた革で覆われているとなってた。実際に石を落としたり、火矢を浴びせたそうだけど、気にせず進んできたみたい。

 ここでフック付きのロープを使ったみたい。フックは屋根の庇に何本も引っかかってくれて、引っ張るとひっくり返りはしなかったみたいだけど、屋根が剥がれちゃったみたいなの。そこに矢をバンバン降らせたらたまらずアングマール軍は逃げ出しちゃったみたいで、結構な損害は与えたはずとなってた。マシュダ将軍は屋根が剥がれた破城槌に火矢を浴びせて燃やしちゃった。

 破城槌が壊れちゃったので、アングマール軍の攻撃は動く塔の活用になったみたい。また屋根付きの埋め立て車を繰り出してきて空堀を埋めにかかったの。マシュダ将軍も無念そうだった。シャウスにある兵器では動く塔も、埋め立て車も破壊する有効な兵器がないのよね。城壁に近づいてくれれば、石を落とすなり、ロープを引っ掛けるなりが出来るんだけど、少しでも離れてしまえば指をくわえて見守るしかないものねぇ。