福山の小児救急を淡々と

6/19付中国新聞より、

福山の小児2次救急 患者受け入れ日削減
保護者 広がる不安

■月3、4日 市外に搬送 輪番医師の確保進まず

 福山市の小児2次救急病院が3月、毎日だった患者の受け入れ日を減らした。月3、4日は市外の病院に頼る事態が続いている。医師不足や軽症患者の集中などが要因だ。早期改善の見通しは立っておらず、市内の保護者には緊急時の不安が広がる。

 福山市内では、4病院の医師が1人ずつ輪番で夜間(午後6時〜翌午前8時)と休日を担う。国、県、市は、民間病院には1回当たり計約2万6千円を基準に補助して24時間態勢を整えてきた。小児2次救急病院がない府中市、神石高原町、隣県の井原市笠岡市などからも搬送され、2009年度は計約6500人が受診した。

 輪番日は市と4病院が協議して割り振る。4月以降について協議した際、4病院が「医師が減り、負担の限界だ」などと訴え、日数削減が決まった。

 市によると、09年度に計17人だった輪番担当の医師は現在、計13人。退職や高齢化で医師が減り、新たな確保が進まない。ある輪番病院は「宿直1回の来院患者は約20人。看護師を含めて昨年は1人当たり月3回の宿直もあり、負担が増した」と明かす。

 ▽「約8割が軽症」

 共働き家庭の拡大に伴って夜間来院も増えた。別の輪番病院は、「約8割が軽症患者。医師は仮眠できず相当疲弊する」という。

 市は本年度、非常勤医師の手当を4病院の最高額にそろえる助成制度を新設。年24回の派遣分の178万円を予算化したが、「全国的な医師不足で派遣医師は決まっていない」(市保健部)という。

 ▽ぎりぎりの状態

 福山市内の病院が患者を受け入れない「空白日」は、主に尾道市内の病院へ患者を搬送する。この病院は小児科医師7人がおり、当直は1人でこなす。ただこの病院も「重症患者が相次いで非番の医師を何人か呼ぶ場合もある。余裕はない」とぎりぎりの状態だ。福山市から岡山県内に搬送したケースもある。

 2歳と0歳の2児を持つ福山市横尾の主婦岡崎ともこさん(34)は「病院が遠いと、いざというとき不安」と顔を曇らせる。子育てを支援する同市神辺町NPO法人こどもステーションの奥野しのぶ理事長(48)は「軽症なら経過を家庭で見守る市民側の意識も大事だが、医師確保も急いでほしい」と求める。

 市は5月、改善に向けて県や府中市、市医師会などと協議会を設けた。医師増員▽軽症患者の来院抑制▽病院への補助拡充―などが課題に挙がっている。市保健部の佐藤雅宏総務課長は「現状を把握して、中長期的な改善策を考えたい」と話している。(水川恭輔)

福山二次医療圏

福山市を含む二次医療圏は福山市府中市、神石高原町を含む領域を指すようで、圏内人口は約50万人、そのうち約9割を福山市が占めます。記事はそんな福山の小児救急医療体制の危機を伝えています。

    福山市内では、4病院の医師が1人ずつ輪番で夜間(午後6時〜翌午前8時)と休日を担う。
この4病院が具体的にどこになるかですが、ひろしまみたいもん.netによりますと、紅十字会 総合病院三愛、国立福山病院、福山市民病院、日本鋼管福山病院の名が挙げられています。ただなんですが広島県保健医療計画(第五次改正版)について第7章ー2福山・府中二次保健医療圏によりますと、

初期救急医療機関として福山市医師会が運営する福山夜間小児診療所があります。二次救急医療は小児救急病院群輪番制病院(5医療機関)が担っています

ここの「5医療機関」は福山市ではなく二次医療圏全体を指しますから、府中総合病院とか府中北市民病院も含んでのものかもしれません。ただこのデータも少々古そうな感じもありましてたぶん広島県の資料だと思うのですが二次救急救急医療機関として、

福山市

府中市、神石高原町

これは二次救急病院のすべてですから、この中の4つ(ないし5つ)の医療機関が小児二次救急を担当しているとしても良さそうです。


緊急避難的措置

広島県保健医療計画は、

第五次医療法の改正(平成18年6月)により,新たな医療計画制度が平成20年度から全国一斉にスタートすることになった

2008年に施行されていますが、この時の福山二次医療圏に対する「施策」は、

[小児救急医療体制の充実]

  • 小児救急医療については、福山小児夜間診療所(初期救急)及び小児救急病院群輪番制病院(二次救急)を中心に、休日・夜間の診療体制の充実を図ります。
  • 入院医療を24時間365日対応できる機能を持たせた「連携強化病院」とこの病院を構築するために協力する複数の「連携病院」を中心とした休日・夜間の診療体制の再構築について検討します。また、中山間地域の小児救急医療について各地区医師会で検討を行い、小児救急医療体制を推進します。

それにしても「連携強化病院」とか「連携病院」の言葉が生きているとは驚きました。この言葉を取り上げたのは2005年まで遡ります。当時の読売記事によれば基本方針は、

責任が行政にあることを初めて明確にしたうえで、重症対応と軽症対応を2種類の病院で分担する体制をつくるよう、都道府県に求める。病院が遠くなることもあるが、重症患者は確実に小児科医に診てもらえるようになり、たらい回しも防止される。同省は、9日の都道府県小児救急担当主管課長会議で、基本方針を通知する。

でもって、もうちょっと具体的は、

 基本方針によると、都道府県は、拠点病院として、原則として重症患者に対応する「連携強化病院」と、軽症患者の診療を支援する「連携病院」を、公立病院から指定できる。

 「強化病院」には医師3人以上(目標は4人)を配置し、「連携病院」の医師は、医師会などの運営で軽症患者を診ている夜間急患診療所の応援に出向く。夜間診療所は、現状では大半が午前0時前に閉まってしまうが、実現すれば、風邪、下痢など軽症の患者でも24時間受診でき、肺炎などで入院の必要がある重症の場合は強化病院で専門医の治療を受けられるようになる。

2005年の記事時点では連携病院なり連携強化病院は公立病院を指名となっていましたが、2008年の広島県医療計画では私立病院でも指定できる様に定義が広がっているのかもしれません。ま、当時の事とは言え基本構想が、

    実現すれば、風邪、下痢など軽症の患者でも24時間受診でき
そういう構想の影響は、広島県の医療計画に濃厚に反映されている様に感じます。もう一つ福山小児夜間診療所はこちらの資料によりますと2000年4月にオープンし、おそらく2008年度実績と推測しますが年間13298人、1日当たり36.4人となっています。


幾つか資料を漁ってみましたが、広島県も能天気に24時間365日の小児科コンビニ救急が実現するとは必ずしも考えていないようで、医療計画の第6章 機能分化と連携を推進する医療体制には課題として、

既存の地域の小児科診療体制は可能な限り維持すべきではありますが、病院の小児科の医師への負担が余りに過重になっている状況の中で、少人数体制での入院医療及び夜間休日の時間外診療の提供を継続することは、長期的に見ても好ましいものではありません。放置すれば地域の小児医療の全面的な崩壊を招く危険性をはらんでおり、早急な対応が必要です。

ほぉ、なかなか判っていると思ったのですが、課題を踏まえた施策が乙なものです。

病院の小児科の医師確保が困難な状況となる中、安全で、安心できる休日夜間の小児科医療体制を維持していくための緊急避難的措置として、二次医療圏ごとに医療資源の集約化・重点化を図るとともに、地域の小児科医療機関相互の連携体制の強化を図ります。

小児科勤務医の不足は承知しているとして取られたのが、

    緊急避難的措置
これであるのは判るのですが、緊急避難措置の措置の具体的な内容は、

小児科医師不足や医師偏在の問題への緊急避難的対応として、平成17(2005)年12月に、厚生労働省総務省及び文部科学省から、小児科・産科における医療資源の集約化・重点化に関する指針が示されました。

お気づきになられたでしょうか。小児科医の不足に対する緊急避難的な対策とは「連携強化病院」「連携病院」の指定だったわけです。広島県もキッチリこれを受けて問題への処方箋は厚労省のお墨付で出されていたと考えて良さそうです。なんと言っても「緊急避難的措置」ですから、これが功を奏さなければ壊滅敗走的結果となっても不思議ないと言うところです。


調べれば面白いもので、広島県だけでなくおそらく全国どこでも、小児救急の24時間コンビニ体制は国策として推進されていたのが改めて確認できます。それも小児科医が足りない事は十分に承知した上で「安全」「安心」の24時間体制の整備拡充に2008年時点で動いていたとしてよいでしょう。足りない分は緊急避難的措置による対策を行えばバッチリの保証も出ていたと理解できます。

緊急避難的措置を実施した時の約束された成果は、読売記事をもう一度引用しますが、

     「強化病院」には医師3人以上(目標は4人)を配置し、「連携病院」の医師は、医師会などの運営で軽症患者を診ている夜間急患診療所の応援に出向く。夜間診療所は、現状では大半が午前0時前に閉まってしまうが、実現すれば、風邪、下痢など軽症の患者でも24時間受診でき、肺炎などで入院の必要がある重症の場合は強化病院で専門医の治療を受けられるようになる。
実に夢のような状況です。各都道府県の計画立案者は厚労省のお墨付の緊急避難的措置を行なえば責任はとりあえず回避されますから、こぞって計画に組み入れ、結果の収穫を楽しみに待たれたと考えます。


そして福山

緊急避難的措置を行なっても、そうは上手く行かなかったのは現実で、福山市でも小児科医の不足の危機に直面する様になります。これは中国新聞記事からですが、

    市によると、09年度に計17人だった輪番担当の医師は現在、計13人。退職や高齢化で医師が減り、新たな確保が進まない。
2009年末にには広島大小児科医局の大量辞職報道がありました。広島県の東部地域の医師派遣は岡山大の影響も濃いとされますが、仮に福山の小児科勤務医が岡山大の影響で減少していたとしても、広島大に応援を求めても無い袖は振れない状態となります。少しだけ苦笑したのは、
    市は本年度、非常勤医師の手当を4病院の最高額にそろえる助成制度を新設。年24回の派遣分の178万円を予算化した
これについてのもう少し詳しい記事が3/17付中国新聞にあり、

 福山市は2011年度、市内に4カ所ある小児2次救急病院に非常勤医師を招き入れるため、交通費など病院ごとに異なる手当の差額を補填(ほてん)する制度を設ける。大学病院との派遣交渉を有利に運ぶのが狙い。広島県は「小児2次救急医療に特化して派遣要請するケースは珍しい」としている。

 計画では、医師1人を月に2回程度招く。医師は、必要に応じて4病院のいずれかに勤務。4病院の最高額に合わせた手当を支払う。手当の補填分は年間24回で計178万円を見込む。

 小児2次救急病院は毎日の夜間(午後6時〜翌午前8時)と日曜・祝日に、入院治療が必要な子どもを受け入れている。4病院で計18人の医師が、1人ずつ輪番制で担当している。

 09年度は、井原市笠岡市の患者を含めて計約6500人が受診した。現場では「肉体的な負担が大きい」など業務の緩和を求める声が絶えない。このため、大学病院から定期的に医師派遣を受ける手段の一つとして、4病院の手当を最高額にそろえることにした。

 福山市保健部の広田要部長は「現場の負担を減らし、より充実した医療体制を整えたい」と話している。

ちょっと寄り道ですが、福山市中国新聞が報じる小児科医数です。

  • 6/19記事で「09年度に計17人」
  • 6/19記事で「現在、計13人」
  • 3/17記事で「4病院で計18人の医師」
これは中国新聞記者がどうのこうのと言うより、中国新聞記者が取材した福山市の報道発表が「そうであった」と見なして良いかと考えます。数値の変動の謎は、とくに3/17時では資料が古かったか、それとも常勤・非常勤の数え方に混乱があったかぐらいは推測できます。寄り道はこれぐらいにしておきます。

話は戻って福山市の非常勤医への対策です。これもよく読めば珍妙で、178万円で24回分の手当の補充となっています。1回分あたり7万4000円ぐらいなんですが、笑いどころは

    4病院の最高額に合わせた手当を支払う
交通費コミのようなんですが、これでわかる事は最高額を支払っている病院には補填は当然行なわれません。補填が行われるのは残り3病院に対してのものになるのですが、最低額のところはいったい幾らだったんだろうです。4病院が公平に非常勤医師が分配されたとして、1病院あたり6回ずつです。最高額の病院には補填はありませんから、残り18回の平均補填額は約10万円です。まさかと思うのですが、最低額の病院は、
    国、県、市は、民間病院には1回当たり計約2万6千円を基準に補助
これですべてだったんじゃないかの疑念も出てきそうなところです。なんと言っても「当直」ですし。もっとも約2万6000円は「民間病院には」となっていますから、公立病院には出ていなかった事になります。常識的に考えて、非常勤手当が「公立 > 私立」はチト考え難いので、おそらく最高額は補助金も加えての私立病院で、最低額は補助金も無い公立病院である可能性が高いと推測します。それでもってその差は最低でも10万円ぐらいはあったと考えるのが妥当と思われます。

ま、きっと今まではさしたる問題とされていなかったとのだと推測させて頂きます。種々の対策により、福山の小児救急体制が一日も早く建て直される事を祈っておきます。