7/19付神戸新聞より、
調査は、全年齢層で唯一、死亡率が主要先進国の平均より高い1〜4歳児を対象に実施。05年と06年の人口動態統計の基になる厚労省の「死亡小票」が閲覧できたのは計2188人で、不慮の事故死は361人だった。そのうち病院で死亡した280人について、日本小児科学会が規模と機能別に3分類した病院群に、搬送先を当てはめた。
その結果、こども病院や大学病院など高度専門医療を提供する「中核病院」への搬送は19.3%(54人)。10人以上の小児科医が所属し、24時間急に対応する「地域小児科センター」は50.4%(141人)だった。一方、どちらにも当てはまらない「小規模病院」に30.4%(85人)が運び込まれていた。
また交通事故死した126人のうち、手術を受けたのは8.7%(11人)にとどまっていた。
藤村総長は「最重症の子どもは、全員が地域小児科センター以上の規模と機能がある病院に運ばれるべき」と指摘する。
ただ、小児科医がいる全国の病院のうち、当直体制を組める7人以上が勤務する病院は16%(171施設)で、兵庫県内は07年9月の調査で9.9%(11施設)。小児科医2人以下の小規模病院が全国の半数を占める。
藤村総長は「広く浅くという今の小児医療体制では、助かる命も救えない。医師や病院の集約化と重点化が不可欠」と強調する。
どこかで読んだような話と思えばちょうど1年前に取り上げた超急性期を担う「小児救命救急センター(仮称)」の延長線上のお話のようです。あの話の出所は「重篤な小児患者に対する救急医療体制の検討会」なる会議の中間取りまとめでしたが、1年経って最終答申にでも進化したのかもしれません。
記事からデータを拾いたいのですが、
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05年と06年の人口動態統計の基になる厚労省の「死亡小票」が閲覧できたのは計2188人で、不慮の事故死は361人だった。そのうち病院で死亡した280人
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1歳児:439人
2歳児:367人
3歳児:198人
4歳児:173人
分類 | 数 |
交通事故 | 70 |
不慮の溺死及び溺水 | 51 |
その他の不慮の窒息 | 38 |
煙、火及び火災への曝露 | 21 |
転倒・転落 | 15 |
生物によらない機械的な力への曝露 | 2 |
自然の力への曝露 | 2 |
有害物質による不慮の中毒及び有害物質への曝露 | 2 |
熱及び高温物質との接触 | 1 |
その他及び詳細不明の要因への不慮の曝露 | 5 |
合計 | 207 |
この年間200人ほどの1〜4歳への不慮の事故に対する治療が不十分であるとの指摘です。全数調査では無いので不慮の事故で診療を受けた医療機関の分類と2006年データを照らし合わせてみると、
搬送先病院 | 数 |
中核病院 | 40.0 |
地域小児科センター | 104.3 |
小規模病院 | 62.9 |
ここで記事からですが、
藤村総長は「最重症の子どもは、全員が地域小児科センター以上の規模と機能がある病院に運ばれるべき」と指摘する。
藤村総長が問題視する人数は年間60人程度である事がわかります。私も小児科医ですから60人であっても救える命は救いたいですが、ごく素直に物理的に可能かの疑問は出てきます。「地域小児科センター認定制度」(案)についてにモデル人数が書かれています。
分類 | 病床数 | 医師数 |
入院 | ||
長期 | 8 | 1 |
急性期 | 24 | 6 |
二次救急 | 12 | 4 |
小計 | 44 | 11 |
NICU | 9 | 2 |
GCU | 12 | 2 |
小計 | 21 | 4 |
入院合計 | 65 | 15 |
外来 | ||
小児保健・在宅医療 | * | 1 |
精神・発達 | * | 1 |
外来合計 | * | 2 |
全合計 | 65 | 17 |
これはあくまでもモデルであって、医療圏の小児人口や他の医療機関との連携により、様々な形態を提示されています。さて問題は小児科医数になります。これがどれほど存在するかになります。存在する小児科医数により設置できる地域医療センター数は制約されます。2006年度の厚労省資料で確認できるのですが、
小児科医数 | 数 |
病院 | 8228 |
診療所 | 6472 |
合計 | 14700 |
とりあえず大学病院が80あり、こども病院は29あります。これらは中核病院ですから仮に20人づつ配置すれば2180人になります。残りは6048人です。地域医療センターのモデルはありますが、ここは10人としたら約600ヶ所、もうちょっと絞っても500ヶ所作る事が可能となります。では現在のところ、小児科のある病院数はどれぐらいかですが、ちょっと古くて2005年資料ですが、
医療機関は、一般病院数8,200余のうち小児科は3,528
そうなるとおおよそ現在の1/6ぐらいに集約が必要になります。こうする事を
藤村総長は「広く浅くという今の小児医療体制では、助かる命も救えない。医師や病院の集約化と重点化が不可欠」と強調する。
現実問題として3500ヶ所を600ヶ所に集約してしまうのは相当な力量が必要です。これでは概算として粗過ぎるのでもう少しだけ細かい試算をやって見ます。小児科と言っても新生児科ははっきり言って別物です。別物とは勤務体系を分けて考えて方が良いと言う意味で別物です。そこで周産期センターがどれほどあるかを確認してみると、
- 総合周産期母子医療センター78施設(46都道府県) 2010.4.1現在
- 地域周産期母子医療センター342施設(40都道府県) 2009.4.1 現在
まだ足りないの意見はここでは置いておいて、地域周産期医療センターは、どうも地域小児科センターにモデルからして、かなり複合されると考えても良さそうです。そうでないところもあるでしょうが、試算ですからここは複合されるとして計算します。総合周産期医療センターは完全に別立てと考えます。総合周産期の場合は、建物は中核病院と同じでも別立てと考える事にします。言い出したら母子でないNICUもあるのですが面倒なので計算には入れないことにします。
総合周産期に何名の新生児科医が必要なのかは色んな見方がありますが、今日は7名+αと考えます。地域周産期は342ヶ所あるのですが、これも今日の計算では地域小児科センターに複合されるとします。その地域小児科センターですが、二次医療圏348ヶ所に1ヵ所づつ配置すると考えれば、その殆んどは上記に示した17人モデルになることになります。
中核病院は上で20人としましたが、総合周産期を切り離して考えるとすれば、もう少し減らして15人と考える事にします。中核病院は大学病院やこども病院以外にもあるとは思いますが、今日もこれは109ヶ所として計算します。その他の病院は2名とします。この仮定で計算してみると、
分類 | 1ヵ所あたり 医師数 |
病院数 | 必要医師数 |
中核病院 | 15人 | 109ヶ所 | 1635人 |
地域小児科センター | 17人 | 348ヶ所 | 5916人 |
総合周産期 | 7人 | 78ヶ所 | 546人 |
その他 | 2人 | 150ヶ所 | 300人 |
合計 | * | 685ヶ所 | 8397人 |
う〜ん、やっぱり700ヶ所足らずの約1/5に集約されます。ここで問題は2つで、集約化が構想通り進んだとして、
- この集約で年間60人の救命率が果たして上るか
- 「広く浅く」を解消して、新たな死亡者が発生するリスクはどれほどあるか
一方で勤務する小児科医はメリットは高そうな気はします。とにもかくにもこれだけ数がいれば、労働環境は今よりは改善しそうな気がします。この辺は「ここしかない」状態で、どれほどの患者が押し寄せるかで変わる部分もあるのですが、今朝の段階ではこれはなんとも言えません。こうやって小児科が集約されるとして、その次に考えられる問題は、
- 大規模小児科の不採算性
- 通院・入院距離が遠くなる事への患者からの不満
おそらく藤林総長の真意は不慮の事故死の減少ではなく、これを大義名分として集約化のテコにしようとされているのだと考えています。個人的には集約化に賛成ですが、どこかで60人が独り歩きしない事だけを憂慮しています。60人も含めて1〜4歳の死亡率の低下を大義名分にしすぎると、今度はコンビニ診療促進につながる懸念だけはあります。
おそらくコンビニ診療対策のために、わざわざ年間60人対象の不慮の事故死のクローズアップ戦略にしているのでしょうが、どこかでゼロリスクへの呪縛が生じると集約化しても負担軽減につながらない可能性だけは残ります。もっともそんな懸念より、どこかで弾みをつけて「とりあえず集約化してしまう」の方が現時点では重要とは言えます。
この計画は時々コメントを頂いている江原朗氏が詳しいのですが、私が試算したような集約モデルを考えておられるのか、それとももう少し違う最終構想をお持ちなのか聞いておけば良かったと後悔しています。もしなんですが、小児科の集約がこの計画に従って進行すれば、産科の集約もかなり連動しそうな気はします。いずれにしても、どこまで進むのか注目しておきたいところです。