翌日には仕事に戻ったの。ユッキーは心配してたけど、それどころじゃないじゃない。その日もアングマール王は城門前に来てたけど、ユッキーとのやり取りを聞いていてある秘策が浮かんだの。
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「ユッキー、和平交渉に持ち込むべきよ」
「そういうけど、エロ魔王なんて信用できないよ」
「クソ魔王を信用していないのはコトリも同じ。でも城門前は遠すぎるの」
「遠すぎるって、えっ、どういうこと」
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「代価って、例のエレギオンの五女神を差し出せじゃない」
「だから、それに乗る」
「コトリ、正気なの」
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「五人とも行くことないよ。それに差し出すんじゃなくて、あくまでも和睦の条件を話し合うって建前にする。行くのはコトリと四座の女神の二人でイイ」
「それって、あの一撃を魔王にお見舞いするって事なの?」
「そうよ、魔王は女神が使者で来たら必ず謁見するわ。魔王じゃなくちゃ、女神の力を抑えきれないもの」
「でも、そこで捕まえられて、魔王の餌食にされるに決まってる」
「その前に一撃を決めてやる」
ほんじゃ、城外決戦を挑むのはどうかだけど、やはりアングマール軍は強い。コトリもゲラスの野、ベッサスの河原、リューオン郊外、セラの野と四回戦ったけど勝ったのはベッサスだけ。後はゲラスが惨敗、リューオンとセラも負けだもの。魔王指揮の直属軍と決戦なんて狂気の沙汰やんか。
メイスは女神の男としてコトリのために死んだ。でもメイスが守りたかったのはコトリだけじゃないの。エレギオンを守りたかったのよ。今、エレギオンを守れるのは一撃のみ。このバクチに勝たないとエレギオンは滅び、メイスの死は犬死になってしまう。最後にユッキーは同意してくれた。
そこから何度か魔王とユッキーのやり取りが行われたんだけど、予想通り魔王は和平交渉に乗ってきた。ただし魔王が突きつけた条件はムチャクチャな物だった。使者は女神を立て、一切の護衛も武装も禁じるだったんだ。ただ、今回に限っては都合が良かった。一撃には武器は不要だし、下手な護衛は足手まといになるだけだったから。ユッキーは涙を流しながら、
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「必ず生きて帰るって約束して。生きてさえ帰れば私の命を引きかえにしても必ず助けるから」
この日のコトリと四座の女神の服装は女神の正装。見ただけで武装なんてどこにもしてないのがわかるぐらいやったけどアングマール軍の連中は、
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「武器は持ってないな」
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「女神は信義を尊びます。貴国もそうだと信じております」
本営は残っていた石の壁に木材の壁と天井を足し、床まで張ってあった。石の壁の前が一段高くなっていて上段のつもりらしい。そこにゴテゴテした趣味の悪そうな椅子が置いてあるの。どうも玉座みたいやった。石の壁にはタペストリーが掛けてあるけど、どうにもコトリの趣味にはあわへん感じ。まあ、他人の趣味やし、ましてやクソ魔王の趣味やから、合った方がケッタクソ悪いわ。
玉座の左右にはアングマール軍の幕僚らしいのと、部屋中にも外にも完全武装のアングマール兵がテンコモリいた。こりゃ、絶対とっ捕まえる気がマンマンなのが剥きだし過ぎて内心ワロタぐらい。そうこうしているちに、
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「王のお成り」
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『ドッカーン』
クソ魔王の幕僚も薙ぎ倒され、兵士も吹っ飛んでた。コトリもひっくり返ってもて尻打って痛かった。そしたらね、コトリの足元になんか転がってるんよ。なんや思てよう見たら、爆風で玉座から吹っ飛ばされたクソ魔王やねん。すかさず、
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『ドスン』
アングマール本営は大混乱になったけど、とにかく逃げることにした。アングマール兵はどうしたかって、舐めてもろたら困る。フラフラでも女神やで、本気出したら物の数やあらへんよ。そこいらじゅうの物を投げまくって追い払ってやった。女神の喧嘩の要領ってところ。
本営出たらでっかい黒い馬がつないであってん、クソ魔王の馬やろ。これ幸いとばかりに四座の女神を乗せて後はエレギオンまでひとっ走り。トドメ刺せなかったんは心残りやけど、あれだけ痛めつけたら、当分はまともに動けんやろ。あのクソ魔王の野郎の回復力の遅さはわかっとるつもり。城門まで来るとユッキーが出迎えてくれて、
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「あら、コトリ。お土産付き」
「エエ馬やで」