膠着状態のアングマール戦だけどエレギオンでも大きな動きがあったの。まず四座の女神が宿主代わりに入ってもたんよ。簡単にいうと一年ぐらいは使い物にならなくなるってこと。お蔭で軍団編成の仕事が倍になってもた。これだけでもヒーヒー言ってたんだけど、
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「コトリ、わたしもそろそろだわ」
「あちゃ、しょうがないけど・・・」
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「前にマハム将軍に休戦協定を申し込んだ使者は切られたから、切り返す?」
「それをいったら、第三次エレギオン包囲戦の和平交渉でコトリが魔王に一撃ぶっ放してるし」
アングマールの使者はのっけから高圧的やった。
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「慈悲深きアングマール王は、先の和平交渉の時の貴国の使者の振舞を許し難いとしております」
「おほほほ、使者には武装も護衛も許さず、会見場にビッシリ完全武装の兵士を並べたアングマール王のお言葉とは思えません」
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「慈悲深きアングマール王は、貴国との和平を望んでおられる」
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「恵み深き主女神は争いを好みません。条件によっては考える余地も御座います」
無駄そうなお儀式みたいな過程だけど、これは相手の腹の読みあいの部分で意味があるのよね。その日の交渉は境界線問題で終ったけど、夜には三女神が集まって協議。四座の女神は当分欠席。
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「コトリ、どう感じた」
「とりあえずアングマールが持ちだしたのがポイントかな」
「わたしもそう見たいところ」
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「騙し討ちの線は?」
「最終的にはどちらかがやるだろうけど、最初からそのつもりは無いと思うよ」
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「ユッキー、最終的にはどっちが有利かやろ」
「そうね、時間は両軍の再編では同じぐらいかもしれないけど、エレギオンに不利なのは魔王の回復ね」
「そういう点からいうと、今からハマに攻め寄せるのも一つやんか。マハム将軍かって、和平交渉中に攻め寄せられると思てへんやろ」
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「コトリの見方も一理あるけど、あえて受けたいの」
「そやなぁ、四座の女神だけじゃなく、ユッキーまで抜けた状態は厳しいし。ところで、もうすぐ?」
「三ヶ月以内には決めて動くは」
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『女神 >> 王』
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『女神の代理人が条約を結ぶ』
今回の条約のポイントは休戦協定やなくて平和条約である点は色々考えさせれた。つまりは人の往来がある程度自由になる点やってん。極論すればエレギオン人がズダン峠を越えてアングマール本国まで行けるってこと。そりゃ、言葉の上でも条約文でも、
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『永遠の平和と友好を誓って』
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「コトリ、しばらく任せるわ」
「わかった留守は三座の女神と固めるから安心しといて」
ユッキーが休みに入ってから、三座の女神と仕事に取り組んだのだけど、そりゃ大変。これでもかってぐらい仕事がある。平和な時代でもユッキーの穴を埋めるのは容易じゃないんだけど、軍事力整備も、農園経営も、産業振興も、交易にしても、すべて復旧途中だから飛び回るように仕事をこなさないと終らないのよねぇ。そのうえ四座の女神まで不在。
それでも三座の女神が健在だったのはラッキーだった。三座の女神の普段の担当は医療福祉なんだけど、特殊技能として秘書が出来るの。それも女神の秘書が出来る能力があるの。というか、そういう風に作ってある。
三座の女神は期待に応える秘書能力を発揮してくれた。目も眩むような仕事の段取りを鮮やかに付けてくれて、コトリは目の前の仕事をこなすだけでなんとかなった。コトリだっていざとなればユッキー並みに仕事は出来るんだけど、ユッキーに較べるとチト余裕が少ないぐらいかな。もっとも三座の女神は、
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「さすがに二人でこなすには、少々無理が・・・」
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「これが出来るから女神なのよ。コトリを信じなさい。とりあえず今日の予定は?」
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「それと次座の女神様、少し気になることが」
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「そりゃ、親戚やから会いに来るやろ」
「そうなんですが・・・」
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「誰かいない?」
「シャラック上席士官はどうでしょうか」
だから二人体制なんだけど、もう少し増やそうの意見は強いの。増やすなら上席士官からなんだけど、有力候補の一人がシャラック上席士官。たしかに有能と思う。
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「そういえばシャラックは」
「言わないで下さい。今は仕事中です」
「まだ正式じゃなかったよね」
「首座お女神様がお戻りになられてから御相談します」
承認いうてもユッキーが拒否したことないし、報告があればひたすら祝福し、首座の女神主催で祝宴が行われ、そこで正式に女神の男として宣言される感じ。報告いうてもコトリとユッキーの仲やったら立話みたいな程度やけど、三座や四座の女神となると畏まって報告する感じになってる。この、
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報告 → 承認 → 祝宴 → 宣言
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「シャラックは強い?」
「エレギオン軍の中でも屈指かと」
「そんなにベッドで強いの」
「違います。武勇の事です」
「じゃあ、ベッドは?」
「だ か ら、今は仕事中です」
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「わかった、ベッドでも強いなら問題ないだろう。シャラックに任せよう」