軍団造設や農園復旧も急務やってんけど、産業復興も大変。職人たちはそれなりに生き残っていて商品はなんとか作れるんだけど、売る相手が大変。これまでエレギオンは高原都市や山岳都市相手がメインで、海路を使っての交易はサブやってんよ。ところがアングマールが高原都市だけやなくて、ハマまで抑えてる状態じゃ同盟内の交易規模なんてしれてるのよね。
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「コトリ、アカイオイはどう」
「ボチボチや」
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「コトリ、船は検討してくれた」
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「色んな問題あるけど、とにもかくにも木が足りへん」
「やっぱり、そこになるよねぇ」
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「今植えてる木が育つまでは、船に向ける木があらへん」
「五十年以上かかるね」
「エルグ平原じゃそうなるわ。ハムノン高原を奪還して、クル・ガル山脈の木を利用できるまでなんて遠い先の話やし」
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「ところでコトリ、変わったものに力を入れてるね」
エレギオン人の気風として、酒を飲むからには酔っぱらわないと意味がないみたいなところがあって、好まれたのはひたすらビールやった。アングマール戦の前はたくさんのビール醸造所が作られ、これまた、たくさんの酒屋、居酒屋があったものよ。ところがエレギオン包囲戦に入ってからは、ビールの製造は中止になってる。小麦にしろ、大麦にしろ、ライ麦にしろ、酒にするより生き残るために食べる方が優先やってん。
でも酒は飲みたいやんか。そこでビールの代用品としてワインが注目され出したんよ。無いよりマシってところかな。ブドウも栽培してみたら、エルグ平原の気候に合ってたみたいで、思った以上に取れるのよね。
食糧事情が厳しいから、干しブドウとかにもしてたけど、ワインの製造は禁止にしてないの。やっぱり酒がなくっちゃね。これはユッキーも同意見やった。第三次エレギオン包囲戦後もブドウの収穫も増えてワイン製造量もかなり増えてるのよ。
このワインやけど、アカイオイでは非常に好まれるねん。この辺は民族性の違いとしか言いようがあらへん。それだけじゃなく、自国産より他国産を珍重するのよこれが。この辺は、アカイオイよりエレギオンの方が先進地域であるのも理由の一つと思ってる。
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「ワインはよう売れるのよ。それも結構な値段で。アカイオイではエレギオン産のワインは高級品扱いやねん」
「それは知ってる。私がビックリしたのは焼いた方よ」
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「どこであんなことを思いついたの」
そんな大昔に蒸留なんて出来たんかって。エルムにもあったし、シュメールにも広がってた。蒸留は少ない成分をかき集めるためにするのだけど、ワインにやったら、もう少し強いお酒が造れないかと思ってやってみたのよ。
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「でも、これかなり強いお酒ね。ビールより強いんじゃない」
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「こっちはアカイオイに売れないの」
「そやねん、エレギオン人にはこっちの方が評判がエエけど、アカイオイ人にはあわへんみたい」
「でも、ちょうど良いんじゃない」
「まあね」
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「でもやっぱりビールがエエわ」
「しばらくは無理だけどね」
「ビールでもこれやってみたら」
「ビールは素直に飲もうや」
「それもそうね」
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「次座の女神様、焼ワインですが」
「どうかしたん」
「悪酔いする者が増えております。少し規制を考えられては」
「心配せんでエエって。そんなに量あらへんから値段も高いし、そのうち慣れるって」
ワインはエレギオン人に好まれなかったのはそうやけど、数は少ないけどワイン愛好者もおってんよ。言い方悪いけどお酒に弱い連中やねんけど、そういう連中はワインをさらに割って飲んでた。それも甘すぎるから海水で割って飲むのもの少なくなかったの。そやから焼ワインの初心者は割って飲むように勧めといた。
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「コトリ、あれはなんのつもり」
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「花とか果実とかはわかるけど、ハチとかサソリなんて大丈夫なの」
「大丈夫みたいやねん」
「なんか意味あるの」
「士官連中が度胸試しに飲んでた。バドに言わせたら燃えるってさ」
「じゃあ、パリフにも飲んでもらおうっと」