広島大小児科医師、年度末に10人辞職 「体力もたぬ」
広島大学病院小児科医局の医師10人が今年度末で辞職することが、広大への取材でわかった。ほかに、昨年9月からすでに2人が辞職し、今年4月以降も1人が辞める見込み。4月に後期研修医7人が入局するが、同医局がこれまで通りに地域の各病院に医師を派遣するのは困難で、小児医療が十分提供されなくなるおそれがある。
広大によると、同医局には約120人の医師がおり、うち約100人が広大病院以外の広島県内の公立と民間の30病院へ派遣され、常勤している。大学病院内で勤務している医師たちも、診療や研究のほかに多い人で1カ月に9回は広大以外の病院で非常勤として働き、うち3回は当直をこなしている。
3月末で辞職するのは、広島市立舟入病院(広島市)や呉共済病院(呉市)に派遣されている医師ら8人と、広大病院内で勤務する2人。辞職する医師たちのほか、昨秋から今年度末までに3人の医師が出産にともなう休暇に入る。このため4月以降は各病院への派遣体制を見直さざるを得なくなり、入院機能を維持できずに、外来のみとなる病院が出てくる可能性もある。
呉共済病院では、4人の小児科医のうち広大からの1人が年度末に退職するため、市内の3病院で実施している夜間救急輪番制のあり方を見直すよう関係機関に求めているという。
13人の辞職理由は「県外の医療機関に赴任する」5人、「開業する」4人、「家庭の都合」2人、「眼科医になる」1人などだが、多くが「疲れた。体力が持たない」と述べているという。小児科は夜間に診療を希望する患者が多く、他科より勤務がハードだとされる。
医師の大学病院離れの背景には、04年に始まった国の新臨床研修制度がある。制度によって、新人医師は大学の医局を経ずに自らの意思で全国どこの病院でも研修先に選べるようになった。大学病院の医局に入ると中山間地域へ派遣されることなどを理由として、都市部の民間病院に人気が集中。大学病院で研修する割合は新制度実施前の7割から半分以下に減少した。地域医療を担う大学の医局は、従来通りの派遣機能を維持することが難しくなり、急な人員減にも対応できなくなっている。
広大の小林正夫教授(小児科学)は「大学病院以外の病院にも地域の病院への派遣機能を持ってもらわないと、地域医療は破綻(はたん)する」と話している。(辻外記子)
今日の取り上げ方は天漢日乗様の小児科医療崩壊 「スパルタクスの叛乱」か? 広島大学医学部でこの3月末でに小児科医10人辞職3人が産休 すでに9月以降2人が辞職、1人が4月以降に辞職予定の切り口を参考にしましたので、似ているところは多々あると思います。
辞職された小児科医の累計は、
- 昨年9月から今までに既に2人退職
- 今年度末に10人退職
- 今年4月以降に1人退職
- 退職ではないが産休に入るものが3人
4月に後期研修医7人が入局
差し引きは人数的には6人減ですが、実質はもっと大きいと言うところでしょうか。ところで年度末に10人が退職する病院ですが、
10人のうち2人が広島大病院ですから残り8人が舟入病院か呉共済病院になります。人数の割り振りがどうなのかも記事にあり、
呉共済病院では、4人の小児科医のうち広大からの1人が年度末に退職
つまり年度末で退職される小児科医10人の内訳は、
病院名 | 退職医師数 |
広島市立舟入病院 | 7名 |
呉共済病院 | 1名 |
広島大病院 | 2名 |
こりゃ、「広島大小児科医師の大量辞職」と言うより「広島市立舟入病院の小児科医大量辞職」とした方がより的確な気がします。しかし7人も辞めるだけ舟入病院に小児科医がよくいたと素直にまず感じます。広島大小児科医局は
医局には約120人の医師がおり、うち約100人が広大病院以外の広島県内の公立と民間の30病院へ派遣
約100人が30の病院に派遣されているわけですから、単純平均で病院あたり3〜4人ですから、舟入病院だけで7人も辞める人数がいるとはちょっと驚きます。ではでは現在舟入病院にどれほどの小児科医が在籍されているかと言うと、広島市立舟入病院HP(新版)の小児科医の紹介で確認できます。 氏名は省略しますが、
専門分野 | 人数 |
神経・けいれん | 1名 |
喘息・アレルギー | 3名 |
循環器 | 1名 |
内分泌・夜尿症 | 1名 |
一般小児科 | 5名 |
計 | 11名 |
なるほど11名もおられれば7名退職は可能なわけです。ところでこの舟入病院の診療科構成も興味深いもので、
- 内科(8名)
- 小児科(11名)
- 外科・小児外科(5名)
- 小児心療科(2名)
- 小児皮膚科(非常勤)
- ペインクリニック(2名)
広島市立舟入病院は、衛生局舟入病院を経て、社会局広島市立舟入病院、更に病院事業局広島市立舟入病院と変遷する間、常に内科、小児科の夜間、休日診療で市民に知られて参りました。しかし、最近の医療環境の変化に伴い、内科夜間、休日診療が広島市民病院に移管されてから病院の状況も変化し、病院としての生き残りをかけて新しい対応を求められています。
病院経営の基幹である内科では、平成18年12月、本院で長年続けられてきた成人の夜間、休日診療が廃止され、平日昼の外来診療に力を注ぐことになりました。ただし、平日午後6時から午後9時までは、通常の診療時間帯では受診が難しい勤労者、学生等を対象として診療を行っています。また、呼吸器、消化器、血液、循環器では優秀なスタッフを揃えており、これらの外来、入院診療にはこれまで以上に力を注ぐ方針です。
どうもなんですが、広島市の内科・小児科の休日夜間救急の拠点病院として位置付けられてきた病院と思われます。もともとは内科も小児科も休日夜間救急を行なっていたようですが、内科は
平成18年12月、本院で長年続けられてきた成人の夜間、休日診療が廃止
もっとも内科については
内科夜間、休日診療が広島市民病院に移管
そういう経緯もあるようですから、現在は小児科の休日夜間救急が主体となっていると考えても良さそうです。だからこそ11人も小児科医がいるのでしょうが、どれぐらいの休日夜間救急を担当しているかになります。外来診療表を御覧下さい。
■小児科
小児救急拠点医療施設として、全日、急患対応をしています。
大変混雑していますので、軽症患者さんは、できるだけ、かかりつけ医や日曜・休日在宅当番医に受診してください。
こりゃどうも24時間365日の救急対応をされていると判断して良さそうです。それもわざわざ
-
大変混雑していますので
- 在宅当番医(午前9時〜午後6時)
- 広島市医師会運営・安芸市民病院(土曜日:午前8時30分〜正午、午後1時〜午後3時30分)
- 広島市立安佐市民病院(日曜日夜間のみ:午後6時〜午後10時)
平成20年6月から、土・祝休日の夜間は休止となりました。
こういう現状なら舟入病院に小児の時間外が殺到するのは構造的に頷けます。それでももってどれほどの「大混雑」なのかを統計で見てみます。
年度 | 救急1日平均 | 年間延べ数 |
平成15年度 | 187.8 | 47703 |
平成16年度 | 204.2 | 50688 |
平成17年度 | 201.7 | 48823 |
平成18年度 | 206.2 | 49210 |
平成19年度 | 193.4 | 45535 |
年間延べ数と一日あたり人数の算数がどうもあわないのですが、救急1日あたり約200人の受診があると書いてあります。これも概算してみたのですが、休日を1日、平日を半日にするとやや近い数字になるので、そんな計算かもしれませんが、それでも休日に200人、平日夜間に100人はちょっと眩暈がしそうな数字です。またこの病院の統計には年末年始4日間の集計と言うのもあって、平成19年度分だけ示しますが、
-
年末年始4日間の救急患者総数:1658、1日平均:414.5
平日夜勤100人は1時間当たり6.3人ですから年末年始の1/4程ですが、これだって1人で担当せよと言われたらかなり無茶なところがあります。現実的に最低2人はいないとパンクすると考えます。言うまでもないことですが、広島市の小児の二次救急をほぼ舟入病院だけで背負っているわけですから、手のかかる処置が必要な患者も出てきますし、入院が必要な患者も出てきます。小児科の入院患者も年間平均で常に30人程度はいますから、そちらへの対応も必要です。
11人いるとは言え、この時間外受診にどういう体制で臨んでいるのかは病院HPからはわかりません。もっともヒントはあって医員または後期臨床研修医募集(小児科・小児外科)の小児科の勤務時間のところに、
1日6時間 週30時間
小児科:8:30〜15:15、17:00〜23:00
見ればわかるように、午後5時から午後11時の準夜勤の設定があります。おそらくですが当直+準夜勤で2人ないし3人の体制を組み、準夜勤帯終了後はその日の状況により準夜勤者が居残り対応しているんじゃないかと考えます。つうか準夜勤者が定刻どおり帰宅できる日がどれほどあるか少々疑問です。
そういう体制がラクかそうでないかの一つの結果が記事の見出しにある
「体力もたぬ」
となって7人の集団辞職につながった考えられるわけです。ここで広島市の小児の一次救急・二次救急での舟入病院の位置付けは非常に重要です。辞職したからといって「救急やめます」と言い難い病院です。そうなれば広島大小児科医局もやりくり算段して小児科医を派遣せざるを得なくなるのですが、辞職した7人を補充するだけで話は終わるかが問題です。こういう病院は当然の事ながら広島大小児科医局員も周知の病院であり、「7人辞職」「7人補充」では補充した医師の来年度の大量辞職の引き金になりかねません。つまり戦力の逐次投入はさらなる消耗戦を引き起こす危険性があるということです。もちろん他の戦線への手当も欠かせませんから、難しい舵取りが迫られているかもしれません。
ちなみにですが、それだけ頑張って病院の収支は、
-
△2億6243万2662円
◎当院は「病院機能評価」認定病院です。
広島市立舟入病院は「財団法人日本医療機能評価機構」の定める認定基準を達成しているとして、平成18年4月24日付けで認定証が交付されました。(認定第JC929号:認定期間平成18年4月24日〜平成23年4月23日)
認定取得はさぞ大変だったと思います。