アングマール戦記:クラナリス攻防戦

 セカは援軍が到着する前にクラナリスに進んだ。クラナリスはハムノン平原の入口に当たる都市、クラナリスより北側は山岳部になる。アングマールはゲラスの戦いの後にカレムまで退いている。アングマールもそれなりの損害はあったようで、クラナリス攻略はさすがに出来なかったぐらいで良さそうだ。

 コトリもユッキーもクラナリスへの兵站戦の確保に奔走した。幸い平和な時代に整備した女神の道が役に立ってくれた。具体的にはマウサルムを後方基地としてクラナリスを支える感じ。アングマールの力はゲラスの戦いで嫌と言うほど思い知らされたので、どの都市も臨戦態勢に入っていた。もちろんエレギオンも。

 セカがクラナリスで行ったのは防壁の整備補強と軍事調練。セカも同盟軍の弱兵ぶりが骨身に沁みた様で、しばらくは守りの姿勢の方針のようだ。同盟軍の前線ラインはクラナリスを中心としてペラト川南岸のラウレリア、イートスに自然になった。とくにクラナリスの防衛は重要なものになっていた。

 セカの戦力はゲラスの戦いの生き残りが中心となって、第二次派遣軍とクラナリス軍を合わせた規模になっている。とにかく寄せ集め状態でゲラスの戦いの生き残り以外は実戦経験皆無だから、セカは慎重になっている。

 先に動いたのはアングマール。アングマールもクラナリス突破を目指していた。迎え撃ったセカはひたすら防衛戦に終始していた。最初のアングマールによるクラナリス攻撃は一ヶ月程度で終わってくれた。

 セカが守りの姿勢に徹するのを見抜いたのか、第二次包囲戦では、しきりに城外決戦を誘っていたようだった。わざと城門付近の戦いで負けて誘い込もうとしたり、クラナリスの農地を荒らし回って挑発したり。とくに農地を荒らし回るのはミエミエのやり方だけど、クラナリス軍が動くのを抑えるのは大変だったみたい。これが三ヶ月続いた。

 第三次包囲戦になって、ようやくセカは動いた。第一次・第二次包囲戦で実戦経験を積んできたためだろう。既に戦いは二年目に突入していた。セカはアングマール軍が農園焼打ちに出るのを予想し、巧妙に城外に軍勢を伏せていた。アングマール軍が農地を襲うとセカは、これに対して城内から軍勢を出撃させた。

 同盟軍が城外出撃するのはアングマール軍にとって待望のものだったから、すぐさま迎撃態勢を取ったわ。具体的には城への退路を断ち、城外に出撃した同盟軍を包囲殲滅する作戦だったようだ。アングマールが城外出撃部隊を襲おうとしたのはテベスの地。陣を敷いて待ち構えていた。

 その頃にはクラナリスの城門付近にはアングマール軍が現われ、退路を断つ姿勢を見せていた。こういう展開をセカは読み切っていたみたいや。アングマールの作戦の弱点は、農地襲撃、城外部隊襲撃、退路遮断に兵力を三分していたこと。これに対しセカは城内守備隊、出撃部隊、伏兵部隊に三分。どちらも三分だけど、兵力はその頃には三倍以上になってたんだ。

 テベスで戦いが始まってすぐにアングマール軍の背後に伏兵部隊が出現したんだ。セカはその近くにあった洞窟に伏兵部隊を隠していたのをアングマール軍は察知できなかったってところ。ファランクス陣形は右側が弱点なんだけど、後ろは致命的な弱点になるんだよね。強兵を謳われたアングマール軍でも一たまりもなかったみたい。それこそ瞬時に壊滅敗走状態になっちゃった。

 セカは伏兵部隊と合流すると城には帰らずそのまま農地襲撃部隊を襲ったんだ。農地襲撃部隊はこの作戦では戦闘に加わる予定でなかったみたいで、完全に不意打ち、これまた蛛の子を散らすように潰走。セカはそこで兵を返して、城門遮断部隊に襲いかかった。城からの出撃部隊が背後を衝いたため、ここも散々に敗れたアングマール軍をセカは執拗なぐらい追撃をかけてた。

 セカはゲラスの戦いの雪辱を果たしたと見て良いと思う。この戦いではアングマール軍の被害は大きかったと見て良いから。それに対し同盟軍の被害は軽微だった。アングマール戦が始まってから初めての快勝劇として良いと思う。セカはこの勝利の勢いに乗り、翌日には城外決戦を挑むために陣を敷いてアングマール軍を待ち受けた。

 しかしアングマール軍はこれに応じず、カレムに撤収しようとしたんだ。セカは果断だった。撤収するアングマール軍の後尾に食いつき追い回したんだ。ついに総崩れになったアングマール軍はカレムに敗走。そのままカレムを攻めたセカはカレム奪還に成功した。セカは優秀だった。ユッキーが見込んだ通りに優秀だった。セカに必要だったのは血を流す経験だったんだ。セカはゲラスの経験を完全に活かしていた。待つときは忍耐強く待ち、攻める時には息も継がせないように攻め立て勝ち切ってしまう戦場の極意を。