クラナリスの敗戦はアングマールにとって痛手過ぎたようだった。以後は完全に守勢に回り、ウノス、モスランと包囲戦を重ねることになった。アングマールも頑強に抵抗したがセカは十分な兵站戦を存分に活かし、長期包囲戦を敷いた。二年にわたる包囲戦の末、兵糧の尽きたアングマールは降伏開城。
セカはモスランで兵を整えた後にズタン峠を越えた。目指すはアングマールの首都。でもアングマールには戦う力は残っておらず、ここも降伏開城。五年に渡ったアングマール戦は同盟軍の勝利に終わった。
セカはエレギオンに五年ぶりに戻ってきた。凱旋将軍として戻ってきた。華やかな凱旋式となった。大門から街中をパレードし、セカは最後に供回りだけ連れて神殿の丘に登り主女神に誇らしげに戦勝を報告した。ユッキーはセカを褒め称え、最高爵を与えた上で、
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「主女神に代わりて首座の女神が宣す。女神大権は終れり、セカを王とする」
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「セカよ、四女神の男たちはゲラスの野で散った。まさに女神の男に相応しい最後であったと聞く。これは褒賞ではないが、セカが望むなら選べ、女神もそれに応えるであろう」
「もったいなきお言葉。でも首座の女神様は・・・」
「聞こえなかったかセカ。四女神にわらわも入っておる」
「謹んで承ります」
「では選ぶのか」
「はい、エレギオンの男にとって最高の褒賞にございます。喜んで選ばさせて頂きます」
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「首座の女神様を」
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「わらわはセカに選ばれたり。首座の女神、これを喜んで受ける。セカは首座の女神の男と宣言する」
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「なんなのよアレ」
「ゴメンゴメン、つい」
「ついじゃないわよ。どんだけビックリしたことか」
「でも迷惑かからなかったでしょ」
「そりゃ、言い出しっぺのユッキーが選ばれたんだから、コトリも三座・四座の女神も関係なかったけど、そんなもの結果論じゃない」
「結果論じゃないよ」
「えっ? まさか出来レース」
「そう」
ユッキーの一途さもコトリは良く知ってる。人は寿命が来ると死ぬから、形としては新しい男に乗り換えてるけど、ユッキーも本当の理想はただ一人の男にのみ捧げることも知ってる。そんなユッキーが前の男の死のすぐ後に、次の男と出来ていたなんて信じられないよ。
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「ユッキー、いつからなのよ」
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「昨日だよ」
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「セカが言うのよね。ユッキーの男は素晴らしかったって。それでね、セカもユッキーの男になれるかって」
「で、ウンと言ったの?」
「いいや、首座の女神は一途だから二人目の男は認めないって」
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「だけど四女神とも寡婦になってるじゃない。だから、セカが選んでも良いと言っちゃった」
「ちょっとユッキー、それじゃあ」
「そういうこと、だからわたしも含めるって言ったのよ」
「そんなツンデレ・・・もしセカの言葉が単なるお世辞で、コトリなり、三座や四座の女神を選んでたらどうするつもりだったの」
「そんときは、そんとき。頑張って怖い顔して説き伏せた」
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「でも、コトリ」
「なんだよユッキー」
「二人でもっと頑張らなきゃいけない日が来ると思う」
「なによそれ」
「来なけりゃ、イイけど。たぶんくるわ。その時は頑張ろうね」
「そりゃ、頑張るけど・・・ちょっとユッキー、なにを頑張るのよ。教えてよ」
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「そんなもの男に決まってるじゃない」
セカは王として遠征して打ち破るんだけど、セカを以てしてもアングマールを同盟内の仲間として迎え入れるのは困難だった。三回目の遠征の後にセカは駐留軍を常駐させることにしたんだけど、またもや大反乱が起り常駐軍が全滅する悲劇が起ってしまったの。セカは四回目のアングマール遠征に成功したものの、その遠征先で亡くなっちゃった。
セカの死はエレギオンでは大きな悲しみをもって迎えられ、国葬でもって遇されたの。そうそう、ユッキーだけどセカを男にした時には実はイイ歳になってたの。どうするのかと思ってたら、宿主を変えてもセカを自分の男にしていた。セカがアングマールの地で亡くなった後は、その体では次の男を決して選ぼうとはしなかった。
セカの死後もアングマールの反乱は起ったわ。遠征軍を送ったものの、セカの力量には遠く及ばず、ついにユッキーはズダン峠に要塞を築き、アングマールとの交流自体を断つ戦略に切り替えた。ズダン要塞も何度か攻撃を受けたけど、これを突破されなかった。ただ、スッキリしない状態であったのは間違いなく、
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「コトリ、要塞を築いたのが良かったのか、悪かったのかは微妙過ぎる。むしろ悪かったかもしれない」
「でもユッキー、今は他に良い手もないし、セカじゃないと無理があるもの」
「そうなんだけど」
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「流れが良くないわ。臭いものに蓋をしたって、蓋から悪臭は漏れるのよ。悪臭の元を断たないと終らないのよこれわ。なにか蓋をしているうちに、中がもっと凄いものになって噴き出してくる気がしてならないの」
「見えるのユッキー」
「まだハッキリじゃないけど、三十年かからないと思う」