日本助産師会の自由研究

夏休みの小学校の自由研究レベルですから、そのつもりでお読み下さい。助産師会が結構なお力をお持ちの事は医療関係者なら周知の事です。ではその実態はと言えば、外野からでは窺い知れないです。そこでポイントを会員数にある程度しぼって切り込んで見ます。


日本助産師会の歴史

日本助産師会HPに日本助産師界のあゆみ(歴史)と言うのがあります。そこにある助産師会設立までの動きを見ると、

経緯
1927 日本産婆会創立
1946 日本産婆会、帝国看護協会、日本保健婦協会が統合され日本産婆看護婦保健婦協会設立
1951 ・日本産婆看護婦保健婦協会が日本看護協会に名称変更
助産師が国家資格となる
1955 日本看護協会から脱会して日本助産師会設立


1955年の脱会の経緯としては伏線として、

1953(昭和28)年、看護協会が国際看護師協会(ICN)に加盟するにあたり、今まで正会員であった助産婦(現・助産師)は準会員として扱う、という意見が出されました。

詳しい事情は知る由もありませんが、国家資格の認定が始まったのが1951年ですから、資格の問題が浮上したのかもしれません。まあ、読むからにもめる種です。だって看護協会になるまでは「日本産婆看護婦保健婦協会」として産婆がトップに出ていたわけですから。次が部外者には非常にわかり難いのですが、

厚生省(現・厚生労働省)は、当時新しく計画する社会福祉社会保障の準備段階として助産婦実態調査を企画していました。その調査への協力要請に対する、協会と助産婦部会との意見の対立などもあって、助産婦職の一層の独自性と専門性を尊重した、助産婦独自の会の設立を求める声が高まりました。

厚生省が企画した助産婦実態調査が何故に問題化したかは理由が書いていないのでわかりません。とにかく看護側と助産師側が猛烈に対立したのだろうぐらいしか言えません。対立の結果、

1955(昭和30)年1月、臨時総会において、190対2で助産婦部会は看護協会からの脱会を決議しました。100人が協会に残留、会員数6万人からなる日本助産婦会が創立

圧倒的多数意見で看護協会から脱会したになっています。よほど対立は物凄かったと想像する他はありません。なんとなくですが、臨時総会で反対した2人と看護協会に残留した100人は助産婦の中でも看護婦資格を持っていた者に思えますが、真相は不明です。


日本助産師会の会員数

歴史から見て1955年の時点では

    会員数6万人
こうであった事が確認できます。これが半世紀以上前のお話ですが、現在の助産師会の会員が何人かです。案外見つけるのが大変だったのですが、やっとこさこういうページを見つけました。会員数を紹介する前に面白かったのは、

設立年月日 1927年月日

これは日本産婆会から数えたものであるのが確認できます。でもって会員数なのですが、

会員数 7000 人(内 女性 7000 人)

このページがいつのデータに基づいているかの確認が出来ませんが、現在の会員数は7000人程度と理解しても良さそうです。半世紀前の約1/10と言うところでしょうか。ではでは日本の助産師数は何人かになります。これがまたはっきりしたデータが把握し難かったのですが、厚労省資料の保健医療関係者の動向


もう少し詳しいデータを平成22年衛生行政報告例の概要からピックアップしてみると、

2000 2002 2004 2006 2008 2010
就業助産師数 24511 24340 25257 25775 27789 29672


おおよそ3万人ぐらいの就業助産師がいるとして良さそうです。そうなると1955年の6万人はなんだとなりますが、平成22年衛生行政報告でもっとも古いデータで1965年で4万3267人と言うのがあり、これが1970年には2万8087人になっていますから、1955年には6万人ぐらいでもおかしくないとみます。でもって日本助産師会の組織率は、
    7000人 / 3万人 = 23.3(%)
就業助産師の1/4弱程度と見て良さそうです。


就業助産師の分類

平成22年衛生行政報告はもう少し詳しい情報もあるのでご紹介します。そこに雇用形態、就業場所のデータがあり、

分類 助産師数
総 数 29672
病 院 19068
診療所 有床 6142
無床 237
助産所 開設者 890
従事者 353
出張のみによる者 546
訪問看護ステーション 管理者 2
従事者 5
社会福祉施設 児童福祉施設 12
その他 2
保健所又は市町村 保健所 266
市町村 722
事業所 24
看護師等学校又は研究機関 1298
その他 105

どうしても注目となるのは助産所ですが、この統計の項目はすべて独立しているので、助産所を持っているものが890人、その従業員が353人、助産所を持たずに出張のみで助産業務を行なっている者が546人になります。そうそう注意としては、すべてが分娩を請け負っている訳ではありませんのでよろしく。ここまで調べたら都道府県別のデータも欲しいところで、
都道府県 開設者 従事者 出張のみによる者
北海道 30 6 9
青 森 4 1 3
岩 手 6 2 3
宮 城 17 7 2
秋 田 3 0 5
山 形 0 0 8
福 島 10 4 4
茨 城 21 3 18
栃 木 10 3 3
群 馬 11 1 7
埼 玉 40 20 37
千 葉 24 12 32
東 京 86 60 71
神奈川 62 58 28
新 潟 13 1 79
富 山 16 1 1
石 川 20 1 0
福 井 14 5 6
山 梨 7 1 4
長 野 35 13 10
岐 阜 41 7 8
静 岡 37 16 16
愛 知 65 22 21
三 重 10 0 8
滋 賀 17 3 10
京 都 16 8 16
大 阪 56 24 22
兵 庫 32 15 20
奈 良 13 6 7
和歌山 15 2 5
鳥 取 5 0 4
島 根 6 6 5
岡 山 12 9 0
広 島 12 0 13
山 口 12 3 1
徳 島 8 0 2
香 川 12 4 3
愛 媛 3 7 0
高 知 6 0 1
福 岡 18 12 4
佐 賀 2 0 2
長 崎 9 0 3
熊 本 8 0 18
大 分 17 2 1
宮 崎 12 2 6
鹿児島 12 6 18
沖 縄 5 0 2
全 国 890 353 546

「出張のみによる者」が具体的にどんな業務をしているか良くわからないのですが、最多が新潟県の79人と言うのは妙に感心しました。その辺の上位集計をやっておくと、
都道府県 開設者 都道府県 従事者 都道府県 出張のみによる者
東 京 86 東 京 60 新 潟 79
愛 知 65 神奈川 58 東 京 71
神奈川 62 大 阪 24 埼 玉 37
大 阪 56 愛 知 22 千 葉 32
岐 阜 41 埼 玉 20 神奈川 28
埼 玉 40 静 岡 16 大 阪 22
静 岡 37 兵 庫 15 愛 知 21
長 野 35 長 野 13 兵 庫 20
兵 庫 32 福 岡 12 熊 本 18
北海道 30 千 葉 12 茨 城 18

こんな感じです。従業員数を付け加えたのは、ごく常識的に見て、従業員数が多いところの方が助産所分娩が行われている可能性は高いだろうぐらいです。
助産師会と医師会
とりあえず助産所助産師数は全部で1789人である事が確認できました。このうちさらに従業員数を除くと1436人です。この1436人が全員助産師会会員であったとすると助産師会の28.5%に当たる事になります。つまり、
  1. 助産師のうち助産師会に加入している者が約1/4
  2. 助産師会の中で1431人が占める割合がこれまた約1/4
つまり就業助産師の約1/16の意見が助産師会の代表意見になります。


一方で日本の医師数(調べ直しました)は医療施設の従事者が28万人で勤務医が18万人、開業医が10万人です。一方で日医は会員数が16万5000人で勤務医会員が7万8000人となっています。このうち勤務医会員は事実上発言力はないわけで、日医は開業医会員が握っています。医師全体の3割程度です。全体の3割で医師を代表する意見でゴザイとやってるわけです。

もう少し言えば日医の意見を左右する位置にいる者は、医師会出世双六参戦条件の意欲以外の、ヒマとカネの比重が高くなり、最終ステージまで到達できるのは中小医療グループの経営者にほぼ限定されています。日医執行部のメンバーを見ればすぐ判ります。私も日医会員の開業医ではありますが、私がリアルで日医に及ぼせる影響は、

    日医執行部に影響を及ぼせる可能性がある県医師会長に影響が及ぼせる可能性がある市医師会長に影響が及ぼせる可能性がある区医師会長に影響が及ぼせる可能性がある区理事に知り合いがおれば意見できる。
寿限無みたいですが、実質「無い」と言うわけです。どうでしょうか、日医会員16万5000人のうちで日医の意見構成に影響できる人物は1000人もいるのでしょうか。多く見積もっても2000人もいるかどうかは個人的に疑問です。


助産師会と医師会には組織運営として結果的な類似性が認められるわけです。どちらも組織としては動脈硬化を来たしており、所属会員の中でも医師会では嫌気が差しているものも少なくありません。助産師会については内部事情を存じませんので保留にしておきます。

それでも相違点はあります。医師会は現在の組織運営、組織のあり方については不満はあっても、医師の団体が必要である事については多くの医師は認めています。後は手法論的な話で、現在の日医を改革し活性化させるのか、新たな組織で入れ替えるのかです。では助産師会はどうでしょうか、こういう情報があります。日本看護協会平成23年度院内助産システム推進ワークショップ「混合病棟で院内助産システムを推進する」に、

日本看護協会助産師会員約2万人

こうあります。半世紀程前に看護協会と助産師協会は喧嘩別れしたのは上述した通りです。1955年の分裂時点で看護協会に残ったのは100人で、6万人が助産師会を結成しています。それが現在では、

こうなった訳です。1955年当時は看護婦と助産婦は基本的に別の資格の職業であったわけです。これが今では「看護師 → 助産師」として一体的なものになっています。そういう状況変化が会員数として反映していると私は見ます。大胆に言えば看護協会を脱会してまで独自性を主張した、歴史的な使命は終了してるんじゃないかです。

そうであれば半世紀の時を越えて再び合流するのが妥当だろうです。以上、自由研究でした。