10/29付東京新聞より、
「小児・小児外科入院診療の看板を下ろし、高齢者向けの訪問看護や在宅診療の充実などに比重を移そうと考えている」
赤字が常態化している志木市立市民病院。市の財務担当者は、こう明かした。「このままでは立ちゆかないからです」。病院運営は岐路に立つ。
市は昨年度、一般会計から五億四千万円もの補助金を病院会計に投入、表面上の黒字を八年ぶりに確保した。本年度も二億九千万円の補助金を拠出する方針。推計では来年度以降も毎年一億五千万〜二億円程度の穴埋めがないと、やっていけないという。
医師不足も運営の足を引っ張る。昨年度は二人いた常勤の整形外科医が辞めたため、利益率の高い整形外科の入院診療ができなくなり一億五千万円の減収に。四十五床の専用ベッドを持って二十四時間救急を受け入れ、市民病院の看板医療である小児科も、常勤医は施設管理者を含め五十九〜六十四歳の三人だけ。週二回の当直もこなすハードな勤務で、市幹部は「このままでは医療事故が起きるのでは」と漏らした。
長沼明市長は今月から、周辺自治体の首長を回って頭を下げ、異例の財政支援要請を始めた。小児患者の大半が朝霞、新座、富士見、ふじみ野各市や三芳町などの周辺自治体で占められ、「志木市民の税金をよその人のために使うのはおかしい」という市民の声もあるからだ。
だが、どの自治体も財政難で色よい返事はない。市長は大学病院なども巡って小児科医の勧誘もしているが、見通しは不透明だ。小児科医の常勤三人は年度末で任期切れ。新たな医師が確保できなければ現状維持は困難で、看板医療も瀬戸際にある。
少子高齢化、長引く不況による経済収縮、国と地方の財政悪化−。限られた税収でどう行政サービスをするのか、大きな課題だ。神奈川県秦野市は昨年八月に出した「新行財政改革プラン」で、「これまでのように行政サービスを拡大しながら提供し続けることは困難」と宣言。千葉県習志野市も一昨年三月の「公共施設マネジメント白書」で、「老朽化した公共施設を全て更新するのはコストがかかりすぎる」と、市民に選択と集中の議論に参加するよう呼び掛けた。
各自治体がサービス拡大を競い合うように広まった子ども医療費無料化。首長選挙で公約に掲げられることも多く、県によると全六十三市町村で実施され、見直しを考えている自治体はない。だが、東京都世田谷区は、所得制限導入など見直しを検討し始めた。
長沼市長は市民病院の小児医療について、周辺自治体の財政支援や医師確保ができなければ、来春から入院受け入れを中止し、外来だけにする方針だ。小児医療の拠点が消えるというシナリオに、県は「ちょっと待ってもらえないか」と、焦りの色を濃くしている。 (上田融)
志木市のHPに経営状況があるので確認してみます。まず年度別事業収支(収益的)の推移です。
昨年度は二人いた常勤の整形外科医が辞めたため、利益率の高い整形外科の入院診療ができなくなり
引用した表をちょっと作り直してみると、
もちろん、そんな事がありえるわけもなく記事からですが、
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「小児・小児外科入院診療の看板を下ろし、高齢者向けの訪問看護や在宅診療の充実などに比重を移そうと考えている」
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市は昨年度、一般会計から五億四千万円もの補助金を病院会計に投入、表面上の黒字を八年ぶりに確保した。
* | H.18 | H.19 | H.20 | H.21 | H.22 |
収入(億円) | 15.1 | 15.8 | 17.7 | 18.5 | 22.6 |
繰入金(億円) | 1.9 | 2.0 | 1.9 | 3.4 | 8.0 |
繰入金比率(%) | 12.6 | 12.7 | 10.7 | 18.4 | 35.4 |
病院収入の1/3が一般会計からの繰入金状態では志木市も悲鳴をあげたくなるのはわかります。ちなみに平成6年から平成16年度の単年度収支も見つかったので掲示しておきます。
まず沿革を紹介しておきたいのですが、
当院は、昭和54年に標榜科3科(内科・外科・小児科)、ベッド数30床の救急市民病院として開院。身近な医療機関としての役割を果たしてきたが、救急患者の受け入れ態勢の確立と市民の医療需要に対応するため、昭和57年に増築工事に着手。CTスキャン等の医療機器の整備を図るとともに、病床も70床を増床し100床とした。
平成6年4月に関連大学病院を日本大学附属板橋病院から自治医科大学付属病院に変更。院長をはじめ、外科・内科のスタッフを招へいした。
平成7年4月、地域の医療ニーズに応えるため、新たに整形外科を標榜。平成8年には、朝霞地区 看護専門学校の実習施設の指定を受け、さらに平成10年1月には皮膚科を、平成15年7月には麻酔科を標榜するなど、自治体病院としての使命を果たしつつ、地域の中核病院としての役割を担っている。
病床数は100床である事がわかるのと自治医大関連病院である事がわかります。これは寄り道なんですが、
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院長をはじめ、外科・内科のスタッフを招へいした
もっとも自治医大は形態が特殊ですから、医局構成としてはそうならざるを得ないという側面もありそうには思います。自治医大の内情には詳しくないので寄り道はこれぐらいにして、100床のうち小児科病床は記事より、
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四十五床の専用ベッドを持って二十四時間救急を受け入れ、市民病院の看板医療である小児科
小児科は非常勤応援があるとしても、3人で年間入院1万2000人を支えているわけです。これがどれだけ大変かですが、入院は常勤医3人で主治医を受け持つと思いますから、単純計算で1人当たりの年間受け持ち数は4000人です。医師ならわかると思うのですが、毎日平均で11人分の退院サマリーを書かなければなりません。
・・・と一瞬思いましたが、この統計は入院実人数を示しているものではありません。だって平均在院日数が4日で病院のキャパシティを越えてしまいます。そうなると12000人は12000人日と考えるべきかと思います。小児科病床は16425人日の受け入れ能力がありますから、単純計算で73.0%の病床利用率になります。後述しますが平成22年度の病院全体の病床利用率が58.2%ですからそんなものでしょう。
小児科の平均在院日数がわかれば概数が出るのですが、さすがに見つかりません。それでも病院全体の平均在院日数は総務省の平成21年度病院経営分析比較表より、平成19年度9.9日。平成20年度10.4日、平成21年度9.5日である事がわかります。これは10日と概算しても良さそうなので、年間1200人ぐらいになります。ただ小児科はむしろ平均在院日数を引き下げる方に属していると考えられ、実際は1800〜1900人程度とした方が良さそうです。
それでも12000人日とすると平均で33人の小児科入院患者がいる事になります。常勤小児科医3人がこれを公平に分担して11人です。仮に年間入院実人数を1800人とすると、1日平均5人の入退院があるわけですから、やはり負担は半端じゃありません。これだけの業務をこなすには、イチにもニにも馬力が必要です。記事より、
常勤医は施設管理者を含め五十九〜六十四歳の三人だけ。週二回の当直もこなすハードな勤務で、市幹部は「このままでは医療事故が起きるのでは」と漏らした。
一番若手が59歳、また施設管理者とはズバリ院長です。院長は100床の小病院といえども公立病院長ですから、臨床以外の業務もあり、戦力としては半人前以下(通常は戦力外)と考えるのが普通です。他の小児科医と同じ負担で院長職もやっているのなら医療事故どころか、生命の危険を危惧した方が良さそうな気がします。もっとも院長が戦力外では残りの2人の負担は鰻上りになります。
ちなみに残り55床の平均入院数は25人となり、病床利用率は45%程度で、小児科医以外の7人の医師の平均受け持ち患者は3.6人ぐらいになります。
それにしても基本的な疑問は、志木市民病院が何故にこれだけ小児科に特化したのだろうです。市民のためと言う大義名分はあったでしょうが、小児科だけでは現在の医療経営が成り立たないのは常識です。ちなみにこの病院の周辺には、新座志木中央病院(私立)、朝霞台中央病院(私立)、国立埼玉病院(国立)、堀之内病院があるそうです。
ほいじゃ、志木市民病院が小児科から撤退すれば、残りの病院が受け皿になれるかと言えば、地元事情を知る者に言わせれば「到底無理」だそうです。この地区の小児科医療(入院)は志木市民病院におんぶに抱っこで、小児科以外の分野の充実に力を入れているようです。なんとなく頑張りすぎて貧乏くじを引かされたように見えないこともありません。
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長沼市長は市民病院の小児医療について、周辺自治体の財政支援や医師確保ができなければ、来春から入院受け入れを中止し、外来だけにする方針だ。小児医療の拠点が消えるというシナリオに、県は「ちょっと待ってもらえないか」と、焦りの色を濃くしている。
これはついでなんですが、平成16年度志木市立救急市民病院の概要 に、
救急24時間体制内科・外科または整形外科・小児科(3科3人当直体制)
整形外科が逃げ出した理由はこの辺にもありそうです。関西人なので志木市と言われても地理的イメージがさっぱり湧かないのですが、地図で見ると荒川を渡れば旧浦和市ですし、100床程度の小病院がここまで24時間救急に血道を挙げなければならない理由がよくわかりませんでした。情報を御存知の方は宜しくお願いします。
公立病院改革ガイドラインに基づく経営指標と言う作文があるのですが、