志木市民病院・経営分析編

tadano-ry様をレギュラーコメンテーターに抱えるこのブログなので、専門的なものではありません。私が目に付いたデータの整理編ぐらいに受け取ってもらえれば幸いです。嬉しい事に志木市は市民病院に関するかなり豊富なデータを公開されており、参考にしたのは、

ここから拾い集めた情報です。とりあえず何がわかったかですが、2001年度から2010年度までの年度別事業収支と、診療科ごとの病床利用率です。病床利用率は100床病院なので「平均入院患者数 = 病床利用率」になるので計算が助かりました。とりあえず病床利用率の表を示します。

年度 内科 外科 小児科 整形外科 麻酔科 病院
2001 24.2 23.9 24.7 15.4 0.0 88.2
2002 26.6 23.0 21.9 13.3 0.0 84.8
2003 28.4 14.0 24.0 14.0 0.2 80.5
2004 28.7 13.1 22.5 13.6 0.2 78.1
2005 21.9 9.1 26.5 13.2 0.3 70.8
2006 18.6 6.1 24.3 12.3 0.4 61.6
2007 18.4 10.5 23.7 13.6 0.4 66.5
2008 17.7 11.0 30.7 11.0 0.1 70.4
2009 14.8 9.8 31.0 9.7 0.0 65.3
2010 13.6 8.1 33.3 3.2 0.0 58.2

これをグラフにしたのが、
この病院は10年前には90%近い病床利用率があった事がわかります。また10年前は病床利用は内科、外科、小児科がほぼ同じぐらいであった事も確認できます。ところが2003年から外科が、2005年から内科の病床利用数が低下している事がもまた確認できます。何があったかは不明ですが、内科も外科も以後は長期低落傾向を現在に至るまで続けています。整形外科も2008年から低下傾向を示し、2010年度には常勤医不在となっているのは昨日お伝えした通りです。 では年度別事業収支がどうなっているかですが、
年度 支出 収入 病院収入 繰入金 繰入金比率 単年度収支
2001 1627389072 1735009755 1551067755 183942000 10.6 107620683
2002 1711524969 1743658325 1527992325 215666000 12.4 32133356
2003 1737718323 1676202076 1492476076 183726000 11.0 -61516247
2004 1710567090 1682020493 1502117493 179903000 10.7 -28546597
2005 1690864000 1683743000 1467137000 216606000 12.9 -7121000
2006 1558527522 1526388485 1364625522 193902000 12.4 -32139037
2007 1646471000 1579496000 1448616000 197855000 12.0 -66975000
2008 1861851000 1772519000 1587446000 185073000 10.4 -89332000
2009 2048689000 1850748000 1509361000 341387000 18.4 -197941000
2010 2070652537 2261677507 1463348507 798329000 35.3 191024970

ここで「病院収入」としているのは、収入のうち繰入金を除いた金額です。繰入金比率も2008年度までは、まあ妥当な比率であるとしても良さそうで、急に増えてきたのは2009年度からです。これもグラフにしてみると、
おおよそですが2006年まではほぼトントンとぐらいに見えます。黒字経営まで後一歩みたいな感じですが、2007年から赤字幅が確実に増えています。支出の増加に収入が付いて行けていない感じです。これが2009年になると病院収入が収入や支出に連動しなくなります。繰入金が増えた時期に一致しています。ジリ貧がドカ貧に変わったと表現すれば良いでしょうか。 この病院収入が何に連動しているかですが、あれこれ当てはめてみると病床利用率とほぼ連動します。グラフで示します。
2006年までの病床利用率の低下は内科と外科の減少が主因です。2007〜2008年の病床利用率の増加は、2007年は外科入院の一時的な増加であり、2008年は小児科入院の増加です。この2007〜2008年の病床利用率の増加には病院収入も綺麗に連動しています。 2009年から再び病床利用率が下がり、病院収入も下がるのですが、2008年から支出の増加が著明になっています。支出は病院収入に較べると病床利用率との連動性は劣りますが、それでもある程度近いところで動いています。それが2008年から突如と言う感じで病床利用率、病院収入に関係なく伸びています。何がこの病院の支出を押し上げたかは興味の湧くところです。 ここは単純に2007年度から20011年度までの支出項目をチェックしてみます。
支出項目 2007 2008 2009 2010 2010-2007 2010/2007
医業費用 1637626 1813121 1999256 2032724 395098 1.24
給与費 1053339 1186799 1341023 1391680 338341 1.32
材料費 184895 210893 208479 156369 -28526 0.85
経費 337791 359973 382709 393394 55600 1.16
減価償却 57652 50034 53677 86427 28775 1.5
資産減耗費 1146 1689 9830 1870 724 1.63
研究研修費 2803 3740 3538 2985 182 1.06
医業外費用 78432 46296 47137 36346 -42086 0.46
支払い利息及び企業債取扱諸費 10462 4368 6746 6904 -3558 0.66
患者外給食材料費 2509 3157 2880 2950 441 1.18
患者外寝具料費 293 328 124 124 -169 0.42
雑支出 25319 38443 37387 26367 1048 1.04
特別損失 5262 2427 2296 1582 -3690 0.30
合計 1646471 1861851 2048689 2070652 424181 1.26

この表だけの分析ですが、
  1. 増えた支出は4億4181万3000円である
  2. 増えた支出のうち3億9509万8000円は医業費用である
  3. 増えた医業費用のうち3億3834万1000円は給与費である
ここの病院は

年月 動き
2005年8月 志木市立救急市民病院ルネッサンス・プロジェクト委員会設置
2006年7月 委員会最終報告
2007年3月 市民病院再生計画
2009年3月 市民病院再生計画(改訂版)


2005年時点で市民病院の問題に取り組んだのは後から見ても適切な時期だったと見れます。内容については興味のある方は読んでもらうと良いのですが、対策の中に定番の医師や看護師の「確保」が挙げられています。もちろん病院ですから医療職がいないと箱だけでは仕事になりませんから、足りなければ「集めよう」にするのは対策として当然です。

これが確固たるソースがないのですが、職員の待遇改善、あからさまに言うと給与増が行われたんじゃないかと考えています。近隣にはライバル病院がひしめいていますから、とにもかくにも給与を近隣並みに引き上げておかないと獲得競争も何も始まらないです。誰だってそう考えると思います。そうなったんじゃないかの傍証は、総務省平成21年度病院経営分析比較表だけなんですが、

2009年度平均給与月額
区分 当該病院 全国平均
医師 1525892 1355460
看護師 497256 471942
准看護師 555672 541001
事務職員 506848 551145
医療技術員 523691 511917
その他職員 382617 455425
全職員 622713 585870


推測ですが2007年度以前ではもっと低かったんじゃないかと考えています。これを職員獲得競争に勝ち抜くために、ここまで給与をアップしたため支出が増加し、一方で病床利用率の低下による病院収入の減少が重なり、ダブルパンチで2010年度のピンチになったみたいな流れです。もう一つの状況証拠として、例の7:1看護は2006年度に導入されたはずで。

この病院がいつ7:1を取得したか確認できませんでしたが、2009年度の総務省資料では7:1看護となっています。7:1看護は前に取り上げてコメ欄が算数合戦になってしまったのですが、経営上はメリットが非常に高いものです。この7:1体制のための職員待遇改善も給費増加の一因になっているような気がしないでもありません。


私が資料の数字を漁ってみる限りはこんな感じです。誤解無い様に言ってきますが、職員の待遇改善自体は悪いとは考えていません。もしやってなければ、職員スカスカ病院になる危険性もあったとは言えるからです。これで病床が2001年時点の様に回転していたら経営上の病院再生は可能であったかもしれません。ところが病院の診療成績自体が2009年から再び悪化したのは再生計画の想定外であったと考えるぐらいです。