統合医療大学院大学創設企画と生命科学振興会

統合医療大学院大学とはなんぞやですが、6/18付読売新聞に、

文部科学相の諮問機関「大学設置・学校法人審議会」は18日、来春開設予定の「統合医療大学院大学」(東京都新宿区)の新設を「不可」とするよう平野文科相に答申した。

「不可」もタダの不可ではなく、

通常、審査は秋まで続けるが、09年度に導入した「早期不可」制度を初適用し、書類審査のみで打ち切った。

史上初の門前払いの解釈で宜しそうです。それでもって早期不可とされた理由なんですが、

こうやって公式に公開されています。この不可理由をあれこれ書くつもりだったのですが、ちょっとした前フリのつもりであった生命科学振興協会の調査が思いの他の分量となってしまいました。ま、「不可」の理由は、お役所文であっても解説不要の読まれるだけで内容は明快に誰でもわかる代物ですから、周辺調査に力点を置くのも一興でしょう。


渡邉昌氏と生命科学振興会

さてこの大学院ですが、正式に設置申請していますから母体となる設置者が存在します。これが、

学校法人統合医療学院設立準備委員会

こうなっています。この学校法人設立準備委員会のさらなる母体があるとするのが妥当です。6/18付読売新聞に、

学長に就任予定の生命科学振興会の渡邉昌理事長

どうも生命科学振興会が学校法人のさらなる母体の可能性がありそうです。渡邉昌氏ですがwikipediaの経歴を全部紹介するには長いので、紹介されている著書の一部だけ紹介しておきます。

  • 『食事でがんは防げる』 光文社、2004年4月23日。
  • 『糖尿病は薬なしで治せる』 角川書店角川oneテーマ21》、2004年9月10日。
  • 『薬なし食事と運動で糖尿病を治す』 講談社、2005年10月。

さて生命科学振興会なんですが渡邉氏のwikipediaには、

湯川秀樹、武見太郎、佐藤栄作などが設立した社団法人生命科学振興会理事長をつとめライフサイエンスを発行。

湯川秀樹と武見太郎か・・・おそらくwikipediaソースは、

(社団) 生 命 科 学 振 興 会

 社団法人 生命科学振興会は、「生命の尊厳、人間・社会・自然の調和育む科学の創造」を基本理念として、松岡英宗、武見太郎、佐藤栄作湯川秀樹らにより、1973年に内閣総理府の許可を得て創立され、機関紙「ライフサイエンス」の発行、例会・講演会などを行い一貫して「生命(いのち)」の尊厳を考えてきました。

 また、生命現象を直接対象とする科学(分子生物学、生化学、遺伝子工学、医学)など自然科学の分野のみならず、社会諸科学、さらに哲学、宗教、芸術を含めた総合的視野から探求し事業を進めてまいりました。この会も、皆様に支えられながら本年で創立33周年を迎えました。

来年には40周年となりそうです。そこそこ老舗と言っても良さそうな気がします。それなりに筋目正しい団体である気配はあり生命科学振興会役員名簿24.3.31現在を見ても、理事にはそれなりの肩書きの人物が並んでいます。原中前日医会長も名を連ねておられますが、これは設立時の武見元会長からの慣例による日医枠のようにも思えます。他に日医と生命科学振興会の関係を示唆するものとして札医通信 No.418号 14.6.20に、

社団法人生命科学振興会入会についてお願い

てな記事も見られます。ではでは生命科学振興会と統合医学の関係ですが、社団法人生命科学振興会平成24年度事業計画書に、

ライフサイエンスとともに、新規に隔月誌「医と食」の刊行をおこない継続して、新会員への参加が増えた。今年度もこれらの活動強化を計りたい。

また、「医と食」による統合食養学・統合医療学に関する調査・研究を普及させたい。

こうありさらに、

事業8.統合食養学・統合医療学の調査研究事業

では平成23年度の事業計画がどうだったかなんですが、これが残念ながら見当りません。辛うじて平成22年度事業報告書がありますが、ここには統合医療の文字はありません。ではどのあたりから統合医療の文字が出てきたかです。生命科学振興協会は「ライフサイエンス」と言う季刊誌を発行しており、2007年7月号からのバックナンバーが掲載され、目次も紹介されています。ここから拾うと、

  • 第42号(2010-Vol.36 潤・):「対談:統合医療への道…渥美 和彦/渡邊 昌」
  • 第45号(2011 No.2):「食養生統合医療を考える…渡邊 昌」
  • 第47号(2011 No.4):「統合医療と統合食養学 あたらしい統合医療の枠組みを求めて…渡邊賢治/上馬塲和夫/蒲原聖可/渡邊昌」
あくまでも目次上ですが、2009年(平成21年)以前には「統合医療」の文字はありません。もう一つの発行雑誌である隔月誌である「医と食」の目次には統合医療の文字はありませんが、こちらの発行目的は、
    「医と食」による統合食養学・統合医療学に関する調査・研究を普及させたい
こうなっているわけです。これの創刊号はどうやら「医と食」創刊にあたってから2009年4月らしく、ライフサイエンスの目次とあわせると2009年ないし2010年ごろから統合医療への傾斜が始まった可能性があります。ここで問題は渡邉氏がいつから生命科学振興会の理事長になられたかです。これが明記されたものが見つからないのですが、食の専門家から様の長寿県と伝統食に渡邉氏のプロフィールが掲載されており、そこに参考になる記述があります。

2005年から国立健康・栄養研究所理事長として、国民の健康づくりに貢献。とくに機能栄養学を提唱し、食品中の非栄養素成分の健康影響など新しい分野の研究を進めてきた。内閣府食育推進評価専門委員会座長として活躍中。退任後、隔月に「医と食」を発行し編集長・発行人を務める。現在、(社)生命科学振興会理事長、抗加齢医学会、病態栄養学会常務理事など。

国立健康・栄養研究所理事長の現理事長である徳留信寛氏は2009年には現職にあるのが確認できますから、「医と食」の発行が2009年4月である事とあわせ、2008年4月ぐらいから生命科学振興会に所属したんじゃないかと考えます。2009年4月に就任して2009年4月号の発行は難しかろうです。それとこれだけの肩書きの人ですから、平理事で入職したとも思いにくいところです。


もう一つ渡邉氏の動きで注目したいのは、日本綜合医学会の会長に2011年8月1日に就任されています。この日本総合医学会の設立の経緯ですが、

日本綜合医学会は、明治の食医・石塚左玄が創始した「食養」の思想を継承するため、1954年に東京大学名誉教授・二木謙三博士(文化勲章受章者)を初代会長として設立されました。

わぉ、ついに石塚左玄が登場しました。石塚左玄の系譜は桜沢如一が引き継ぎ中興の祖となり、これが現在のマクロビに連なっている事は前に検証しました。現在の日本綜合医学会がマクロビとどういう距離関係にあるかまで存じませんが、源流は同じであるとしても差し支えないかと思います。


長い長いムックの旅でしたが渡邉氏率いる生命科学振興会が統合医療大学院大学の設立に直接関与していた証拠らしきものも見つけました。これも日本綜合医学界HPの2011.11.1付渡邉昌会長の対談記事紹介&「医と食」購読紹介にあります。ちなみに対談相手は黒岩祐治神奈川県知事なんですが、

毎日の食生活から健康を考えるキャンペーン「食がカラダを変える!」対談企画第4弾。
vol.6:西洋医学東洋医学の融合を(上)

ここでぐるっと回って読売記事を注目するのですが、

    学長に就任予定の生命科学振興会の渡邉昌理事長
現時点も当時も渡邉氏は生命科学振興会理事長であり日本綜合医学会会長なのですが、使われた肩書きは生命科学振興会だと言う事です。もちろん黒岩知事との対談の時には日本綜合医学会会長の肩書きで臨まれ、さらに日本綜合医学会のHPに掲載されていますから、日本綜合医学会も統合医療大学院大学計画に関与していたとしても良いかと思われます。

生命科学振興会と言っても年間予算が4000万円程度の協会ですから、独力で大学院大学を設立しようとしたとは思えませんが、相当の関与はありそうとしても良く、それもどうやら渡邉氏が理事長に就任してから統合医療に傾斜していった気配があります。


生命科学振興会の予算

これが掘り出してちょっと驚いたのですが、まず

予算書とは次年度予算の計画を示したものです。これで2009年度から2012年度までの予算の動きがわかります。本当は収支計算書の方が良いのですが、全部そろわないので計画書で代用します。

科目 2009 2010 2011 2012
事業活動収入 会費収入 375万 390万 340万 340万
広告料収入 1280万 1380万 980万 980万
「医と食」購読収入 0 80万 170万 50万
セミナー参加費等収入 0 30万 30万 30万
一般寄付金収入 0 0 0 0
指定寄付金収入 700万 450万 2460万 2700万
雑収入 0 0 0 0
事業活動収入計 2355万 2330万 3980万 4100万
事業活動支出 調査研究費支出 30万 20万 30万 2030万
研究事業費支出 560万 60万 0 0
災害地域支援事業費支出 1860万 100万


平成23年度予算計画書はどうやら震災の影響もあり途中で改訂されたようですが、事業収入が平成23年度から突如倍増しています。倍増した原因は特定指定寄付金収入が急増しているです。参考までに平成21(2009)年度と平成22(2010)年度の計画書(予算段階)と計算書(決算段階)の寄付金収入の比較を示しておきます。

項目 一般寄付金収入 特定寄付金収入
平成21年度収支予算書 0 700万
平成21年度収支計算書 31万 180.5万
摘要 札幌実行委員他 渡邉昌他
平成22年度収支予算書 0 450万
平成22年度収支計算書 25万 17万
摘要 札幌実行委員他 札幌実行委員他


2年分しか判りませんが、予算段階に較べて決算段階の方がかなり少ない事が判ります。実額(決算段階)はこの程度の金額であるらしいぐらいのところです。ここで注目したいのは平成23年度計画書と平成24年度計画書の前年度予算額です。本来は同じのはずですが、そうはなっていません。

項目 23年度計画書 24年度計画書
前年度予算額
24年度計画書
一般寄付金 0 0 0
特定寄付金 600万 2460万 2700万


どうもなんですが、平成23年度予算は途中で修正されたようです。何か特殊事情があったのかもしれませんが、通常はそういう事はしないはずです。特定寄付金収入が予想より多くなれば、決算書段階で報告するのが通常でしょうし、この年は震災関連の臨時出費が計上されていますが、これも決算段階で報告しそうなものです。あえて理由を考えれば、震災への支出の名目が立たなかったので新たに予算案を作ったと言うところでしょうか。

算額が変更されたのはともかく特定寄付金収入の摘要ですが、

統合食用学・統合医療学の調査研究等に対する寄付金

「食用学」は「食養学」ではないかと思っていますが、それはともかく全支出の約半分を占める調査研究費支出の摘要は、

統合食用学・統合医療学等調査研究

もう少しだけ予算の変更によるお金の帳尻を考えるとまず平成23年度ですが、

項目 平成23年度予算 摘要
元の計画 600万 平成21・22年実績から実額50〜100万程度
修正後 2460万
差し引き 1860万
災害地域支援事業費 1860万 予算修正後に加えられた新項目


特定寄付金が増えた分だけそっくり災害地域支援事業費なったと見ても良さそうです。震災の年ですから義援金が集まったと見れないこともありませんが、それにしてはこれまでの振興会の活動、寄付状況からやや大きすぎる印象はあります。続いて平成24年度です。

項目 平成24年度予算 摘要
計画書 2700万 統合食用学・統合医療費の調査研究等に対する寄付金
調査研究費増額分 2000万 平成23年度予算で20万円
災害地域支援事業費 100万
差し引き 600万 平成23年度当初予算と同額


平成23年度途中から新たに増えた災害地域支援事業費と調査研究費の増額分を除くと特定寄付金は600万になります。そうなると2100万円が平成22年度以前より増えた分になるとも見れます。平成23年度の1860万にしろ、平成24年度の2100万円にしろ、この振興会規模では従来の事業収入に匹敵する巨額であり、そういう金額がなぜか突然舞い込んだになるとして良さそうです。

これまでの振興会予算の収入からすると平成23年・24年の特定寄付金の著増は同一関係者・団体によるものの可能性は高そうで、なおかつ平成24年度は統合医療関係者と明記してあります。それと平成23年の大口特定寄付者の存在は、予算を立てる段階では想定されていなかった可能性もあります。だからこそ年度内の修正が必要になったです。

平成23年度の特定寄付分は災害対策費になってはいますが、事業支出の項目名は時に広義に運用されます。もちろん災害対策に多くは費やされたとは思っていますが、広義の災害対策として統合医療大学院設立の研究にも使われた可能性は残ります。ここはそこまで捻って考えるより、寄付者は太っ腹に本当は平成23年度も統合医療の研究に使って欲しかったが、未曾有の災害のため転用を了承したとする方が良いかもしれません。

もちろん、これだけでは調査研究費が統合医療大学院の設立準備に費やされたかどうかは不明です。それでも特定寄付金の額が急に増えた時期と「統合食用学・統合医療学等調査研究」のための調査研究費が急に増えた時期、さらに大学院設置申請は時期的に妙な符号の一致を見せます。

興味は尽きないところですが、これ以上の推測の翼を広げるのはあえてやめておきます。