札幌 2歳女児 硬膜下血腫

どうも記事を読んでも良く分からないところが多いのですが、とりあえず情報源として関連記事を並べてみます。

3/6付時事通信

11病院が受け入れ拒否=硬膜下血腫の2歳女児、収容まで67分−札幌市

 札幌市で昨年、頭を強く打って意識不明となった女児(2)が、11の医療機関に受け入れを拒否され、病院に収容されるまで1時間以上かかっていたことが6日、分かった。市消防局は「夜間で、小児科と脳外科が複合した難しいケースだった」としており、「専門外」や「処置困難」などを理由に拒否が相次いだという。

 市消防局によると、昨年11月の午後8時台に119番があり、急性硬膜下血腫の女児を救急車で搬送。受け入れを断る医療機関が相次ぎ、延べ13回目の問い合わせで、いったんは拒否した救命救急センターに収容されたが、最初の通報から67分が経過していた。

3/6付Asahi.com北海道

札幌 救急搬送 13カ所たらい回しも

■昨年の救急搬送

 札幌市は5日の市議会予算特別委員会で、昨年1年間に同市内で救急車が運んだ全治3週間以上の重症患者2785人(転院搬送を除く)のうち25人が3カ所以上の病院に受け入れを断られ、最多では13カ所も「たらい回し」になっていた人がいたと報告した。

 同市消防局によると、昨年1年間に救急搬送された人は6万2789人で、うち重症患者は3367人。この中の転院搬送を除く2785人では、9割の2511人が最初の病院に収容されたが、4カ所目以降でようやく受け入れられた人が25人いた。

 11月には頭部を強打したとみられる市内の女児(2)が13カ所目にようやく受け入れられた例があった。119番通報の3分後に救急車が到着し、硬膜下血腫で意識を失っていた。5カ所目の小児科が引き受けたものの、容体が悪化。脳神経外科に転送しようとしたが、小児科がなかったり当直医が別の患者の処置中だったりして、入院まで1時間4分かかった。幸い入院後は快方に向かったという。

 同市では一昨年11月、早産の未熟児が市内7病院で受け入れを断られ、8カ所目の病院で亡くなった。

3/6付MSN産経ニュース

札幌で11病院が受け入れ拒否 2歳女児救急搬送

 頭を負傷した札幌市の女児(2)が昨年11月、「専門外」や「他の患者の処置中」を理由に11病院で救急搬送の受け入れを拒否されたほか1病院では対応できず、消防への通報から67分後に、13カ所目の総合病院でようやく受け入れられていたことが6日、分かった。

 市消防局によると、女児は自宅で頭を打ったことによるとみられる硬膜下血腫で意識が朦朧(もうろう)とした状態に陥った。5カ所目の小児科医療機関がいったん受け入れを決めたが、容体が悪化し断念。最終的に1度受け入れを断った総合病院で手当てを受けた。搬送後の女児の容体は不明という。

 札幌市では昨年、病院間の搬送を除く全治3週間以上の患者2785人のうち4人が受け入れまでに60分以上かかり、25人が3カ所以上の医療機関に断られていた。

3/7付タブロイド紙東京朝刊

救急搬送:重体女児、11病院拒否 収容まで1時間以上−−札幌で昨年

 札幌市内の女児(2)が昨年11月、硬膜下血腫による意識不明で救急車で運ばれた際、11カ所の病院に受け入れを断られた結果、病院収容まで1時間以上かかっていたことが分かった。市消防局は「女児の症状は脳外科と小児科の複合した難しいケース。病院側の事情があったのではないか」と話している。

 市消防局などによると、昨年11月夜、119番を受けた救急隊が駆け付けると、女児が自宅で下半身をけいれんさせた状態で倒れ、意識不明の重体だった。

 救急隊は電話で受け入れ先の病院を探したが、最初の小児科は「初診で診られない」と断られ、別の小児科は脳疾患の疑いがあるせいか「専門外」とされた。5カ所目の小児科の当番病院で、いったん「受け入れ可能」となったが搬送途中で容体が悪化。「脳外科は専門外」と断られた。市消防局指令情報センターも、生命の危険性がある患者を受け入れる3次病院を探したが、4病院すべてに断られた。最終的に、センターが再び3次病院の受け入れ状況を確認し、いったんは断った市内の総合病院に収容された。

 通報から女児の収容までに1時間7分かかったほか、市消防局の照会は計13回に上った。【内藤陽】

3/6付北海道新聞

札幌の女児、搬送遅れ病状悪化 11カ所で受け入れ拒否

 札幌市内の女児(2つ)が昨年十一月、急性硬膜下血腫で意識不明となって救急搬送されたが、救命救急センターである三総合病院を含む十一の医療機関で受け入れを断られ、病院到着まで一時間以上かかり、症状が悪化していたことが五日、同市議会で明らかになった。市消防局は「脳外科と小児科が複合した難しいケースだったため受け入れ拒否が相次いだ」としている。

 消防局によると、午後八時台に自宅で女児が倒れたと119番通報があった。救急車が駆けつけたところ、下半身がけいれんし、意識不明の重体だった。

 救急隊は症状から脳疾患系の病気の可能性もあると判断。電話で受け入れ先を探したが、小児科の医療機関は「当番医に行ってほしい」と要請、脳神経外科医療機関は「小児科は無理」などと受け入れを断った。

 ようやく五カ所目の小児科医療機関に向け、搬送されたが、瞳孔の左右の大きさが変わるなど容体が悪化。同機関で対応できなかった。その後、救命救急センターである三総合病院にも「処置困難」などと断られた。最終的にはいったんは断った救命救急センターが受け入れたが、119番通報から搬送完了まで六十七分を要した。

 女児は病院到着時点では生存していたが、市消防局はその後の容体を把握していないとしている。

 各病院が受け入れを断った理由は「専門外」が五医療機関、「処置困難」が二機関、「ほかの患者の処置中」が二機関、「満床のため」「初診のため」が各一機関だった。

日テレもありますがこれは略します。「拒否」の字ばかりが躍るのですが、2歳女児の実際の搬送の様子がどうだったのかは、11ヶ所の医療機関が受け入れる事ができず、適切な搬送先に運ばれるまで1時間7分かかった以上のことは良く分からない内容です。これだけを手がかりに全容の推測をするのははっきり言って無理なのですが、ブログですから憶測の翼も広げてやってみます。

とりあえず各社の情報源ですが、これはAsahi.comが分かりやすいのですが、

札幌市は5日の市議会予算特別委員会で

市議会で消防局が昨年の救急搬送に対して答弁した内容と考えて良いかと思われます。各社の記事のスタンスがが違うのですが、これもAsahi.comが一番分かりやすいのですが、

昨年1年間に同市内で救急車が運んだ全治3週間以上の重症患者2785人(転院搬送を除く)のうち25人が3カ所以上の病院に受け入れを断られ、最多では13カ所も「たらい回し」になっていた人がいたと報告した。

 同市消防局によると、昨年1年間に救急搬送された人は6万2789人で、うち重症患者は3367人。この中の転院搬送を除く2785人では、9割の2511人が最初の病院に収容されたが、4カ所目以降でようやく受け入れられた人が25人いた。

こういう統計データと個々の事例について答弁を消防局が行なったと考えます。報道機関によっては、2歳女児の件だけを消防局がわざわざ発表したように受けとれるところもありますが、実はそうではなく、搬送紹介回数が多く、搬送が長時間化したものの例として消防局が紹介したと考えた方が良さそうです。マスコミにとって初耳だったので飛びついたと考えたらよいのでしょうか。

ただそれにしては札幌の市議会とは言え報道各社が飛びつき、なおかつ各社ともに独自の記事を書いているのが少々気になります。さらに個別例の紹介しては詳しすぎる面もありますから、報道各社が取材に来るような理由があったのかもしれません。それ以上はこれだけの情報では何とも言えません。


次に2歳女児は硬膜下血腫を起したのは間違いないと考えられますが、どういう機序で硬膜下血腫を起したかです。これがどうにもハッキリしません。各社の情報を拾ってみると。

報道機関 内容
時事通信 頭を強く打って意識不明となった女児
Asahi.com 頭部を強打したとみられる市内の女児
MSN産経 女児は自宅で頭を打ったことによるとみられる
タブロイド紙 女児が自宅で下半身をけいれんさせた状態で倒れ、意識不明の重体だった
北海道新聞 午後八時台に自宅で女児が倒れたと119番通報があった


ならべて見ると分かりやすいのですが、時事通信は「頭を強く打って」と断言していますが、これはあくまでも推測ではないかと考えられます。真相は救急車が駆けつけると痙攣状態の女児を確認したではないかと思われます。なぜ「頭を強く打って」の話になったかと考えると、結果として硬膜下血腫があったため、硬膜下血腫が起こるには頭を強く打つ必要があるためと推測します。

もう少し推測を進めると、救急隊は女児が痙攣し意識が消失している事は確認したものの、搬送に際して「どういう理由」でそういう状態になっているかの判断が出来ていなかったかと考えます。「どういう理由」とは、頭を強打しての痙攣と意識消失なら、救急隊でなくとも脳出血を頭に思い浮かべるはずです。そういう情報が無く「痙攣を起しての意識消失」だけであっためため、これは3社が伝えていますが、

報道機関 内容
時事通信 市消防局は「夜間で、小児科と脳外科が複合した難しいケースだった」
タブロイド紙 市消防局は「女児の症状は脳外科と小児科の複合した難しいケース。病院側の事情があったのではないか」
北海道新聞 市消防局は「脳外科と小児科が複合した難しいケースだったため受け入れ拒否が相次いだ」


3社に共通しているフレーズとして、
    脳外科と小児科の複合した難しいケース
これは2歳児であるために小児科も脳外科もある病院を探すという「難しい」もありますが、救急隊が女児の状態を脳出血の可能性が高いと判断できていなかった可能性も含むと考えます。つまり痙攣の判断をてんかんなどの痙攣疾患によるものと考えていた可能性です。これは「頭を強打した」の情報が無いと無理からぬところと考えます。

何故に「頭を打って」などの理由が家族から確認できなかったかは少々謎なのですが、ここは2歳女児を夜の8時に家族が発見したときには、既に痙攣を起こしており、家族さえ「頭を打って」を確認できていなかったとするしかありません。2歳女児とは言え、硬膜下血腫が発生するほどの頭部打撲は相当強くなければ起こりにくいのが一般的なのですが、こればっかりは転倒時などのタイミングの悪さなどの複合要因が重なってとぐらいにしか言い様がありません。


救急隊が脳出血を必ずしも疑っていなかった傍証がいくつかあります。北海道新聞ですが、

救急隊は症状から脳疾患系の病気の可能性もあると判断

脳疾患とは広く取れる表現ですが、脳出血ではなくてんかん系の疾患の可能性を考えたのだと思われます。さらにこれはタブロイド紙が報じていますが、

最初の小児科は「初診で診られない」と断られ、別の小児科は脳疾患の疑いがあるせいか「専門外」とされた

てんかんの診断治療は、小児科医であれば誰でも行なえるものではありません。ある程度の神経内科のトレーニングがないと正直なところ尻込みします。熱性痙攣程度なら受け入れますが、かなり重症の様子であれば安易に引き受けられないものです。それでも病院であれば受け入れてもよさそうなものですが、あくまでも記事からのニュアンスですが、救急隊が搬送先照会をした医療機関が必ずしも病院でない感触もあります。

ただしこれはあくまでも感触です。根拠と言うほどのことは無いのですが、報道機関によって「病院」と「医療機関」の表現がばらついているからです。マスコミは字数制限の制約がきついので、病院であるのに2倍の文字数が必要な「医療機関」はあまり使わないような気がしたからです。もっとも北海道新聞では「11病院」と見出しで言い切っていますが、病院かどうかについては情報不足で確認できません。

この搬送事案ではまず4ヵ所で受け入れ不能とされ、5ヶ所目でまず受け入れの返事が出たようです。そうなれば4ヶ所が受け入れ不能とされたのですが、救急隊が搬送先照会を行なった最初の2ヶ所は小児科であったと考えられます。残り2ヶ所ですが1ヵ所は北海道新聞

脳神経外科医療機関は「小児科は無理」

こうありますが、もう1ヵ所はよくわかりません。がんばって推測すれば北海道新聞に、

各病院が受け入れを断った理由は「専門外」が五医療機関、「処置困難」が二機関、「ほかの患者の処置中」が二機関、「満床のため」「初診のため」が各一機関だった。

受け入れ不能理由は足すと11医療機関になります。最初の小児科が「初診のため」とありますから、これも北海道新聞の、

小児科の医療機関は「当番医に行ってほしい」

これはもしかすると「初診のため」ではない「処置困難」ないし「専門外」の別の小児科の可能性も出てきます。そうなると救急隊の最初の4ヶ所のうち3ヶ所が小児科であった可能性も出てきます。ただしかなり無理があり、これはもっと素直に「初診でもあり、当番医に行って欲しいの」であったとも考えます。この点は情報不足により保留としておきます。

ところで「当番医に行ってほしい」ですが、救急隊が駆けつけたのは夜の8時です。そうなると最初に搬送先紹介を行った医療機関は当番医でない小児科であった事になります。この当番医と言うのがよく分かりません。よくわからないと言うのは、あくまでも調べた範囲ですが、札幌市では平日の小児の一次救急は夜間急病センターしかなく、当番医による輪番も土曜午後と日曜休日だけで、それも午後5時には終了します。これは札幌市健康衛生情報でも確認できます。平日であれ、土曜であれ、日曜休日であれ午後8時であれば「当番医」がどうもいない様な気がするのです。

5ヶ所目になって照会を受け入れた医療機関があったのですが、

報道機関 内容
Asahi.com 5カ所目の小児科が引き受けた
MSN産経 5カ所目の小児科医療機関
タブロイド紙 5カ所目の小児科の当番病院
北海道新聞 五カ所目の小児科医療機関


ここも小児科であり、5ヶ所のうち少なくとも3ヶ所が小児科であった事が確認できます。これだけ小児科に偏って搬送先を捜したという事は、救急隊の判断が脳出血ではないてんかんなどの脳疾患であったと考えて良い傍証になるかと思われます。


ここまでの経過を簡単にまとめると

  1. 救急隊は2歳女児が痙攣状態であったのを認めたが、頭部打撲の情報が無く、てんかんなどの痙攣の可能性を考えた
  2. てんかんなどの脳疾患による痙攣ならば小児科への搬送が適切と考えた
  3. そのため小児科中心の搬送先探しが行われ、最初の搬送先まで5ヵ所のうち少なくとも3ヶ所が小児科になっている
  4. 救急隊が断られた小児科医療機関は当番医もしくは当番病院でなかった可能性がある
最後の「当番医」もしくは「当番病院」については、診療所による当番医は夜の8時には制度的にどうも存在していなそうなのは確認できます。当番病院については二次小児輪番病院になりますが、3ヶ所のうち1ヶ所が「当番医に行ってほしい」ですからこれは当番病院ではありません。もう1ヵ所は「専門外」ですが、これが二次小児輪番病院であったのにそういう発言をするのか少々疑問です。

神経内科の経験が薄ければ小児科医でも尻込みするのは上記しましたが、二次輪番であればとりあえず受け入れると私は考えます。一晩ぐらいなら経験が薄めでもなんとかしのげますから、翌日なりに神経内科の診断治療が可能な病院に転院させる選択枝はあるからです。ですから断ったのは当番病院でない医療機関への照会であって、当直の小児科医が自信がなかったので受け入れなかった可能性を考えます。

それとかなり危険ですがタブロイド紙情報では5ヵ所目は「小児科の当番病院」となっています。これを信じればですが、調べる限りでは札幌の二次小児輪番制度の整備は遅く、平成14年時点でも制度の必要性の検討会が行なわれています。平成19年度時点で二次救急輪番に参加している札幌圏の病院は12ヶ所で、

市立札幌病院、札幌厚生病院、NTT東日本札幌病院、天使病院、札幌徳洲会病院、札幌北楡病院、動医協札幌病院、札幌社会保険総合病院、北海道社会保険病院、KKR札幌医療センター、国立病院機構西札幌病院手稲渓仁会病院

さらに平成20年4月1日時点での札幌市の救急医療体制は、第二次救急医療体制としての小児科は1ヶ所となっています。しつこいですがタブロイド紙情報を信じれば5ヵ所目にしてようやく二次輪番病院に打診した事になります。地理的な問題もあったかもしれませんが、少々遠回りの感じがしないでもありません。

何が言いたいかですが、救急隊が脳出血でないてんかんなどの痙攣を考えたとしても、おそらく痙攣は長時間続いていた可能性が高く、そうであれば入院の上、診断治療の必要性があるの判断があったかどうかです。救急隊は全診療科の全年齢層の患者の判断を求められますから、どうしても判断が疎漏な部分が出てくるのは許容範囲としなければなりませんが、成人であっても同様の状態であれば入院治療を前提に判断されると考えます。

そうであれば救急隊の搬送先の選択は必然として二次小児輪番病院にならないかと言うことです。それに対し救急隊が選択した病院は「どうやら」ですが、

  • 「初診だから、当番医に行って欲しい」小児科医医療機関
  • 小児科の無い脳外科医療機関
  • 「脳疾患は専門外」とした小児医療機関
  • 不明
二次輪番以外の医療機関に対し搬送照会を行っていた事になります。先ほど5ヵ所目の二次輪番病院のに地理的な問題があるかもとしましたが、今回の搬送の経過は、
  1. まず救急隊が4ヶ所の受け入れが不能と分かる
  2. 5ヵ所目に搬送
  3. そこから救急司令部も参加して、8ヵ所救急照会
  4. 5ヵ所目から13ヶ所目に搬送
  5. 総搬送時間は67分
札幌の地理に暗いので何とも言えませんが、5ヵ所目はそんなに遠い場所に存在していたかが情報不足でわかりません。それとタブロイド紙によれば当番病院であるはずの5ヵ所目の小児科のある病院の対応がやや不可解です。

報道機関 内容
Asahi.com 引き受けたものの、容体が悪化。脳神経外科に転送しようとした
MSN産経 いったん受け入れを決めたが、容体が悪化し断念
タブロイド紙 いったん「受け入れ可能」となったが搬送途中で容体が悪化。「脳外科は専門外」と断られた
北海道新聞 搬送されたが、瞳孔の左右の大きさが変わるなど容体が悪化。同機関で対応できなかった


これってどこまで診察したのでしょうか。救急外来まで運び込んで診察したのか、救急車に乗り込んで診察して「無理だ」としたかです。見た目の症状が悪化していたのだけは想像がつきますが、どうも即座に「無理だ」ないし「脳出血だ」の判断を行ない救急車に押し返したような経緯に読めます。そうでないと搬送を終えた救急隊は早々に帰還します。そういう判断自体は問題ないのですが、ひょっとしたらここが夜間急病センターであった可能性も考えます。

これは病院の事情により異なるので何とも言えないところですが、二次救急輪番病院なら脳外科医を呼び出して治療するという選択もあったはずですから、その選択を全く考慮する余地がない判断だったと言う事になります。この経緯なら自院の脳外科医による治療はまったく考えていないことになります。もっとも脳外科の無い病院であった可能性も否定できませんが、二次輪番クラスで小児科はあっても脳外科はないは少々珍しいと考えるからです。

それとこれは地域や病院の慣習により異なるのでしょうが、二次小児輪番病院であるなら、とりあえず受け入れてしまうと考えます。その上で最低限CT検査でも行いながら、自院での治療が無理そうなら三次医療機関に連絡を取ろうとするケースが多いと思います。ほとんど門前払いに近いような状態で追い返すのは少々考え難いところです。

これが夜間救急センターであるなら可能性は有ります。5ヵ所目ですから時刻的には午後8時30分頃と推測されます。そうなれば忙しいでしょうから、そういう手配を行なう余裕が無いので、脳出血の可能性が高いから救急隊で探してくれとしても、それほど不思議はありません。ただ夜間救急センターのシステムは札幌市小児科医会の夜間急病センターには、

夜間急病センターに症状が重い患者さんが来た時は?

  1. 救急二次医療機関(輪番制)
  2. 市立札幌病院救命救急センター
  3. 札幌医科大学救急集中治療部
  4. 国立札幌病院救命救急センター

などにお願いしております。

こうなっていますから、どうにも話が良く見えません。夜間急病センターと言えば、ここは1日入院は可能となっていますから、救急隊の搬送先の選択としてあがらなかったのかも不思議といえば不思議です。まさか夜間救急センターも最初の4ヶ所の受け入れ不能とした医療機関に含まれているのでしょうか、それとも夜間急病センターには救急車による搬送は一次施設だから行わないになっているのでしょうか。

救急隊が一次施設では無理な病状と判断したとの考え方もありますが、それなら二次小児輪番にどれほどの優先度で搬送先紹介を行ったのかに疑問が残ります。情報不足もありますが、どうにもこうにも5ヵ所目に行き着くまでの経緯は真相の推測が難しいものに感じます。


それと、とにもかくにも、5ヵ所目でようやく「脳出血」の可能性を告げられた救急隊は、そこから小児の脳外科手術が可能な病院を探す事になったかと思われます。そこから8ヵ所目の医療機関で搬送先確保に成功したのですが、2歳の女児の脳出血の治療先を探すのに、これも札幌とは言え7ヶ所(8ヵ所目は7ヶ所のどこかと重複)を要しています。

7ヶ所に含まれるところとしては札幌市の救急医療体制にあるのですが、三次救急はまず含まれると考えます。小児の受け入れもOKとなているのは、

三次救急には国立病院機構北海道がんセンターもあるのですが、小児救急は受け入れないとなっています。実際は照会した可能性も否定できませんが、とりあえず4ヵ所が候補に上がります。残り3ヶ所は当番日以外の二次救急病院であると考えるのが妥当ですが、ここで仮に最初の5ヶ所のうち脳外科病院である事が確認できる以外の3ヶ所も二次救急病院だとすれば、12ヶ所のうち6ヶ所に搬送照会した事になります。

考えようによっては札幌の小児の時間外緊急入院が出来るのは二次救急病院12ヶ所、三次救急病院4ヶ所の計16ヶ所であるとも言えます。今回は2歳女児の硬膜下血腫と言う重症かつ稀な病態です。成人の硬膜下血腫も重症ですが、2歳女児の硬膜下血腫は治療可能な病院の選択枝がさらに狭くなります。16ヶ所のうち、そもそも治療可能な病院が幾つあったかは重要なポイントと考えます。


それと最後に引き受けた病院は相当危ない橋を渡っています。これは北海道新聞ですが、

いったんは断った市内の総合病院に収容された

この総合病院は女児受け入れに非常な努力を重ねたと考えられます。最初の照会からなんとか受け入れられるように、あれこれ手配を行なった結果が受け入れにつながったと思いますが、一度断って次に引き受けた病院が、もし結果不良であるならどれだけのバッシングの嵐が来るかは枚挙に暇がありません。それだけのリスクを冒してまで敢然と引き受けた勇気を称賛します。


最後は各社の取材振りです。記事内容の殆んどは札幌市議会の予算特別委員会の質疑応答で可能ですが、肝心の女児のその後です。

報道機関 内容
時事通信 記載なし
Asahi.com 幸い入院後は快方に向かったという
MSN産経 搬送後の女児の容体は不明という
タブロイド紙 記載なし
北海道新聞 女児は病院到着時点では生存していたが、市消防局はその後の容体を把握していないとしている


あくまでも「どうも」なんですが、市議会の消防局の答弁では女児の予後についての情報は無かったと考えるのが妥当のようです。ところがAsahi.comは追加取材で女児の予後の情報を得た可能性を考えます。もっとも聞き違いとか、不確実な情報に基づく可能性も否定できませんが、Asahi.comの見出しが、

札幌 救急搬送 13カ所たらい回しも

なかなかのものですから、ここは好意的に考えて予後は悪くなかったとしておきたいと思います。少しぐらいは救いがないとやってられません。それにしてもこれだけ情報が少ないと、少々努力しても全体像を推測するのは難しいのだけは実感しました。


蛇足ですがこういう事柄にも総括が必要かと思います。つまり今回の事案が例外なのか、そうでないのかの総括です。2歳女児の硬膜下血腫が治療できる医療機関の選択枝の狭いものであったがための例外的事象ととらえるか、それとも2歳女児の硬膜下血腫と言えども、搬送紹介は必ず一度で適切な医療機関に入院できなくてはならないのかです。この捉え方によって今後の対策が変わります。

また仮に「たらい回し」撲滅対策としても視点の置き方で変わり、

  1. 救急隊の探し方が拙い
  2. 病院が根性出さないから悪い
  3. 医療戦力に余裕が無いから整備拡充に努める
正論は3.かと思うのですが、マスコミ論調は2.に大きく傾いていますし、行政の対策はどちらかと言えば1.に傾いています。1.とか2.の対策はどう見ても姑息策にしか思えないのですが、類似の案件がいくら出現してもマスコミの論調は常に2.で不動の印象があります。まあ、そういう対策にしておけば医療費の増大は防げますし、当事者である病院は余り反論しないので一番ラクかもしれません。これは行政も本音は同じではないかと感じています。