読売記者の質問

記者会見と言っても、私は当たり前ですが実際に参加した事はなく、時にYouTubeで見る程度のものです。つうか、殆んどの方はそうだと思います。もう少し言えばYouTubeとかその他の動画で紹介される事により「こんなものだ」とやっと実態が判りかけているものだと考えています。

記者会見と言っても内容はピンキリのはずです。非常に落ち着いた雰囲気でのものもあれば、怒号飛び交う人民裁判みたいなものもあります。前に取り上げた事のある、一時期の東電記者会見は物凄いものであったと聞いています。


さて今日取り上げたいのは10/20の小沢氏の記者会見です。これが少々話題になっているようです。もっと早く取り上げたかったのですが、私の手の方が回らなくて、遅くなりましたが見てみます。実際の質問風景です。質問しているのは読売新聞社会部次長 恒次徹記者です。

聞き取れる限りで文字を起こしてみます。

発言者 発言内容
恒次 読売新聞の恒次と申します。エート、あの〜、陸山会の今回の問題が起きてから、(えっ by 小沢氏))陸山会の今回の問題が起きてから、エート、先日の意見陳述もそうでしたけですけど、エート、政治資金規正法違反に関してですねぇ、これが脱税とか汚職を伴わない場合は、実質的犯罪とは言えないんだ、という考え方を再三述べてらっしゃると思うんですが、
小沢 そう言ってません。(えっ by 恒次記者)そう言ってません。
恒次 あの、そういう風に受け取れることをおっしゃってると思うんですが。
小沢 そんなことありません。(えっ by 恒次記者)記者会見、ちゃんと全部見ましたから。
恒次 あの、そういう風に一貫して述べられていると思うんですが。
小沢 違いますよ。
恒次 あの〜、2007年のですねぇ、あの〜、2月に事務所費の問題が問題になりましてですねぇ、、小沢さんが会見を開かれた時に、政治資金の問題についてすべてオープンにして、国民が判断することが大事なんです、という風に言われていて、私もその通りだなと思った記憶があるのですが、今回の問題が起きてからの小沢さんの、その〜、発言を見ていると、その時の考え方を修正されたのかなという風に思わざるを得ないような表現をされている。実質的犯罪じゃないとか、形式的なミスであるとかですねぇ、そういう風に言われているんですが、あの〜、2007年の会見の時におっしゃったような趣旨で言えばですね、え〜、政治資金収支報告書に誤りがあって、でその〜、それを国民の側が判断することが大事だという風におっしゃっているわけですから、その判断を誤らせるようなですねぇ、そういう虚偽記入があった場合は、もし汚職とか横領とか脱税とかいうことがなくても、これは実質的な犯罪と言えるんじゃないでしょうか。その点を、ちょっとお考えをお聞かせいただけたらと思います。
小沢 ちょっとあの、あなたの意見がちょっと違うんじゃないかと思っております。私は実質、あの〜、犯罪じゃないという言い方をしているわけではなくて、まあ犯罪って言ったって、軽犯罪だって犯罪だから、そういう言い方をすれば、あの、ちょっとでも法に触れれらやぁ、犯罪だということになりますが。いわゆる実質的犯罪が、あ〜、わかります?実質的と形式的と。実質的犯罪が伴わない場合は、今まですべて収支報告書の修正ですまされてきたと、いう風に申し上げてきた。



それは、法律学者でも誰でも聞いて下さい。実質犯と形式犯と2つあって、そういう意味の事を僕は言っていると言う事です。
司会 なるべく簡潔にお願いしたい・・・一つなので・・・この辺で区切らせて頂きますか、すみません。いや、あの(やや不明瞭でした)
恒次 身振り手振りで、何か話していますがマイクは拾っていません。
小沢 それはあなたの考えであって。
司会 すいません。終えていただけますでしょうか。
恒次 身振り手振りで、何か話していますがマイクは拾っていません。
小沢 有価証券報告書の虚偽記入という、その法律は分かりませんが。
司会 これで切らせて頂いて宜しいですか。お話の途中、申し訳ありませんけれど・・・
小沢 実際には、みなさん、修正報告で。いっぱいあるでしょ。今でも。間違ったと言われるのは。私どもは、あの虚偽記載しているとは思っていないんですよ。だけど、例えば仮にそれが明白に虚偽記載、いわゆる間違った報告書だったと、計算であれ、書く場所であれ、何であれ、その時はみんな修正報告で全部今までは通っているわけです。
恒次 (聞こえません)
小沢 そんなことありますよ。
恒次 (聞こえません)
小沢 あなたの考え方。僕の考え方を聞いているんでしょ。
司会 そろそろほかの質問に移らせていただいてもよろしいでしょうか。


恒次記者の声が途中からマイクで拾われなくなっているのですが、10/27付読売新聞に、聞こえなかった部分のやり取りが掲載されています。司会者が恒次記者の次の質問を御遠慮をお願いした部分から後の部分を引用します。

恒次…ちょっと対話したいものですから。
(「対話じゃねえよ」の声)

 小沢…それはあなたの考えであって。

 司会者…すいません。終えていただけますでしょうか。

 恒次…例えば、ディスクロージャー違反という犯罪の類型の中に、(上杉…あんたルール違反しているんだよ)例えば有価証券報告書の虚偽記入というのがございますよね。俗に言う粉飾決算っていう。

 小沢…有価証券報告書の虚偽記入という、その法律は分かりませんが。

 恒次…それは実質的犯罪じゃないんですか。(上杉…ちょっとあなたルール守んなよ)

 司会者…お話の途中申し訳ありませんが。

 小沢…みなさん、修正報告で。いっぱいあるでしょ。今でも。間違ったと言われるのは。私どもは虚偽記載しているとは思っていないんですよ。だけど、例えば仮にそれが明白に虚偽記載、いわゆる間違った報告書だったと、計算であれ、書く場所であれ、何であれ、その時はみんな修正報告で全部今までは通っているわけです。

 恒次…そんなことないですよ。

 小沢…そんなことありますよ。

 恒次…修正報告だけで通ってない場合は多々ありますよ。(上杉…記者クラブのルール守っているんだから、守れよ)

 小沢…あなたの考え方。僕の考え方を聞いているんでしょ。

 司会者…そろそろほかの質問に移らせていただいてもよろしいでしょうか。

読売が「そう言った」としているのですから、「たぶんそうだった」と解釈します。


恒次記者は何を聞きたかったか

これが簡単そうで手ごわいものでした。何回か読み直して「たぶん」そうじゃないかとぐらいの理解に留まっている事を白状しておきます。質問の大前提は

    2007年のですねぇ、あの〜、2月に事務所費の問題が問題になりましてですねぇ、、小沢さんが会見を開かれた時に、政治資金の問題についてすべてオープンにして、国民が判断することが大事なんです、という風に言われていて
2007年2月の話が何なのか特定できなかったのですが、なんとなく週刊現代陸山会の不動産取得に関連しての錬金術を記事にしたのに対する損害賠償訴訟に関連したものと見ています。同時期に政策秘書公職選挙法違反容疑も起こっていますが、事務所費の問題ですから、陸山会の不動産取得に関連する方が可能性が高いと考えます。

指し示す事件が何であったかはともかく、恒次記者が大前提にしたのはたぶん政治資金問題は、

    国民が判断する
この点の様に考えます。かなり強引な解釈ですが、そう考えないと後の質問につながりません。そう前提しておいて、現在刑事訴訟において争われている陸山会事件を持ち出しています。この訴訟の一つの焦点は、帳簿に記載されている日時と金の動きに相違があった点と理解しています。

陸山会事件について詳述する気はありませんので、今日は大雑把に解釈しますが、帳簿に記載されている事を額面通りに受け取れば何らかの不正操作の可能性が疑われるです。そのために小沢氏側は「形式的ミス」による記載ミスであると主張しているわけです。これの審議については司法に委ねられていますから私は論評しません。

恒次記者もその点を質問しているのではなさそうです。陸山会事件が有罪か無罪かを聞いているのではなく、形式的な記載ミスをした時点で既に犯罪であるんじゃないかを質問していると私は解釈します。そこを聞く根拠は、小沢氏の2007年2月に政治資金問題に関する見解と言うわけです。どうもなんですが恒次記者は、

    2007年2月に政治資金問題はたとえ記載ミスであっても犯罪であると小沢氏が言っていたにも関らず、今回は記載ミス程度は犯罪で無いと主張するのはおかしいんじゃないか?
ここも多分なんですが、恒次記者の「国民の判断」の解釈が入っていると考えます。恒次記者が考える国民の判断は、小沢氏の記載ミスの主張を国民がそう思っていないとしていると見ます。もう少し言えば、小沢氏の主張は検察審議会(つまり国民代表)が「やっぱり怪しい」としたのだから、もうこの時点で「小沢氏は犯罪行為を犯していると認めるべきだ」でもそんなに間違いではないと私は解釈します。

なんとなく自信が無いのですが、他に御意見・御解釈があればよろしくお願いします。


小沢氏の回答

小沢氏はもう訴訟に入っていますから、一貫した回答を行なっています。記載ミスは言い様によっては虚偽記載と言えるかもしれないが、故意や悪意で無い記載ミスは訂正が許されるものであり、前例だってテンコモリあるです。陸山会事件の記載ミスが故意や悪意かどうかは司法が判断中であり、小沢氏としては形式的な記載ミスに過ぎないと考える立場を取っているです。

読売記事にあるディスクロージャー違反の類型である有価証券報告書の虚偽記入が、政治資金規正法違反と同列にできるものかについての質問に対しても、「わしゃ知らん」と答えています。本当に小沢氏が知っているかどうかは別にして、この場面で「わしゃ知らん」としてもさして不自然とは言えません。

もう一つですが、恒次記者が大前提とした「国民の判断」も見解の相違が出ていると思います、恒次記者は世論としての判断が「国民の判断」としているようですが、小沢氏は司法判断も「国民の判断」であると取っている様に見えます。記者会見の恒次記者の「国民の判断」には解説がなく、小沢氏は「国民の判断 = 世論の判断」についてはあっさりスルーしています。。


質問と回答の感想

10/27付読売新聞には、

恒次記者の話「会見者が質問をはぐらかした場合に、そのことを指摘できなければ、追及にならない。司会の指示を振り切らなければならないことはある。ルール違反と過剰に騒ぐことは、会見者を追及から守ることにしかならない。ジャーナリストがなぜ、そのようなことをするのか理解に苦しむ」

非常に簡単に恒次記者の質問の全容をまとめるのなら、

  1. 小沢氏は政治資金問題は2007年2月に「国民の判断 = 世論の判断」であると明言したいた
  2. 今回は世論(国民の判断)が記載ミスの存在が犯罪であるとしている
  3. 小沢氏は世論(国民の判断)が犯罪であると認めている記載ミスを問題ないと主張している
  4. 前言と今回の発言が矛盾している
追及するのなら矛盾点をあぶりださないといけません。矛盾点の要は2007年2月の小沢氏の発言です。ここをしっかり指摘することが追及になるかと考えます。事実を挙げて「国民の判断 = 世論の判断」と小沢氏が明言していた点を小沢氏に認めさせれば、後の小沢氏の回答は非常に苦しくなると言うわけです。これも10/27付読売新聞には、

元代表自身、07年2月の記者会見で、「政治資金に関して大事な点はディスクロージャー。中身をすべてオープンにするのが大事で、違法な問題は司直の手になるし、国民自身が判断する」と述べていた。

前後に小沢氏がどれだけの発言を重ねていたかは不明ですが、後日にポイントとして切り出してもこの程度です。ここから司直の手が下った時点で即辞職云々と取る事は不可能ではありませんが、否定することもまた容易です。強弁すればたとえ司直により有罪とされても、小沢氏に聞こえる国民の判断が許せば政治的には無問題とであるとも開き直れます。

小沢氏の発言の矛盾点の肝心の前提がこの程度であるがために、小沢氏から、

    あなたの考え方。僕の考え方を聞いているんでしょ。
アッサリ切って捨てられるわけです。2007年2月発言を恒次記者のように受け取るのは自由だが、小沢氏自身の見解はここで回答した通りであると交わされてしまっています。どうにもなんですが、質問全体の力点の置き方を誤っているような気がします。

言ったら悪いですが正面から「記載ミス = 即犯罪」で質問したところで、「ハイ、そうです」なんて回答が来るわけはありません。小沢氏が行った回答は当然予想されるものであり、そういう回答が来た時に切り返す質問が重要なはずです。そのためには「国民の判断 = 世論の判断」発言であるとしなければなりません。

どうもなんですが、恒次記者も2007年2月の小沢氏発言を「国民の判断 = 世論の判断」と断定して認めさせるには無理な点があると自覚し、故意に周知の事と前提して逃げている様に思います。ここに強力な材料をぶつければ、小沢氏とて回答に窮した可能性もありますが、それが出来ないので単なる水掛け論になってしまったと言えます。

強力な追及材料がない傍証としては、二の矢が有価証券報告書の虚偽記入ですから、この後にどんなに頑張っても発言矛盾の小沢氏回答が得られる展開とは思いにくいところがあります。


ルールとマナーの観点

これも10/27付読売新聞ですが、

自由報道協会の会見では、司会者が「1人1問で」と説明した。ただし同協会によると、2問目を発することを禁じたわけではないという。質問の意図が相手に伝わらなかったり、きちんと答えなかったりした場合には、会見自体が意味をなさなくなるためだ。同協会が抗議の理由に挙げるのは、恒次記者が質問を重ねたことではなく、司会者の指示に従わず、元代表の発言を遮ったことだとしている。

公式見解の応酬ですから真意が見え難いのですが、記者会見は自分の質問の取材だけではなく、他社の質問も取材対象になります。記者会見を取材している目的は、記者会見から記事にするネタを引き出す事ですから、「1人1問で」のルールもある意味臨機応変の部分はあると考えています。非常に鋭い点を突いていると感じれば二の矢、三の矢を自然に認めると思います。他の記者だって鋭い追及の回答を聞きたいですからね。

逆に平凡極まるあくびの出そうな質問であれば「1人1問で」は厳守されるかと思います。記者会見の時間は無制限デスマッチではありませんから、無駄な時間がもったいないです。それを判定するのは出席している記者になると考えます。同業者であり、自称とは言えプロですからね。だから、

    同協会が抗議の理由に挙げるのは、恒次記者が質問を重ねたことではなく、司会者の指示に従わず、元代表の発言を遮ったことだとしている。
ここについては、恒次記者の質問は「1人1問で」レベルを厳守すべき内容と判断されたのだと思います。そこまで言えば角が立つので、質問ルールを持ち出したと私は推測します。いちおう大読売新聞の社会部次長ですから、頭ごなしに「あんたの質問は時間の無駄」とするのは控えられたぐらいの解釈です。あれだけ後でもめたのは、恒次記者が「オレは凄い質問をしていたんだ」と確信されていたからと考えれば話の筋が通りそうな気がします。