ボクはシャラック、将軍にして三座の女神の男。シャウスの道の攻略を任されてます。この道に関しては情報作戦本部長時代にあれこれ研究したから良く知っていますが、とにかく攻めるとなると大変な道です。そうそう、ボクがシャウスの道攻略担当の将軍として派遣される前日に次座の女神様から訓戒を頂いています。
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「シャラック、セカって知ってる?」
「セカ・・・もしかして、あの偉大なるセカ王のことですか」
「そうよ」
「もちろん存じております。エレギオン人なら知らぬ者はいないでしょう。不敗の名将であり秀でた統治者です」
「不敗の名将か・・・あの世のセカが聞いたら、顔を真っ赤にして怒るかもよ」
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「セカはね、気負い立ってたの。軍勢は自分の方が多いし、この一戦でケリをつけてやるんだって」
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「セカ王のゲラスでの戦いは、攻め込んできたアングマール軍を見事に撃退しています」
「そうはしてるけど、シャラックも将軍になったから本当のことを知っておいた方が良いわ」
「本当とは・・・」
「あの戦いの実相は学校で教えているものとは違うのよ。同盟軍の死傷率は三割。当時はファランクスだったけど、中央を受け持ったエレギオン軍に至っては死傷率が五割に及んだのよ。士官の七割が討死し、四女神の男は誰も生きて帰って来れなかったの」
「えっ、それって敗北・・・」
「敗走はしていないけど、負けなかっただけ。押しまくられた当時の同盟軍を辛うじて崩壊させなかっただけなのよ。セカは死ぬまであれは完敗だったと言ってた」
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「セカが苦戦した原因がわかる?」
「アングマール軍が強かったからですか」
「それもあるけど、一番の原因は経験が足りなかったことよ。自分が率いる軍勢の質、相手の軍勢の強さを把握しきってなかったこと、なにより数が少ないアングマール軍からの決戦の誘いに安易に乗ってしまったこと」
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「セカは優秀だったよ。後に不敗の名将と呼ばれるほどにね。そこまで優秀だったセカでも経験の差は埋められなかったのよ」
「偉大なるセカ王でも・・・」
「シャラック、あなたも優秀よ。でも経験が足りないの。あなたを情報作戦本部長にしたのは、せめて情報の大切さを覚えてもらうためだったの。情報を活かすも殺すも、戦場ではシャラック、あなたの判断一つにかかってるの。その判断は、一つ間違えば、あなただけではなく全軍の命運、さらにはエレギオンの命運まで決めてしまうの」
「それって・・・」
「そう、それが将軍の仕事」
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「戦場では何が起るかわからないの。何が起るかを頭を搾りつくして考え、準備して、臨まなければいけないわ。そう、退く時には卑怯だとか、恥辱と思わず退くのよ。勝つためにはいかなる手段も使わなきゃいけないし、負けそうならいかに損害を少なくするかを瞬時に判断しないといけないの。コトリでもゲラスの時は十分でなかったってこと」
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「任せたわよ、シャラックならできるはず。明日には出陣だから、今夜は三座の女神と存分に燃えてらっしゃい。当分お預けになるだろうから」
現在ハマにはマシュダ将軍が三個軍団を率いて守っています。ボクも三個軍団を預けられていますが、交代と言う形になります。ハマでシャウスの道攻略の最終準備をして、戦いが始まればイスヘテ砦に本営を置く予定です。
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「将軍、次座の女神様からのお届け物の組み立てが終わりました」
「わかった、見に行く」
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「ほほぅ、こちらは楯付破城槌だな」
「はい、そのようでございます」
「こちらは、楯車か。おもしろいものだな」
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「押せそうか」
「もう少し人数を増やせば可能かと思います」
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「中型石弓の設置もやってみてくれ」
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「中型石弓の設置は敵前で行うことになるから、訓練しておくように」
まずはアングマール軍、とくに第五広場の状況の偵察を念入りに行わせています。第五広場は標高にして三十メートルぐらいのところにあります。山と言うより丘の砦を攻めるようなものですが、とにかく道が一本しかありません。情報収集はエルル三席士官が担当なのですが、
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「将軍、アングマール軍は第五広場に立て籠もる様子です」
「うむ、防備は」
「街道を防ぐような強固そうな柵です」
「左側はどうだ」
「そちらにも柵を巡らしています」
「数は」
「二個大隊程度かと」
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「巨大石弓はどうだ」
「申し訳ありません。近づくと猛烈に矢を降らせてくるので、確認出来ておりません」
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『戦いはなるべく自分の損害を少なくするのが名将だよ』
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「まず、本営をイスヘテ砦に移す」
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「エルル三席士官、近いな」
「はっ、攻め寄せて来るかと思っていましたが、今のところは守りに徹する方針のようです」
「まずは箱車で明日は攻めてみる」
明朝、この箱車を先頭に近づいて行くと、アングマール軍から矢の雨が降って来ました。箱車に続く重装歩兵には身長を上回る大きな楯を持たせ、さらに後列はそれを頭の上に被せる格好にして矢を防いでいます。矢ぐらいでは、あの箱車の重装甲は壊せないはずです。
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『ドッス~ン』
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「退却」
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「やはり箱車は対策されてたな」
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「エルル三席士官、近いとは思わないか」
「はっ、十分届くかと存じます」
「では取りかかってくれ」
その間に前線基地をほんの少し前進させました。曲がり角を出た地点に木柵を設置しました。さらに柵の内側に装甲を巡らし、街道を封鎖する態勢を取らせました。分解移動、さらに設置作業に一ヶ月ぐらいかかりましたが、アングマール軍は柵の外に出てくる様子はありませんでした。
しかし何度見ても巨大なもので、次座の女神様もよくこんなものを作ろうと思ったものだと感心しています。そう言えば、これをエレギオンからハマまで送る指示が届いた時には仰天したものです。さすがの首座の女神様も、
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「コトリはムチャ言うから困るわ」
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「それはムチャというものです」
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「これは次座の女神の命令。決定であり可否を論ずるのは許しません」
「そうは言われても、あれは移動しない前提で作られてまして・・・」
「これは戦争。次座の女神が必要とされるなら、万難を排しても送ります」
「でも、どうやって」
「わたしが指揮を執ります」
設置が済むと火炎弾を撃ち込ませました。これも本国に要請して取り寄せたのですが、全部で五十発撃ちこんでやりました。第五広場は火の海になり、アングマール軍は撤退しました。本国に報告すると、
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『引き続き、第四広場を奪取すべし』
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『首座と次座の女神様は大変お喜びになられ、密かに祝杯を挙げられておられます』
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『熱い夜を楽しみにお待ちしております』